文・石川真禧照(自動車生活探険家)

最高速330km/h、0→100km/h加速は3秒台という性能だが、街中を6速1500回転、60キロで走行することもできる。運転のしやすさ、車両感覚を掴みやすさはこの手のオープンルーフスポーツカーのなかで、トップレベル。知名度のアップが課題だ。

世界的に名の知れたスポーツカーメーカーは? と聞かれて、多くの人はポルシェやフェラーリの名をあげる。

この2社は創業して間もなくモータースポーツ、特にレースの世界で優秀な成績を収め、その実績をベースに市販のスポーツカーを生産し有名になったメーカーだ。ランボルギーニの名をあげる人もいるが、このメーカーは、最近でこそレースの世界に足を入れているが、創業者のヌッチオ・ランボルギーニがモータースポーツ嫌いだったこともあり、市販スポーツカーとレーシングカーの結びつきはなかった。

「スポーツカーはレースに出てこそ真のスポーツカー」と主張するマニアの間で、ランボルギーニの存在はまだまだだ。

マクラーレンはこうしたスポーツカー論争の中では異色の存在だ。

一目でマクラーレンとわかるフロントマスク。ライト部分が空気取り入れ口になっている。左右のフェンダー頂部がボンネットよりも高い位置にあるので、車幅が掴みやすい。
屋根を開けたところ。前席から後ろはボディなので、オープンカーなのに包まれ感がある。
独立したバンパーはない後ろ姿。排気管の位置が高いのが特徴。リアウィンドウは小さい。リアウィンドウを開けるとエンジン音がダイレクトに聞こえる。
前方ヒンジで上に開くドアはディヘドラルドアと呼ばれている。乗り降りは楽だが、車体の左右に約1mの余裕がないと開けない。

マクラーレンの創業は1963年で、フェラーリ(1947年創業)、ポルシェ(1948年創業)と比べると遅いのだが、1966年からフォーミラ1レースに参戦し、今日まで中断することなく参加を継続している。

この間にフォーミュラ1レースでは200回以上優勝しているという名門チームだ。特に1980年代から90年代は日本のホンダ製エンジンを搭載し、世界チャンピオンになっている。

マクラーレンが他のスポーツカーメーカーと異なるのは、レース用マシンの制作だけを行ってきたこと。

フェラーリやポルシェはレースでの実績をアピールし、市販のスポーツカーを制作し、販売してきた。その利益で、レースに参戦してきた。フェラーリを購入するということは、フェラーリにお金を渡し、レース活動を援助すること、と熱心なフェラーリオーナーは思っている、といわれていた。

全長はシビッククラスなので、コンパクトだが、幅は2mある。最低地上高は低いがフロントは瞬時に上昇させることができる(オプション)。
空気抵抗の低そうなボディ。モノコックボディはマクラーレンカーボンライトウェイトアーキテクチャー(MCLA)。4種類のカーボンファイバーと新しい樹脂系とコア材を使用し、ハイレベルの強度と剛性を実現している。
V6ガソリンエンジンとモーター+リチウムイオン電池などが収まるリアミッドシップ部。
電池の容量は7.4kWhで、EV航続距離は33Km。充電は200Vのみ。急速充電はできない。自宅ガレージで充電し、出発するという使い方が基本。
深くて意外に容量の大きなトランクは、車体前方に設けられている。

ようやく新たなスポーツカー計画が動き出したのは、公道を走れる「F1」を制作してから8年後のことだった。自社のスポーツカーがレースで活躍しているのに、その名声を生かした市販車を作らなかった理由は明らかにされていないが、レーシングカーの制作に専念するだけの資金力があったから、あえて市販車には手を出さなかったとも言われている。

しかし、世の中の流れが変わり、マクラーレンにもレーシングカー並みの超高性能リアルスポーツカーを発売してほしいという声が届くようになった。

マクラーレンF1
1992年から98年まで生産、販売されていたスポーツカー。運転席は室内中央にあり、左右に助手席がある3人乗り(写真下参照)。ドアは今と同じガルウイング式(ディヘドラル)。当時世界最速を目指し、最高速は実測で391km/hを表記した。価格は53万ポンド(当時1億8000万円)だったが、2021年に北米で行われたオークションで、22億5000万円で落札された記録が残っている。

フェラーリやポルシェが次々とレースで蓄えた知識をもとにスポーツカーを発売するのを横目で見ていたマクラーレンファンの富豪たちの声に応えたのが2010年、正式に自動車メーカーとしてのマクラーレンが発足した。以降、毎年新型を発売するというビジネスを展開している。

