歳を重ねるにつれて高くなっていくのが血圧の数値。厚生労働省によると、2020年の患者調査で主な疾病の患者数のトップとの結果が出ています。収縮期血圧の保健指導判定値である130を基準に、高血圧にならないように生活習慣を整えることが大切です。
ただ、現代はいくら気をつけていても、寝不足など生活習慣の乱れやストレス、思いがけない事態など、血圧が上がる要素が多い時代です。「薬だけに頼らない薬剤師」として、超短期間で健康診断の数値改善を行なう長島寿恵さんは、日常生活での体の使い方を修正することで高血圧を予防しながら、「人生100年時代」を上手に生きていく考え方や運動を提唱しています。
今春、台湾でも出版されるほど注目を集めている著書『薬に頼らず血圧を下げる1回1分降圧これだけポーズ』(PHP研究所)から、東洋医学の考え方や武道の動きを取り入れた「降圧ポーズ」をご紹介します。
文/長島寿恵
女性の血圧のターニングポイントは更年期
女性はいわゆる「更年期」以降に、血圧が上昇しやすくなります。更年期とは閉経前後の約10年を指しますが、それまではどちらかというと低血圧に悩んできた女性も、閉経を境に血圧が上がりはじめることがよくあります。40代では約3割ですが、50代でほぼ半数、60代では7割近くの女性が、高血圧およびその予備群と報告されています(厚生労働省「国民健康・栄養調査」2010年)。
更年期以降の女性の高血圧には、エストロゲンと呼ばれる女性ホルモンが深く関わっています。エストロゲンは、妊娠・出産に欠かせないホルモンですが、ほかにも骨を強くしたり、血中コレステロールの量を調整したり、動脈硬化の予防や精神安定にも関与したりするなど、多方面から女性の体を守っています。
高血圧を放置すると重篤な病気の引き金になります
更年期を迎えると、このエストロゲンの分泌が減少します。その結果、めまい、のぼせ、頭痛、肩こり、動悸、さらにはイライラや不安など、心身にさまざまな症状が出現しやすくなります。いわゆる「更年期障害」と呼ばれる症状です。エストロゲンが減少すると血管の柔軟性が低下したり、自律神経のバランスが乱れたりすることから血圧が不安定になり、本格的な「高血圧症」に進展するリスクが高まります。
現在、高血圧性疾患の総患者数(継続的な治療を受けていると推測される患者数)は1010万人を超えると言われています(厚生労働省「患者調査」2014年)。高血圧と診断されてもそれほど深刻に受け止めずに放置したり、自分が高血圧と気づいていない人も多かったりするのですが、あとでお話しするように、高血圧を放っておくと、生命を脅かす病気の発生リスクが高まります。
女性の体が大きく変化する更年期は、「人生100年時代」の現代において、大きなターニングポイントとなることでしょう。最期まではつらつとした人生を送るために、できるだけ早い時期から血圧ケアを心がけることが、とても大切です。
健康診断の基準値に振り回されない
特定健診では、血圧については最高血圧129㎜Hg以下、最低血圧84㎜Hg以下が適正値とされています。適正値を超えた場合は、運動や食事についての「保健指導」を推奨され、さらに高値の人は「要受診」となり、医療機関での診療を勧められます。
日本高血圧学会が2019年に改定した血圧の基準値は、すでに高血圧で医療機関を受診した人を対象としているため、細かく設定されています。ただ、体質によって、血圧が高めの人もいれば低めの人もいるので、基準値は目安として捉えるとよいでしょう。
降圧これだけポーズ
武道の基本とされている「姿勢」を意識するとともに、漢方医学の考え方に基づく体のリズムを加味して考案しました。「1日6回1分」行なうのがポイントです。「起床時」「午前10時」「正午」「午後3時」「午後6時」「就寝前」の1日6回1分ずつ、それぞれのポーズを行なうだけです。人によって日常の生活パターンはそれぞれ異なりますので、自分の生活に合わせて無理なく行なってください。起床時と就寝前のほかに、午前2回、午後2回行なう、といったことでも大丈夫です。また、回数にもこだわる必要はありません。大切なのは、毎日こまめにポーズを行なうことです。継続的にメンテナンスを行ない、五臓六腑を整える習慣が身につけば、それが結果的に、血圧の安定化と合併症の予防につながります。
お耳ひっぱり
耳には全身につながるツボが集まっているので、軽くひっぱって刺激すると、全身の血流が促され、血圧にもよい影響をもたらします。
肩甲骨のばし
凝り固まった肩や首の筋肉をほぐすと、血流がよくなり、こりがスーッと解消されるとともに、血圧安定にもよい影響を与えます。
胸さすり
胸をさすると、首や肩、背中の筋肉までゆるみ、呼吸がラクになって血圧の安定にもよい影響を与えます。
▼詳細はこちら
https://www.php.co.jp/family/detail.php?id=84643
長島寿恵(ながしま・ひさえ)
薬剤師・健康運動指導士。健康増進コンサルティング株式会社代表取締役。青森県出身。東京薬科大学薬学部薬学科卒業。大学在学中からエアロビクスのインストラクターとして活躍。その後、運動指導を続けながら薬局勤務を経て現職。「お薬だけに頼らない薬剤師」として、全国の自治体、企業、健康保険組合、学校などで講演活動を行なう。参加型でアクティブな講演は「簡単、明瞭、即効力! 体が喜ぶ講演だった」とリピーターが後を絶たない。東洋医学の考えと武道の動きを取り入れ、超短期間で健康診断の数値結果を改善するだけでなく、休職しがちだった従業員の心身の不調も改善。オーダーメードの、からだ調整「時間体操」で、個人だけでなく企業の健康もサポート。近年は働き方改革や健康経営のコンサルティングにも注力している。著書に『薬に頼らずコレステロール ・ 中性脂肪を下げる方法』(アチーブメント出版)、『血圧が下がる生き方』(笠倉出版社)がある。
https://kenkouzoushin.co.jp/
https://hisaestyle.com/