文/ 西崎努

お金を運用する場合、多くの人が、まずは付き合いのある金融機関の担当者に相談しているのではないでしょうか。

しかし、金融機関との付き合い方には注意が必要です。目的に合わない商品を勧められたり、それによって大きな損失を被ったりすることはザラにあります。

「長い付き合いでお世話になっている」という情はあると思いますが、担当者がいい人であることと、提案の質とは、分けて考えなければなりません。

なぜなら、担当者は商品販売のプロであって、資産形成や運用・管理を行うプロではないことがほとんどだからです。

今回は、実際にあった失敗事例と、これが出てきたら要注意という定番のセールストークを解説します。

根拠のない儲け話で資産が半減

Aさんは数千万円の退職金を全額、安全な個人向け国債に振り向けるつもりで証券会社を訪れました。

Aさんが窓口でその希望を伝えたところ、なぜか別室に通され、いきなり「担当者」を名乗る男性社員が現れます。その場では、予算や資金運用の方針を伝え、口座開設の手続きを完了しました。

後日、資金を振り込んで個人向け国債の購入手続きに移ろうとしたときのことです。担当者がしつこく電話を掛けてきて、資金の一部で新興国債券を買うよう強く勧めてきました。

「日本国債よりもずっと金利が高いですし、今後、経済成長も見込めるので値上がりも期待できますよ」

あまりに勧めてくるので、付き合いのつもりでトルコリラ債を300万円ほど購入しました。

しかし、その後、トルコリラは中東を巡る紛争の混迷もあって大幅に下落。買い付け時には300万円だったのが、150万円程度へ半減してしまいました。しかも、熱心に勧めた担当者は、満期償還期限を迎える前に転勤したそうです。

儲けたいという心情をついた典型的なセールスです。Aさんに適した安定運用の真逆を行くリスキーな投資であり、「シニア投資」のような考え方がまったく考慮されていません。

今がチャンスと煽られて1600万円の含み損

Bさんは、付き合いのある証券会社の担当者から、新規公開する通信会社の株を勧められました。

「この株は非常に期待できるので、人気があってなかなか手に入りません。今ならなんとか確保できます。この銘柄でこれまでの損を挽回しましょう」

そんな誘い文句に乗り、Bさんは3万株申し込んだそうです。

ここで指摘しておきますが、本当に期待値の高い新規公開株が一般の投資家まで降りてくることはほぼありません。もしあるとしたら、人気のない「あまりもの」を処理したいときだと疑うくらいでいいでしょう。

案の定、この株は上場後に大きく下落。Bさんはすぐに売却しようとしました。しかし担当者から「配当が出るから持っていれば大丈夫です」と言われ、その言葉を真に受け保有し続けたそうです。

その後、どんどん話はおかしくなっていきます。あるとき大手生命保険会社の公募増資が発表されると、すぐさま担当者は「これで通信会社の株の損失を取り返しましょう!」と勧めてきました。Bさんはまたも相手の言葉を信じて通信会社の株を損切りし、約750万円まで膨らんだ損失を確定。提案された生命保険会社の株に乗り換えます。

結果は最悪。通信会社の株は売った直後から値上がりし、逆に保険会社の株は不祥事で急落して約860万円の評価損が発生。結局、合わせて約1600万円ものマイナスとなってしまったのです。

未来のことは誰にもわからないので結果論になりますが、「今がチャンス」だからといって、シニア世代の運用者がリスクをとる必要があったのでしょうか?

