暮らしを豊かに、私らしく

数々の作品を世に送り出したヴェルディが最晩年の79歳のときに書いたオペラ『ファルスタッフ』。好色な太鼓腹の老騎士ファルスタッフの傍若無人ぶりを機知に富む女性たちが懲らしめる話で、若いカップルの恋模様も交えた、圧倒的楽しさと人生哲学にあふれた傑作喜劇だ。その新国立劇場での公演が間もなくスタートする。オペラ王ヴェルディからの人生のエールとも言うべき本作品。その見どころ、聴きどころ、そして語り継がれるエピソードを紹介する。

2018年公演より 撮影:寺司正彦

イタリア・オペラ史上最大の巨人と言われるジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901年)。日本で唯一の本格的なオペラ・バレエ専用劇場である新国立劇場オペラパレスでも、出世作の『ナブッコ』に始まり、『マクベス』『椿姫』『ドン・カルロ』『アイーダ』『オテロ』など、数多くの作品が上演されてきた。ヴェルディのおよそ半世紀にわたる創作の歴史の中で紡がれた作品のほとんどが悲劇だが、この『ファルスタッフ』は喜劇。73歳で完成させた前作の『オテロ』で大成功を収め、もう言うことはないという域に達したと思われていたが、一念発起。「ウィンザーの陽気な女房たち」を骨子に「ヘンリー四世」を組み合わせて着想し、人生最後となったオペラ『ファルスタッフ』を作曲したのだった。さて、生涯を通して人間の悲劇に取り組んできた巨人が、最後の最後に書き上げた喜劇のオペラとは……。

2018年公演より 撮影:寺司正彦

ドラマも音楽も圧倒的楽しさでいっぱい

太鼓腹で酒好き、女好き、しかも強欲。なのに愛すべき老騎士ファルスタッフの悪だくみを、快活な女性陣が機知で面白くやり込める本筋に、若いカップルのハラハラする恋模様が絡んだ陽気なストーリー。音楽的にも先進的でユニークで、自己中心的ながらも憎めないファルスタッフのキャラクターが滲むモノローグ。女声陣×男声陣×若い恋人たちによる急展開の九重唱、そして、ファルスタッフが「この世はすべて冗談」と歌い出すフーガでの大団円など、緻密な技法で練り上げられた、わくわくする要素がたくさん詰まっている。

2018年公演より 撮影:寺司正彦
2018年公演より 撮影:寺司正彦

タイトルロール(題名役)=ファルスタッフを歌うのは、世界のオペラハウスを駆け巡るイタリアの大人気バリトン、ニコラ・アライモ。これがオペラ・ファン待望の新国立劇場デビューとなる。加えて、アライモと同じくイタリアから、ふたりの女性歌手、ロベルタ・マンテーニャ(フォード夫人アリーチェ役)とマリアンナ・ピッツォラート(クイックリー夫人役)も来日。ヨーロッパを中心に活躍するメゾ・ソプラノ歌手の脇園彩(ページ夫人メグ役)も登場するなど、最高のアンサンブルに期待が集まっている。

ニコラ・アライモ(バリトン)

舞台は17世紀オランダ、フェルメールの絵画がモチーフ

演出は、英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの舞台やBBCのシェイクスピア・シリーズなどのシェイクスピア作品で知られたジョナサン・ミラー。シェイクスピアの時代のルネサンス家屋を詳細に記録した17世紀オランダ絵画に着目し、白黒の市松タイルの床や、静謐な色調、光と影の扱いなど、フェルメールの絵画を想起させる光景の中で物語を展開させる。まるで“動くフェルメール”といった観客の声もあり、ファンも多い。

2018年公演より 撮影:寺司正彦

まさに、見どころ、聴きどころ満載。年齢の壁も物ともせず、最晩年のヴェルディが熟練の技で書き上げた、人生に微笑みかけるかのようなオペラ『ファルスタッフ』は、人間賛歌そのもの。オペラ初心者も、すんなりと物語に入り込めて、心から笑って楽しめる。そんな名作の生の舞台との一期一会を楽しみたい。

ジュゼッペ・ヴェルディ『ファルスタッフ』
[全3幕/イタリア語上演 日本語及び英語字幕付]
公演日 2023年2月10日(金)〜2月18日(土)
会場  新国立劇場 オペラパレス/東京都渋谷区本町1-1-1
■新国立劇場オペラサイト
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/falstaff/
■問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)

取材・文/堀けいこ

 

花人日和 Online Store

花人日和
花人日和の通販

暮らしが華やぐアイテム満載

ランキング

人気のキーワード

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

公式SNSで最新情報を配信中!

  • Instagram
  • LINE
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店