文・石川真禧照(自動車生活探険家)

走行モードは4WD/スポーツ/ノーマル/コンフォート/エコの5モード。
ノーマルモードでも速いが、スポーツはさらに速く快適。コーナーでのロールは初代DSの雰囲気が感じられる。

フランス人の車に対する考え方は、どのようなものなのかを地元の人に聞いたことがある。その時、「生活の一部。道具だよ。」と教えてくれた。そこには豪華さも速さも求めない。人が快適に長い時間運転しても疲れないとか、経済的ということが大切なことだと言っていた。そういうお国柄だからフランス車にはラグジュアリーカーやスポーツカーとは縁のない実用的な大衆車が多い。

もちろん歴史をさかのぼれば、1930年代には世界の潮流に乗り高級車を作るメーカーも存在したが、大半が消滅してしまい復興しなかった。そこがドイツやイタリアとのお国柄の違いだった。そういうお国柄でも、ラグジュアリーカーが欲しいという声はあったようだ。確かにフランスといえば、ファッションや化粧品とかには世界トップレベルのブランドが多くある。高級とか、高価なものに興味がないわけではないようだ。なぜ車にはそれがないのかという声も、特に高級ブランド好きの富豪や貴族から出ても不自然ではない。

その声に応えたのがDSだ。

DSオートモビルが作る車の特徴の1つにライトデザインがある。N°8もヘッドライトは3つのライトユニットとそこに8つのダイヤモンド型LED装飾を配置。デイライトはLEDの縦型V字型。
空気の流れを考慮したボディサイド。リアドアハンドルはCピラーに隠されている。
シンプルなデザインの後ろ姿。ランプは3D LEDを採用。リアウィンドウ用のワイパーは備わっていない。
グリルレスだが、DSエンブレムの左右にはルミナススクリーンを備えて走る。
全長4845mm、全幅1900mm、全高1585mm、ホイールベース2905mmのアッパーミドルSUV。2モーターで前後輪を駆動。
控えめなエンブレム「N°8」でナンバーエイトと読ませるのが、DSの個性か? ボディカラーは5色用意されている。
V字型のデイライト、その上に上下2個ずつのダイヤモンド型LED装飾ランプが計8個光る。

DSブランドは、2009年にプジョー・シトロエングループが立ち上げたラグジュアリーブランドだ。

当初はシトロエンの車をベースにフロントデザインを変えるなど差別化して販売していたが、フランス人の同意が得られたのか、2017年からボディデザインは独自のものを採用し、販売を始めた。ついに2024年には今回のN°8(ナンバーエイトと読む)という最上級モデルを作り上げた。

初代DSの面影も残るインパネ。なんといってもハンドルスポークがXというのがユニーク。握ってみるとメーターの視認性も良いし、違和感はなかった。
インパネ中央のタッチスクリーンは、16インチのワイドスクリーン。スマホのような操作のロジックを採用しウィジェットのカスタマイズも対応。
中央にスピード計が備わるメーター部分。電池の状態も一目でわかる。

なぜ、シトロエンがベースだったのか。それはシトロエンの歴史を知ると理解できる。個性的な車の多いフランス車の中でも、特にシトロエンは独自の存在と言われている。

「avant-garde」と「savoir-faire」、アバンギャルドとサヴォアフェール。日本語に訳すと「前衛的」と「匠の技」を意味するフランス語だ。この二つの単語の拘りがDSブランドの肝と言える。

そもそもDSというブランドは、1955年にシトロエンが発表した車の名称だ。DSが発表されたとき、人々はその姿から「地に降り立った宇宙船」と表現した。それほどまで、当時の車とは別次元だった。

DSがユニークだったのは姿形だけではなかった。室内デザインやメカニズムは前衛的で、匠の技が生かされていた。しかし、それは決して奇をてらったものではなかった。乗り手がいかに快適に長距離旅行、長距離走行を楽にできるかということを、シトロエンの技術者が考えた結果だった。

初代DS

1955年にパリのモーターショーでデビューし、そのスタイリングやメカニズムのユニークさで話題を独占。以降、75年まで基本的にこのスタイリングで、生産された。前輪駆動で、エンジンは2L。セダンのほかに、ステーションワゴンやコンバーチブル、クーペまで造られた。

* * *

そしてその考えは最新のDS N°8にも受け継がれていた。詳細を見てみよう。

パワーユニットはモーターを採用している。音もなく力はある大容量の電池を搭載し、一充電航続距離は750km(WLTPモード)。さらに充電に関しては、急速充電は電池残量が少ない状態から中間域にかけて短時間で済むような設計を実現している。モーターは前後車軸に1基ずつの4輪駆動。エネルギー効率では、シトロエンが参戦しているフォーミラE選手権で得たノウハウ(世界チャンピオンを2回獲得している)を活かし、高効率性と信頼性を両立させている。

