
Locomotive GCCR995
自動巻き、ブライトチタンケース&ブレスレット、ケースサイズ縦41.7×横38.8㎜、パワーリザーブ約45時間、ドーンブルー文字盤、10気圧防水。198万円。
問い合わせ先:セイコーウオッチお客様相談室(クレドール) 電話:0120・302・617
天才と日本が紡ぐ物語の帰結
腕時計の歴史において最も偉大なデザイナーを一人挙げるならば、多くの識者が故ジェラルド・ジェンタの名を口にするだろう。時計界のピカソとも称された彼は、オーデマ ピゲの「ロイヤル オーク」やパテック フィリップの「ノーチラス」など、世紀のベストセラーを生み出した。ほかにもオメガやIWC、ブルガリ、ヴァン クリーフ&アーペルなど、トップブランドから誕生した数々の“不朽の名作時計”が彼の創作である。
その巨匠が、母国スイスではなく日本のために才能を駆使した稀有なモデルが存在する。1979年にクレドールから発表された「ロコモティブ」だ。フランス語で機関車を意味する名の時計は、六角形のケースとベゼルに6本の機能的なビスが配され、ジェンタ特有の大胆で前衛的な意匠が遺憾なく発揮されている。日本の時計史に残る、稀代の傑作だ。

エキセントリックな六角形のケースとベゼル、機能美を追求した6本のビス。巨匠ジェンタの大胆なデザインコードが躍動する。
彼が生み出したデザインは世界中のブランドに莫大な利益をもたらしたが、純粋な芸術家肌のジェンタ自身は、決して商売上手とは言えなかった。しかも当時のスイス時計界では、デザイナーは表舞台に出ることなく、名前も明かされないことが習慣化していた。
しかし、日本のセイコー〈クレドール〉は、ジェンタの非凡な才能に深く敬意を払った。デザイナーが裏方に留め置かれがちだった当時の風潮の中にあっても、彼の功績を正当に評価し、末長く利益を保障したのである。優れたクリエイターに対し、深い礼節を持って接した歴史は特筆に値する。
2011年に没した天才の傑作は、いまも輝きを継承している。「ロコモティブ」の最新作は、素材に軽量で堅牢なブライトチタンを採用。目を惹くのは「夜明け」を意味するドーンブルーに染め上げた文字盤だ。精緻に刻まれた複雑な六角形の幾何学模様は、光を捉えて美しくきらめき、「ロコモティブ」の輝かしい過去と未来を暗示する。巨匠が描いた原点のスケッチを忠実に再現しつつも、単なるノスタルジーには陥っていない。

六角形の中駒やテーパー駒を用いたブライトチタン製の専用ブレスレット。ステンレスより30%軽く、優れた装着感を実現している。
スイスの天才デザイナーと、彼を心から尊敬した日本のブランドが結んだ、美しい絆の証であること。小さなプロダクトに宿る崇高な世界線こそが、「ロコモティブ」を特別な存在にしている理由の奥底にあるのだ。
並木浩一(なみき・こういち)
桐蔭横浜大学教授、時計ジャーナリスト。GPHG(ジュネーブ時計グランプリ)アカデミー会員。著書に『腕時計一生もの』『ロレックスが買えない。』等。
構成/富永 淳
※『サライ』2026年8月号より






