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「聴きポジ」に徹すれば、話し下手でも会話の主導権が握れる、と堀井さん

話すのが苦手……、会話が盛り上がらない……、そんな悩みを持つ人は多いのではないでしょうか。
また、会話の主導権を握れるのは話し上手の人だけ、とも思っていませんか? 

ところが、人気フリーアナウンサーの堀井美香さんは「聴きポジ」を手に入れれば 、スムーズな会話に困ることはないと言います。「聴きポジ」とは、「聴き手のポジション」のこと。

30年近くに及ぶアナウンサー人生を歩む中で、この「聴きポジ」の存在が場をスムーズにして、相手が気持ちよく話せる要になることに気づいたそう。

「聴く」だけで自分も相手もラクになれますが、よりレベルの高い「聴きポジ」になるためには、声も重要な要素のひとつだとか。今回は、堀井さんの著書『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』(徳間書店)から、「声の変え方・育て方」についてご紹介します。

文/堀井美香

「聴く」ために声を変える

よりレベルの高い「聴きポジ」になるためには、声のコントロールが欠かせません。

より深い言葉をいただくために、相手が「話しやすいな」と感じる声を出すためです。

では、みなさんはご自分の「声」についてどう捉えているでしょうか?

おそらく「親からもらったもの」「先天的」「変えられない身体の一部」というような意識が強いのではないでしょうか。ジャイアンが貴公子のような声になることはないというか、変化の幅があまり大きくないと思われていることが多いようです。

だから、なんとなく「自分の声って好きじゃないな」と思っても、具体的にトレーニングしたり改善したりするには至らない。

そんなふうに諦められがちな「声」ですが……断言します。
声は必ず変わります。
自分が出したい声が、出せるようになります。

イメージすると、カチカチの硬い身体と同じです。動かしてこなかったから、動かない。

でも、身体が柔らかーくなった姿をゴールに据えて、毎日コツコツ柔軟を続けていくと、始めたころは想像できなかったような開脚ができるようになるでしょう。

声も、身体が出すもの。だから同じです。少しずつ、しかしどんどん変化します。たしかにある程度は生まれ持った素質の影響はありますが、育てていけば、自分でもはっきりわかるくらいの変化を起こせるのです。

生まれつきの顔にメイクをすれば20パーセント増しに見えるように。
生まれつきの身体を鍛えて腹筋を割るように。
生まれつきの声に手を加えれば、もっと素敵になります。

ファッションや髪型を変えたりするように、声だって自由に操れるもの。そして自由自在に出せるようになった声はあなたの相棒として、これからの人生を支えてくれるはずです。

「戦闘服」のように、ここぞというときの声を持つこともできますし、セミフォーマル着のように「仕事中の少しだけ知的な声」を持つことだってできます。相手と場面に合ったコミュニケーションを取れるようになる。ひいては自分を「ブランディング」できるようにもなる。魔法のようですね。

自分の思うとおりの「あ」を言えずして、イメージどおりに話すことはできません。より心地のいい会話の場をつくるためにも、まずは声のコントロールから。急がば回れ、なのです。

声を鍛え続けないと、どうなるか

年齢を重ねると、具体的に私たちの「声」には何が起こるのでしょうか。

まず、声帯が変化すると、女性は声が低くなり、男性は少し高くなると言われています。出せる音自体、変わってくるわけです。

また、一般的に年を重ねれば体を支える筋力が落ちますから、猫背になったり首や肩も前に出てきます。姿勢が悪くなりますから、発声のボリュームや張りも落ちます。さらに口周りの筋力が衰えますから、無意識にラクな口の開け方を選んでしまう。結果的に、一音一音があいまいになってしまうのです。

また、口周りの筋力の持久力が落ちてしまうことで、話すこと自体が疲れるようになってしまう人も少なくありません。しゃべることで疲れやすくなると、表情も乏しくなっていくでしょう。

さらにほかの問題点もあり、最近では声帯の萎縮や筋力の低下によって、誤嚥性肺炎の危険が高まることも指摘されています。

このように、思い通りに口元を動かせない自分は、まだまだ想像できないかもしれません。けれど老いと声には、切っても離せない関係があるということは頭に入れておいていただきたいと思います。

脅すつもりはありません。でも対策を講じるのと講じないのでは違う未来が待っているということをお伝えしたいのです。

また、自分の声をだれよりも聞いているのは、自分自身です。そして私たちの脳は、「音」から多くの情報を得ています。

つまり、自分の老化した声を聞き続ければ、セルフイメージや気持ちまでだんだんと年老いていってしまいます。衰えた自分の声がイヤになってしまって、言葉でのコミュニケーションを避けてしまう可能性だってある。

しかしこれは言い換えれば、張りのある自分の声を聞けば、脳は活性化されると言えるのではないでしょうか。 「まだまだ若い!」と無意識に自分をイメージづけることができる。そう信じて、私は声を愛で、磨き続けています。

ただし、これだけはどうしてもお伝えしておきたいのですが……おじいさんやおばあさんの声には、深い味があります。私は、彼らの声がとても好きですし、尊敬しています。「人生は声に乗る」と言われていますし、写真家の土門拳さんは「教養は声に出る」ともおっしゃっています。

ですから、年を重ねること自体に怯えなくてもいいし、臆することもないのです。

ただ、いつまでも自分の声や話すことを楽しむために、早いうちから声のアンチエイジングを意識する。どれだけアンチエイジングをしてもそこには人生が宿っていきますから、それを楽しみにして生きていきたい。そんなふうに思うのです。

* * *

『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』(堀井美香 著)
徳間書店

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堀井美香(ほりい・みか)
フリーランスアナウンサー。1972年、秋田県生まれ。1995年、TBSにアナウンサーとして入社。永六輔、みのもんた、久米宏、竹中直人(いずれも敬称略)など、個性的な先達のアシスタントを長年にわたって務めた。2022年3月に退社し、現在はフリーランスアナウンサーとして活動。ジェーン・スーとの大人気ポッドキャスト「OVER THE SUN」など、独立後の活躍も目覚ましい。著書に『「OVER THE SUN」公式互助会本』(左右社)『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)『一旦、退社』(大和書房)がある。

 

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