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オペラにも、演劇や映画と同じように、悲劇、ラヴ・ストーリー、歴史もの、など様々なジャンルがあり、それぞれに愛され続ける名作がある。そんな中から今回紹介するのは、ヨハン・シュトラウス二世の『こうもり』。日本では喜歌劇、軽歌劇とも呼ばれる、「オペレッタ」というジャンルに属する名作で、つまりは、笑いがたくさん詰まったコメディのオペラというわけです。

新国立劇場「こうもり」2018年公演より。撮影:寺司正彦

そんなオペレッタの名作『こうもり』が、新国立劇場で12月6日から上演されます。軽快な音楽と楽しいストーリーは、普段オペラをご覧にならない初心者の方にもおすすめ。年の瀬のひとときを劇場で、心の底から笑いながら過ごすのはいかがでしょう。

美しい音楽にのせて、笑いに満ちたシーンが次々と

作曲家ヨハン・シュトラウス二世といえば、ウィンナ・ワルツの代表曲として世界中に知られる「美しき青きドナウ」。母国オーストリアでは第二の国歌とも呼ばれるこの曲を含め、一生の内に500曲近いワルツやポルカを作曲しており、「ワルツ王」「ウィーンの太陽」とも称されました。そんな彼が後年オペレッタに挑んで作り上げたのが『こうもり』で、ウィーンでは年末年始の風物詩として上演され続けている人気作です。そんな多くの人たちに愛される名作の中身とは……。

裕福な資産家アイゼンシュタインは、年末年始を妻のロザリンデと過ごすためウィーン郊外のバーデンの別荘に滞在しています。ところが、大晦日の昼下がり、顧問弁護士の不手際で、アイゼンシュタインは8日間の禁固刑を受けて刑務所に入らなければならなくなる。しかし、そこへやって来た悪友ファルケの誘いに乗り、妻ロザリンデには「刑務所へ出頭する」と偽って、オルロフスキー公爵邸の仮面舞踏会に参加することに。一方でファルケは、密かにロザリンデにも舞踏会の招待状を渡します。実はファルケは、アイゼンシュタインのいたずらで“こうもり博士”と渾名をつけられた事件の仕返しの復讐劇を仕組んでいたのです。

新国立劇場「こうもり」2018年公演より。撮影:寺司正彦

華やかな仮面舞踏会で、仮面の美女を妻と気づかず口説く夫、正体を隠したまま夫の浮気の証拠をつかもうとする妻。加えて、夫妻の女中アデーレが女優に扮して舞踏会に現れたり、なぜか妻のかつての恋人アルフレードが夫の身代わりに刑務所に入れられたり、刑務所長のフランクが酔っ払いだったり、といったことで混乱に次ぐ混乱が起こります。最後には夫婦が互いの浮気を責めたてあう中、茶番劇の仕掛人ファルケが現われ、「全てはシャンパンのいたずら!」と酔ったせいにして仲直りをさせる。そんなドタバタ劇が、美しいワルツやポルカに乗せて繰り広げられる洒脱な大人のオペレッタ、それが『こうもり』なのです。

クリムトの絵から飛び出したようなアール・デコ調の美術・衣裳も見どころ

新国立劇場の『こうもり』を演出するのは、“ウィーン宮廷歌手”の称号を持つハインツ・ツェドニク。彼は『こうもり』の4役をレパートリーとするほど作品を知り尽くした名テノールでもあるのです。

ツェドニクの演出家デビュー作として2006年に新国立劇場で上演されて以来、『こうもり』は同劇場の多彩なラインナップの中でも特に人気の高い作品になっています。ウィーン気質が身体の隅々まで沁み込んだツェドニクならではの、エレガントで洒脱な仕掛けがたくさん用意された正統的な演出が楽しめます。

新国立劇場「こうもり」2018年公演より。撮影:寺司正彦

もうひとつ、大きな魅力となっているのが、オラフ・ツォンベックの手がけたアール・デコ感覚による美術と衣裳。舞台の縁を飾る市松模様、背景を優雅に彩る植物のモチーフ、さらに、金色に輝く幾何学模様や日本の美感を取り入れた優雅で官能的なラインの衣裳。いずれも、ウィーンを代表する画家クリムトを彷彿させることから、美術ファンの心も捉えてやみません。

俊英指揮者パトリック・ハーンとフレッシュな歌手陣に期待が高まる

また、今回は、オーストリア出身でジャズ・ピアノなどでも多才ぶりを発揮する若手指揮者パトリック・ハーンが新国立劇場に初登場。「新進気鋭の指揮者として頭角を現しています。的を射た音楽でワクワクさせてくれる才能の持ち主です」とは、大野和士オペラ芸術監督の弁。

キャストには華やかな歌い手たちが新国立劇場初登場で出揃います。アイゼンシュタインに、温かな声と抜群の感性で評価されるジョナサン・マクガヴァン(バリトン)。ロザリンデに、ウィーンで学びウィーン、ベルリン、ブリュッセルなどで活躍するエレオノーレ・マルグエッレ(ソプラノ)。アデーレは、スウェーデンの誇る歌姫シェシュティン・アヴェモ(ソプラノ)。日本のトップ・テノールの一角に躍り出た伊藤達人がアルフレードを演じるのも注目です。

指揮者パトリック・ハーン
ジョナサン・マクガヴァン
エレオノーレ・マルグエッレ
シェシュティン・アヴェモ

『こうもり』が初演されたのは1874年4月のこと。 当時のウィーンの町はウィーン万国博覧会に沸く一方でコレラの流行と株の大暴落に見舞われていました。劇中の舞踏会で人々が唱和する「みな兄弟姉妹となろう」という共生のメッセージは、世界情勢に不安を覚える現在の観客の心にもひと際深く染み入ることでしょう。

笑う門には福来たる。笑顔を絶やさず前向きな気持ちで新しい年を迎えたい。そんな気持ちに応えてくれる新国立劇場の『こうもり』です。

新国立劇場「こうもり」2018年公演より。撮影:寺司正彦

新国立劇場 2023/2024シーズンオペラ
『こうもり』[全3幕/ドイツ語上演 日本語及び英語字幕付]
公演日 2023年12月6日(水)〜12月12日(火)
会場 新国立劇場 オペラパレス/東京都渋谷区本町1-1-1
■新国立劇場オペラサイトhttps://www.nntt.jac.go.jp
■問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)

取材・文/堀けいこ

 

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