文・石川真禧照(自動車生活探険家)

世界的に名の知れたスポーツカーメーカーは? と聞かれて、多くの人はポルシェやフェラーリの名をあげる。
この2社は創業して間もなくモータースポーツ、特にレースの世界で優秀な成績を収め、その実績をベースに市販のスポーツカーを生産し有名になったメーカーだ。ランボルギーニの名をあげる人もいるが、このメーカーは、最近でこそレースの世界に足を入れているが、創業者のヌッチオ・ランボルギーニがモータースポーツ嫌いだったこともあり、市販スポーツカーとレーシングカーの結びつきはなかった。
「スポーツカーはレースに出てこそ真のスポーツカー」と主張するマニアの間で、ランボルギーニの存在はまだまだだ。
マクラーレンはこうしたスポーツカー論争の中では異色の存在だ。




マクラーレンの創業は1963年で、フェラーリ(1947年創業)、ポルシェ(1948年創業)と比べると遅いのだが、1966年からフォーミラ1レースに参戦し、今日まで中断することなく参加を継続している。
この間にフォーミュラ1レースでは200回以上優勝しているという名門チームだ。特に1980年代から90年代は日本のホンダ製エンジンを搭載し、世界チャンピオンになっている。
マクラーレンが他のスポーツカーメーカーと異なるのは、レース用マシンの制作だけを行ってきたこと。
フェラーリやポルシェはレースでの実績をアピールし、市販のスポーツカーを制作し、販売してきた。その利益で、レースに参戦してきた。フェラーリを購入するということは、フェラーリにお金を渡し、レース活動を援助すること、と熱心なフェラーリオーナーは思っている、といわれていた。





ようやく新たなスポーツカー計画が動き出したのは、公道を走れる「F1」を制作してから8年後のことだった。自社のスポーツカーがレースで活躍しているのに、その名声を生かした市販車を作らなかった理由は明らかにされていないが、レーシングカーの制作に専念するだけの資金力があったから、あえて市販車には手を出さなかったとも言われている。
しかし、世の中の流れが変わり、マクラーレンにもレーシングカー並みの超高性能リアルスポーツカーを発売してほしいという声が届くようになった。
マクラーレンF1


フェラーリやポルシェが次々とレースで蓄えた知識をもとにスポーツカーを発売するのを横目で見ていたマクラーレンファンの富豪たちの声に応えたのが2010年、正式に自動車メーカーとしてのマクラーレンが発足した。以降、毎年新型を発売するというビジネスを展開している。



マクラーレンが生産するスポーツカーの最大の特徴は、F1マシン用に開発したカーボンファイバーを基本骨格に採用していること。強靭で軽量な素材を用いたマクラーレン製スポーツカーは、クーペよりもスパイダーに乗るとその良さが体験できる。




マクラーレンのスパイダーは、リアウィンドウとピラーを残し、座席の頭上だけが開閉する屋根を備えたオープンカーをいう。クーペの静粛性と、オープンカーの解放感を両立させたボディ形式だ。
一般にはポルシェがタルガという名称で1960年代後半にこの形状のスポーツカーを発表したのが有名だが、英国では1960年代前半にトライアンフが同じ形状のスポーツカーを発表していた。

今回のスパイダーは、マクラーレンが2023年から発売しているハイブリッドカー、アルトゥーラだ。左右に跳ね上がるドアを採用しているが、ボディの強さはクーペと同じというだけに、その車体剛性感のレベルは高い。それが走りやすさにも結びついている。
アルトゥーラ スパイダーを見ると、背が低く幅の広いスポーツカーだが、ドアを跳ね上げ座席に座るときにドアが邪魔にならず、乗り降りが楽なことに驚く。大きなドアを閉めるときは、ちょっと力がいる。
運転席に座ると左右のフェンダーが見えるので車幅が掴みやすい。走り出そうとイグニッションをオンにしても、高性能スポーツカーらしい、爆音は聞こえない。
走り出しはモーターが後輪を動かすので無音のまま動き出す。モーター走行は最長で30キロ近くまで走る。早朝の住宅街や駐車場から大通りまでなら音もなく走れる。もちろん発進から派手に行きたいと言うなら、V6、3リッターツインターボを7500回転まで回し、0~100km/h加速を3秒台で走りきる、という異次元の世界を味わうこともできる。
マクラーレンというブランドだが、市販スポーツカーへの参入が遅かったので、知名度は先輩たちに一歩譲るものの、モータースポーツの第一線で鍛えた実力は劣らない。特にルーフの開くオープンボディを望みならば、アルトゥーラ スパイダーは購入リストから外せない一台と言える。
一度その剛性感を味わってほしい。




マクラーレン/アルトゥーラ スパイダー
| 全長×全幅×全高 | 4539×2080×1193mm |
| ホイールベース | 2640mm |
| 車両重量 | 1457kg |
| エンジン/モーター | V型6気筒ガソリンツインターボエンジン3Lアキシャル・フラックス型モーター |
| 最高出力 | 605ps/7500rpm/95ps |
| 最大トルク | 585Nm/2250~7000rpm/285Nm |
| 駆動形式 | 縦置きミッドシップ 後輪駆動 |
| 燃料消費率 | 未発表 |
| 使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/65L |
| ミッション形式 | 8速SSG自動(後退はモーター) |
| サスペンション形式 | 前:ダブルウイッシュボーン式後:ウイシュボーン/マルチリンク式 |
| ブレーキ形式 | 前:後:カーボンセラミックディスク |
| 乗員定員 | 2名 |
| 車両価格(税込) | 3796万4156円(税込み) |
| 問い合わせ先 | https://www.mclaren.com/cars/jp_ja |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博