2500万円のコストをかけて利益はたった400万円

少し大きな金額の事例です。投資金額が大きいほど、失敗したときのダメージは大きくなってしまいます。

ある有名企業の元役員であるEさんは、3億円の余裕資金を5年間、銀行が勧める投資信託で運用していました。

5年間でのトータルのリターンは400万円程度。年平均0・27%の利率にしかなりません。相場は悪くなかったのに、これほど低いリターンしか得られないのは不自然です。

実はこの裏には、高額の手数料が隠されていました。購入当初の販売手数料が750万円。毎年の運用手数料が350万円。ただ投資信託を保有していただけで、なんと合計2500万円ものコストを支払っていたのです。

Eさんは400万円の利益のために2500万円も使ったことになります。しかも2500万円は運用に回ったわけでもなく、純粋な出費です。

さて、最も高い利益を得たのは誰でしょうか? 銀行です。いったい誰のための投資だったのでしょうか。

投資の「いい商品」は年代によって変わる

ここまでの事例で共通するのは、いずれにせよ金融機関は儲かっている点です。たとえ運用に失敗しても販売と運用の手数料が入ります。繰り返しになりますが、彼らは運用のプロではなく、セールスのプロであることがよく分かるでしょう。それがビジネスなのですから仕方がありません。

相手は金融の人間ですから、「言いなりになるな」といわれても難しいと思います。そこでここでは、わかりやすいポイントとして、担当者の口から出たら気を付けるべき要注意フレーズ10選を紹介しておきます。

● 新たに商品を買うときの要注意フレーズ

(1)「今はこれが儲かると思います」
(2)「これが人気の商品でよく売れています」
(3)「過去のデータからは値上がりが期待できそうです」

これらはいずれも根拠がありません。未来は誰にもわからないのですから当然です。それでは投資なんてできないじゃないかと思われるかもしれませんが、「シニア投資」で考えるべきはお金を長生きさせることです。

儲かる可能性が高い=損するリスクも高いわけです。そのリスクは必要でしょうか?

(4)「~さんにだけ用意できました」
(5)「こんなチャンスはめったにありません」
(6)「このまま預金で置いていても、もったいないですよ」

今だけ、あなただけ、などという、うまい話は基本的にはありません。そして何を言われようと「今、自分が買うべきかどうか」は別問題です。

● 運用成績が悪化したときの要注意フレーズ

(7)「今はもう少し様子を見ましょう」
(8)「そのうち戻りますから大丈夫だと思います」

これらは、意地の悪い見方をすれば、その場しのぎ、時間稼ぎとも考えられます。株や投資信託では、いくら含み損が出ていても、売却しない限り損失は確定しません。そして担当者は転勤で急にいなくなることもよくありますから、悪意はなくとも、ある意味逃げ切れるともいえます。

解約したいと申し出たときの要注意フレーズ

(9)「今売るのはもったいないです」
(10)「もう少し様子を見てからのほうがいいですよ」

これらは含み益が出ている場合でもあり得るフレーズです。なぜなら、投資信託やファンドラップは、保有してもらうだけで、どんどん信託報酬が得られるからです。

かつては短期売買で販売手数料を稼ぐケースもありましたが、現在は短期売買が推奨される時代ではありません。そのため、残高によって手数料が入る商品は、長期継続してもらうことが営業担当者にとっては重要なのです。

西崎努(にしざきつとむ)/リーファス株式会社 代表取締役社長。2007 年に日興コーディアル証券(現SMBC 日興証券)に入社、CFP 資格も保有する全国トップセールスとして活躍し、シンガポール・ロンドンでの海外研修も経験。2017 年4月に独立し、リーファス株式会社を設立。同年10 月に金融商品仲介業の登録を受ける。金融商品の仕組みはもちろん、運用実務、大手銀行や証券会社の販売手法まで熟知したアドバイスが好評。投資で悩んでいる人たちの駆け込み寺として、リタイア期前後や高齢期の投資家を中心に相談が殺到。無駄と不安をなくす投資の見直しで多くのシニア世代のお金を守り、預かり資産はわずか2 年で60億円を超える。仕組みがわかりにくい金融商品、コストが割高な商品が売れすぎる日本の現状を問題視し、本当に安心して老後資金を守るための情報発信を続けている。日経新聞、楽天証券サイト「トウシル」などメディアへの寄稿多数。
公式ホームページ: https://refas.co.jp/

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