運転する楽しさを重視したコクピット。ハンドルのスポークには一切のコントロールボタンなどなく、運転操作に集中できる。内装の素材や色は豊富な標準仕様から選べる。
公道でもサーキットでも通用するシート。その形状は楕円の弧を描くように調整されている。着座位置の低さがわかる。
運転席と助手席の間に設置された変速用ボタン。マニュアルモードはパドルレバーで操作する。後退はエンジンではなく、モーターが車体を動かす。

マクラーレンが生産するスポーツカーの最大の特徴は、F1マシン用に開発したカーボンファイバーを基本骨格に採用していること。強靭で軽量な素材を用いたマクラーレン製スポーツカーは、クーペよりもスパイダーに乗るとその良さが体験できる。

マニュアルモードは8速。100km/h巡航は8速1800回転。0→100km/h加速はDレンジで3秒台半ばを実測した。V6、3Lエンジンは7500回転まできっちりと回る。
マニュアルモードとバーキングスイッチは、メーター盤の外枠右側に備え付けられている。
腕に自信のあるドライバーなら、ESC(エレクトリックスタビリティコントロール)を活用できる。3つのモードを選択できる。
4つ並んだ操作ボタンは右からフロントボディーリフトアップ、車線維持支援、施錠、トランクロック解除ボタン。並び方を覚えれば、目で確認しなくても操作できる位置にある。

マクラーレンのスパイダーは、リアウィンドウとピラーを残し、座席の頭上だけが開閉する屋根を備えたオープンカーをいう。クーペの静粛性と、オープンカーの解放感を両立させたボディ形式だ。

一般にはポルシェがタルガという名称で1960年代後半にこの形状のスポーツカーを発表したのが有名だが、英国では1960年代前半にトライアンフが同じ形状のスポーツカーを発表していた。

ルーフ部分はスイッチ操作で約15秒で車体後部に収まる。時速50km/hまで開閉操作が可能。

今回のスパイダーは、マクラーレンが2023年から発売しているハイブリッドカー、アルトゥーラだ。左右に跳ね上がるドアを採用しているが、ボディの強さはクーペと同じというだけに、その車体剛性感のレベルは高い。それが走りやすさにも結びついている。

アルトゥーラ スパイダーを見ると、背が低く幅の広いスポーツカーだが、ドアを跳ね上げ座席に座るときにドアが邪魔にならず、乗り降りが楽なことに驚く。大きなドアを閉めるときは、ちょっと力がいる。

運転席に座ると左右のフェンダーが見えるので車幅が掴みやすい。走り出そうとイグニッションをオンにしても、高性能スポーツカーらしい、爆音は聞こえない。

走り出しはモーターが後輪を動かすので無音のまま動き出す。モーター走行は最長で30キロ近くまで走る。早朝の住宅街や駐車場から大通りまでなら音もなく走れる。もちろん発進から派手に行きたいと言うなら、V6、3リッターツインターボを7500回転まで回し、0~100km/h加速を3秒台で走りきる、という異次元の世界を味わうこともできる。

マクラーレンというブランドだが、市販スポーツカーへの参入が遅かったので、知名度は先輩たちに一歩譲るものの、モータースポーツの第一線で鍛えた実力は劣らない。特にルーフの開くオープンボディを望みならば、アルトゥーラ スパイダーは購入リストから外せない一台と言える。

一度その剛性感を味わってほしい。

ナビゲーションは8インチの縦型スクリーンで表示される。
運転席のハンドルの向こう側のメーターは、走行モードで表示が変わる。TRACKモードでは、変速機のポジションと車速と8000回転までのバーグラフエンジン回転計が映し出される。
EVモードでは、電池容量残量や電池温度などが表示される。
10本スポークのホイールはオプション。タイヤはピレリーがマクラーレンのために専用設計。ブレーキはカーボンセラミックディスクを採用。

マクラーレン/アルトゥーラ スパイダー

全長×全幅×全高4539×2080×1193mm
ホイールベース2640mm
車両重量1457kg
エンジン/モーターV型6気筒ガソリンツインターボエンジン3Lアキシャル・フラックス型モーター           
最高出力605ps/7500rpm/95ps
最大トルク585Nm/2250~7000rpm/285Nm
駆動形式縦置きミッドシップ 後輪駆動
燃料消費率未発表
使用燃料/容量無鉛プレミアムガソリン/65L    
ミッション形式8速SSG自動(後退はモーター)
サスペンション形式前:ダブルウイッシュボーン式後:ウイシュボーン/マルチリンク式
ブレーキ形式前:後:カーボンセラミックディスク
乗員定員2名
車両価格(税込)3796万4156円(税込み)
問い合わせ先https://www.mclaren.com/cars/jp_ja

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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