モーターは前後車軸に1基ずつ搭載される。リチウム電池の電池容量は97.2kWh。システム馬力は350ps、トルクは509Nmを発生する。ちなみに0→100 km/h加速は実測で5秒台を記録。
ボディ左側のリアフェンダーのところに給電口。200V用と急速充電用、160kW対応の差し込み口が並んでいる。
コラム左右から出ているパドルは、回生モードの調節用。モードは3段階。
シンプルなコンソール。シフトレバーとカップホルダーが備わるだけ。
シフトレバー変速機はオートマチック方式。左右にオーディオのコントローラーがある。

走行性能に関してだが、加速はEVの得意分野だが、静粛性にも磨きをかけている。

ガラスはラミネーテッドガラスで、ボディはドアとボディの間に3つの異なるシーリング層を設け、音の侵入を遮断している。実際にN°8に乗り込みドアを閉めると、外部からの音はその瞬間に遮断され、室内は静寂に包まれ、走り出してもモーターやタイヤノイズが侵入してこない。運転席でも後席のヒソヒソ話が聞こえるほどだ。

ドアハンドルはボディ面と一体化したリトラクタブルタイプ。
ハンドル部分を押すとレバーが飛び出してくる。
アブソリュートコンフォートパッケージを選ぶと、ラミネーテッドパノラミックガラスルーフが装備されるが、最近の日本の酷暑では暑さが室内に伝わってくる。
リアウィンドウにワイパーはないが、デジタルルームミラーがワイドに後方視界を映し、走行安全を確保する。

快適さといえば、座席の座り心地も抜群。前席は身体を包み込むようなヘッドレスト一体型のハイバック形状。高密度フォームなどが、体格や走行状況に応じて身体を適切に支えてくれる。

ヘッドレスト下に装備されていたネックウォーマーは、吹き出す風量が絶妙で運転していて眠くなってしまうぐらい心地よかった。後席は家のソファのような分厚いクッション。オプションのベンチレーションも快適だ。

ハイバック形状のシート。身体へのホールド感が良い。シート、ハンドル、ダッシュボードにタン色のナッパレザーを使用している。
シトロエン初のネックウォーマー。寒い季節には重宝する装備だ。
後席の背もたれもハイバックタイプ。座面も大きく、クッションは分厚い。足元は広く楽。
音響システムは、フランスのハイエンドオーディオブランドFOCAL(フォーカル)社の3Dシステムを採用。14基のスピーカーと高出力アンプが臨場感のある音響効果をもたらしてくれる。
センターコンソール前部分の小物置き場。
リアゲートが大きく開くラゲージスペース。内部の広さだが奥行きは110cm、左右幅99~116cmあり、たっぷりしている。後席の背もたれは6対4で前倒できる。床下には充電ケーブルを押し込めば入る広さのサブトランクが設定されている。

乗り心地に関しては、社名にもなった初代DSが油と窒素ガスを使い、独特の快適性を実現したのを意識したセッティングが施されている。新開発のサスペンションとDSアクティブスキャンサスペンションが、路面状況に応じてダンパーを制御し、乗り心地と走行安定性を両立させているのだ。

常に重めの操舵力と、中速コーナーでゆらっと傾き、そのままクリアしていく走りは、初代DSをイメージさせる。
ただし、コーナリングを楽しむよりは、高速道路のクルージングの方が楽しいし、この車に似合っている。欧州のラグジュアリーカーというとドイツ車に目が行きがちだが、新たに登場したフレンチラグジュアリーも魅力的な車に仕上がっていた。

試乗期間中に自宅の200V、3kWで普通充電を行った。充電10%減(71km走行)で、100%まで5時間と表示された。

パリからニースまでのように、高速道路を長距離移動するのが好きな紳士、淑女に乗ってもらいたいラグジュアリーカーだ。

ホイールは標準は20インチアルミだが、試乗車はオプションでN°8専用に開発された21インチアルミホイールを装着していた。軽量で高強度のホイールはバネ下重量を抑え、乗り心地と走行性能の向上に貢献している。

DS/N°8 エトワール AWD

全長×全幅×全高4845×1900×1585mm
ホイールベース2905mm
車両重量2300kg
モーター交流同期型モーター           
最高出力前:282ps/後:113ps
最大トルク前:343Nm/後:166Nm
駆動形式4輪駆動
一充電走行可能距離750Km
使用電池/容量リチウムイオン電池/97.2kWh    
ミッション形式オートマチック
サスペンション形式前:ストラット式/後:マルチリンク式 
ブレーキ形式前後:ベンチレーテッドディスク
乗車定員5名
車両価格1045万円(消費税込み)※アブソリュートコンフォートパッケージ
問い合わせ先0120-92-6813

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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