文・石川真禧照(自動車生活探険家)

ノーマルモードでも速いが、スポーツはさらに速く快適。コーナーでのロールは初代DSの雰囲気が感じられる。
フランス人の車に対する考え方は、どのようなものなのかを地元の人に聞いたことがある。その時、「生活の一部。道具だよ。」と教えてくれた。そこには豪華さも速さも求めない。人が快適に長い時間運転しても疲れないとか、経済的ということが大切なことだと言っていた。そういうお国柄だからフランス車にはラグジュアリーカーやスポーツカーとは縁のない実用的な大衆車が多い。
もちろん歴史をさかのぼれば、1930年代には世界の潮流に乗り高級車を作るメーカーも存在したが、大半が消滅してしまい復興しなかった。そこがドイツやイタリアとのお国柄の違いだった。そういうお国柄でも、ラグジュアリーカーが欲しいという声はあったようだ。確かにフランスといえば、ファッションや化粧品とかには世界トップレベルのブランドが多くある。高級とか、高価なものに興味がないわけではないようだ。なぜ車にはそれがないのかという声も、特に高級ブランド好きの富豪や貴族から出ても不自然ではない。
その声に応えたのがDSだ。







DSブランドは、2009年にプジョー・シトロエングループが立ち上げたラグジュアリーブランドだ。
当初はシトロエンの車をベースにフロントデザインを変えるなど差別化して販売していたが、フランス人の同意が得られたのか、2017年からボディデザインは独自のものを採用し、販売を始めた。ついに2024年には今回のN°8(ナンバーエイトと読む)という最上級モデルを作り上げた。



なぜ、シトロエンがベースだったのか。それはシトロエンの歴史を知ると理解できる。個性的な車の多いフランス車の中でも、特にシトロエンは独自の存在と言われている。
「avant-garde」と「savoir-faire」、アバンギャルドとサヴォアフェール。日本語に訳すと「前衛的」と「匠の技」を意味するフランス語だ。この二つの単語の拘りがDSブランドの肝と言える。
そもそもDSというブランドは、1955年にシトロエンが発表した車の名称だ。DSが発表されたとき、人々はその姿から「地に降り立った宇宙船」と表現した。それほどまで、当時の車とは別次元だった。
DSがユニークだったのは姿形だけではなかった。室内デザインやメカニズムは前衛的で、匠の技が生かされていた。しかし、それは決して奇をてらったものではなかった。乗り手がいかに快適に長距離旅行、長距離走行を楽にできるかということを、シトロエンの技術者が考えた結果だった。
初代DS



1955年にパリのモーターショーでデビューし、そのスタイリングやメカニズムのユニークさで話題を独占。以降、75年まで基本的にこのスタイリングで、生産された。前輪駆動で、エンジンは2L。セダンのほかに、ステーションワゴンやコンバーチブル、クーペまで造られた。
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そしてその考えは最新のDS N°8にも受け継がれていた。詳細を見てみよう。
パワーユニットはモーターを採用している。音もなく力はある大容量の電池を搭載し、一充電航続距離は750km(WLTPモード)。さらに充電に関しては、急速充電は電池残量が少ない状態から中間域にかけて短時間で済むような設計を実現している。モーターは前後車軸に1基ずつの4輪駆動。エネルギー効率では、シトロエンが参戦しているフォーミラE選手権で得たノウハウ(世界チャンピオンを2回獲得している)を活かし、高効率性と信頼性を両立させている。





走行性能に関してだが、加速はEVの得意分野だが、静粛性にも磨きをかけている。
ガラスはラミネーテッドガラスで、ボディはドアとボディの間に3つの異なるシーリング層を設け、音の侵入を遮断している。実際にN°8に乗り込みドアを閉めると、外部からの音はその瞬間に遮断され、室内は静寂に包まれ、走り出してもモーターやタイヤノイズが侵入してこない。運転席でも後席のヒソヒソ話が聞こえるほどだ。

ハンドル部分を押すとレバーが飛び出してくる。


快適さといえば、座席の座り心地も抜群。前席は身体を包み込むようなヘッドレスト一体型のハイバック形状。高密度フォームなどが、体格や走行状況に応じて身体を適切に支えてくれる。
ヘッドレスト下に装備されていたネックウォーマーは、吹き出す風量が絶妙で運転していて眠くなってしまうぐらい心地よかった。後席は家のソファのような分厚いクッション。オプションのベンチレーションも快適だ。






乗り心地に関しては、社名にもなった初代DSが油と窒素ガスを使い、独特の快適性を実現したのを意識したセッティングが施されている。新開発のサスペンションとDSアクティブスキャンサスペンションが、路面状況に応じてダンパーを制御し、乗り心地と走行安定性を両立させているのだ。
常に重めの操舵力と、中速コーナーでゆらっと傾き、そのままクリアしていく走りは、初代DSをイメージさせる。
ただし、コーナリングを楽しむよりは、高速道路のクルージングの方が楽しいし、この車に似合っている。欧州のラグジュアリーカーというとドイツ車に目が行きがちだが、新たに登場したフレンチラグジュアリーも魅力的な車に仕上がっていた。
試乗期間中に自宅の200V、3kWで普通充電を行った。充電10%減(71km走行)で、100%まで5時間と表示された。
パリからニースまでのように、高速道路を長距離移動するのが好きな紳士、淑女に乗ってもらいたいラグジュアリーカーだ。

DS/N°8 エトワール AWD
| 全長×全幅×全高 | 4845×1900×1585mm |
| ホイールベース | 2905mm |
| 車両重量 | 2300kg |
| モーター | 交流同期型モーター |
| 最高出力 | 前:282ps/後:113ps |
| 最大トルク | 前:343Nm/後:166Nm |
| 駆動形式 | 4輪駆動 |
| 一充電走行可能距離 | 750Km |
| 使用電池/容量 | リチウムイオン電池/97.2kWh |
| ミッション形式 | オートマチック |
| サスペンション形式 | 前:ストラット式/後:マルチリンク式 |
| ブレーキ形式 | 前後:ベンチレーテッドディスク |
| 乗車定員 | 5名 |
| 車両価格 | 1045万円(消費税込み)※アブソリュートコンフォートパッケージ |
| 問い合わせ先 | 0120-92-6813 |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博





