文・写真/小島瑞生(海外書き人クラブ/スイス在住ライター)
スイスの人々は、日本人の私たち同様に自然を愛し、散歩やハイキングをするのが好きな国民です。そのためスイスにはいたるところに遊歩道が作られており、毎日多くの人々が夫婦や友人たち、または一人でそういったプロムナードを散策しているのを見かけます。
私自身、若い頃は「散歩なんて退屈」と考えていましたが、アラフィフの今、のんびりとあちらこちらをよく歩くようになりました。特にスイスは風光明媚な景色にあふれており、場所によってはまるで絵本か映画の中に入り込んだよう。それに同じ場所を何度歩いても、季節や時間によって山や空が全く違う表情を見せ、飽きることがありません。
ユネスコ世界遺産のラヴォー地区を歩く
気に入っている散歩コースは、スイス西部フランス語圏のローザンヌからモントルー郊外のヴヴェイエリア。スイスとフランスにまたがるレマン湖のほとりにある地域で、ラヴォー地区と呼ばれています。
ここラヴォー地区の葡萄畑は、スイス内の葡萄畑の中でも特にフォトジェニックで、2007年からユネスコ世界遺産にも登録されているほど。
葡萄畑に囲まれた坂だらけの細い道をゆっくりのぼっていくと、突然眼下に一面の葡萄畑と青い水をたたえるレマン湖が広がり、絵葉書のような絶景に圧倒されます。
そしてラヴォー地区内に点在する村々も、昔から変わらぬ姿を残しており、歩いているとなんだかタイムスリップして過去の時代に足を踏み入れたかのような錯覚に陥ります。
ワインが大好きなスイスの人々
こうして広がる葡萄畑を見ているうち、その美しい風景だけでは飽き足らず、ここで生産されたワインも色々と試飲してみたくなります。
一般的にヨーロッパ産ワインといえば、イタリアやフランス、スペイン、ドイツなどのワインが頭に浮かびますが、実はスイスもワインの生産量・消費量が多い国の一つ。特に温暖な気候に恵まれたフランス語圏では、スイスワインの7割が生産されています。
その一方、スイスワインの国外輸出量は非常に少なく、全生産量のたった1%ほど(スイス連邦経済省農業局データ/2022年)。というのも、スイスは一人当たりのワイン消費量が世界でも5本の指に入るほどワイン好きが多い国。そこでスイス産ワインも地産地消されてしまい、輸出できるほどのワインが残らないのだとか。
そういった事情から、スイスワインを思う存分楽しみたいなら、実際にスイスを訪れる必要がありそうです。
ラヴォー地区のスイスワイン、どこで飲める?
ラヴォー地区のワインは、地区内に数多くあるワインセラーで楽しめます。また、ここのワインを提供しているレストランやカフェ、バーもたくさんあります。
また「ラヴォー・ヴィノラマ/Lavaux Vinorama(https://lavaux-vinorama.ch/en/accueil/ )」というラヴォー地区のワインに特化したビジターセンターは、300種類以上の銘柄をそろえており、ここでもワインテイスティングやワイン購入ができます。
「ラヴォー・エクスプレス」で、ラヴォー地区をまわる
ワイン用葡萄畑は、十分な日照量を得るため斜面にある場合が多いのですが、ラヴォー地区の葡萄畑にも坂が多くあります。そこで「坂を歩くのは楽しそうだけど、ちょっと疲れそう」という時の強い味方がいます。
それはラヴォー地区の葡萄畑の道を走る「ラヴォー・エクスプレス/Lavaux Express(https://www.lavauxexpress.ch/en/ )」というミニトレイン。春から秋までの期間限定ですが、時間があまり取れない場合でも、さくっとまわれるので便利です。
途中でラヴォー地区ワインのテイスティングができるルートもあり、こちらもおすすめ。そうでなければ、夕日がレマン湖と山をオレンジに染め始める頃、地元のバーやレストランでスイスワインを手に、ぜいたくなひと時をゆったり過ごすのも良いかもしれませんね。
世界遺産ラヴォー地区/Lavaux Patrimoine mondial ( https://en.lavaux-unesco.ch/ )
文・写真/小島瑞生(スイス在住ライター)
1998年~2009年までアイルランドで暮らした後、2009年からスイス在住。スイスなど欧州の国々のさまざまな興味深い情報を雑誌やウェブサイト、ラジオ等のメディアにて発信中。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ(https://www.kaigaikakibito.com/)」会員。