文・石川真禧照(自動車生活探険家)

ボルボが日本で知られるようになったのは、4ドアセダンではなく、天井が車体後部まで伸び、荷室が広いステーションワゴンだった。1960年代に入り、生産を開始したステーションワゴンが米国で人気になり、日本にも輸入された。角ばった車体は、北欧製品らしい品質の高さと飾り気のない、それでいて趣味のよい内装が好感を持って受け入れられた。



もうひとつ人気になった理由が安全性能の高さだった。
ボルボ自身、このXC90を評して、「最も安全な車のひとつです」と公言している。その内容は先進のセーフティケージに加え、包括的なアクティブセーフティ機能が装備され、運転者と同乗者だけでなく、周囲の人々の安全を守ってくれる。衝突の危険を回避するために、レーダーと車体前部カメラにより、対向車線への逸脱を検知し、安全に自車線に戻るように車が誘導してくれる。さらにブレーキとハンドルの機能により、他の車両、歩行者、自転車だけでなく、シカやイノシシなど動物との衝突も回避したり、軽減することができるという。






以前、スウェーデン・イエテボリにあるボルボ本社で、技術役員に「なぜボルボは1950年代から安全性能に力を入れているのか」と尋ねたことがある。その時、彼は「北欧は国土の広さの割に人口が少ない。少ない人口を交通事故などで失いたくないから」と車の安全性に関しての意見を教えてくれた。
歴史を振り返っても、ボルボは1959年式の乗用車から三点式シートベルトを世界に先駆けて標準装備した。のちに後席の三点式シートベルトも採用。運転席のヘッドレストやパッドで覆ったダッシュボードの採用など、乗員の保護の観点から積極的に安全装備を展開してきた。同時に車の周囲の安全性も向上させながら、今日まで独自の車づくりを実践している。


最新のボルボは電気自動車にも力を入れているが、より現実的な選択として、エンジンとモーターを搭載し状況に応じて両者を使い分けることのできる、プラグインハイブリッドも積極的に取り組んでいる。
今回試乗した車も燃費効率が良いと言われているミラーサイクルの2.0Lガソリンエンジンとモーターを組み合わせている。サスペンションも車、路面、運転者のそれぞれを1秒間に500回もモニターし、状況を変えるアクティブシャーシを用い、常にもっとも快適な乗り心地を実現している。ファミリーカーとして乗員全員が快適であることを追求していて、特にこのXC90は3列目シートがあるのでその考え方を大切にしている。しかも、3列目シートに追突されたとしても、安全性を確保したことからこの車を実用化したとのことだ。







プラグインハイブリッドのモーターでの走行可能距離は、カタログ上では約73kmだが、これは多くの所有者が通勤や買い物、家族の送り迎えなどの日常使いでのデータを集めた結果という。実際にほとんどの所有者は走行距離の半分以上を電気で走行しているのだそうだ。今回の試乗では100%充電での走行可能距離は60kmと表示されていたが、それでも撮影、試乗期間の数日はモーター走行だったので、意図的にエンジンを始動させ、試乗したほどだった。
控え目だが現代的な北欧のスカンジナビアンデザインに包まれたXC90は、安心感とやさしさを感じさせてくれるSUV。家族を大切にする人たちに乗ってもらいたい1台だ。
ボルボ/XC90 ウルトラT8 AWD プラグインハイブリッド
全長×全幅×全高 | 4955×1960×1775mm |
ホイールベース | 2985mm |
車両重量 | 2300kg |
エンジン/モーター | 直列4気筒ガソリンターボ 1968cc 交流同期×2基 |
最高出力エンジン/モーター | 317ps/6000rpm 前71ps/後146ps |
最大トルクエンジン/モーター | 400Nm/3000~5400rpm 前165Nm/後09Nm |
駆動形式 | 4輪駆動 |
燃料消費量 | 13.3km(WLTC) |
使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/71L |
ミッション形式 | 電子制御 8速自動変速 |
サスペンション形式 | 前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク |
ブレーキ形式 | 前:ディスク/後:ディスク |
乗員定員 | 7名 |
車両価格(税込) | 1294万円 |
問い合わせ先 | 0120-55-8500 |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博