話すのが苦手……、会話が盛り上がらない……、そんな悩みを持つ人は多いのではないでしょうか。
また、会話の主導権を握れるのは話し上手の人だけ、とも思っていませんか?
ところが、元TBSアナウンサーの堀井美香さんは「聴きポジ」を手に入れれば 、スムーズな会話に困ることはないと言います。「聴きポジ」とは、「聴き手のポジション」のこと。
30年近くに及ぶアナウンサー人生を歩む中で、この「聴きポジ」の存在が場をスムーズにして、相手が気持ちよく話せる要になることに気づいたそうです。
今回は堀井さんの著書『聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術』(徳間書店)から、「聴きポジ」の基本となる心構えについてご紹介します。きっと、会話の際に感じる「どうしよう……」から解放されるはずです。
文/堀井美香
「聴く」ことでラクになれる
同僚と。上司と。取引先と。友だちと。ご近所さんと。ママ友と。お店の人と。
職場で。カフェで。エレベーターで。街でばったり遇って。
仕事の話。相談。雑談。本題が始まるまでの、ちょっとした時間を埋めるやりとり。
このように、ひと言で「会話」と言ってもさまざまなシチュエーションがあります。その中で、あまり親密ではない人、気心が知れているとは言えない相手と話すとき、次のように感じる方が多いそうです。
「なにか話題を提供しなきゃ(どうしよう)」
「雑談って苦手だな……(どうしよう)」
「なんだか盛り上がらないなあ(どうしよう)」
「つまらない人って思われてないかな(どうしよう)」
もし、そんなふうに焦ったり、落ち込んだりしたことがあるのであれば、ぜひ「聴く」ことに意識を集中してみましょう。
会話にはさまざまなシチュエーションがありますが、共通して言えることもあります。
それは、「聴きポジ」につくことを意識すれば、だいたいの「どうしよう」が解決できるということ。
相手の話を、背景を、気持ちを、意図をしっかり聴いて寄り添うと、「どうしよう」と思う間(ま)がないのです。話題を提供する必要もないし、自分が盛り上げる必要もない。ただただ相手の話を聴くことに集中するだけですから、余計なことを考えなくて済みます。そのうえ、
「この人はわかってくれる」
「心地いい、落ち着く」
「ついついいろんなことを話してしまう」
と、よい印象を持ってもらえるようになります。相手をいやな気持ちにさせることや、不安や不信、対抗心を持たれることがなくなり、結果的に、嫌われる可能性も減らせるというわけです。人間関係に好き嫌いはつきものですが、避けられる「嫌われ」は避けたほうが仕事もプライベートも円滑に進みますよね。
自分自身もラクになれるばかりか、よい人間関係をつくることができる。
それが「聴きポジ」のいちばんの魅力です。
ではなぜ、「聴く」にはここまでのパワーがあるのでしょうか? 突然ですが、次のような状況を想像してみてください。
幼稚園児くらいの子どもに、お話を聴かせてあげています。ふと話を切って顔を見てみると、「それで、それで?」と目をキラキラさせてこちらを見つめている。「これからどうなるの?」「どうしてそうなったの?」「ええーっ!」「おもしろい!」「つづきを教えて!」という、待ちきれない気持ちが伝わってきますよね。そうすると、こちらも「ああ、よかった! 楽しんでくれてるんだな」と安心して話を続けられるでしょう。
でも、こちらがお話を聴かせているのに、遠くを見ていたり、爪をいじっていたり、あくびをしている子どもがいたら?
「あ、この話、興味ないのかな」と不安になったり「退屈させちゃってるな」と残念な気持ちになったりして、なるべく最短でお話を切り上げてあげたくなってしまいますね。
大人の会話だって、同じなんです。
「聴きたい」という姿勢は、話し手を安心させます。うれしくさせます。もっと話したい、この人に聴いてほしい、と思ってもらえます。
多くの人は「話すこと」で自分を知ってもらい、信頼を得ようとしますが、「聴く」ことであなたの人間性を伝え、信頼を得ることはできます。しかも後者のほうが、「自分の味方」「理解者」など、好ましい印象を持っていただける。
それが信頼につながり、豊かな関係を育むことにつながるのです。
同意も理解もしなくていい
誰かと話していると、ときに自分とはまったく違う考えに出会うこともあります。ともすれば議論になってしまうようなテーマもあるでしょう。そんなとき、「聴きポジ」はどうすればいいのでしょうか?
答えは、「争わないし、受け入れない。でも、受け止める」です。
ひとたび「相手の考えを変えてやろう」という考えが頭に浮かぶと、上手に聴くことができません。反論の機会をうかがい、相手の論の矛盾を突き……と、戦闘モードになってしまう。
そんなときは、心の中でこう唱えましょう。
「あなたはそう思うんですね」
それぞれ別の考え方を持っているという事実だけを受け止め、「どっちが正しい」という判断をしないことが大切です。正しいも正しくないもないのです。
そして、相手の話を「受け止め」つつも、すべてを「受け入れる」必要はありません。そうでないと、「聴きポジ」につくなかで自分の軸が揺らいでしまいますから。
私は、誰かにいただいたお話は、どんな内容であれ、すべて自分の「内なる引き出し」にしまっていくようなイメージを持っています。自身と相反する考え方の人がいても、「ひとつの考え方をいただきました」と引き出しにしまっていく。
争わないし、受け入れない。でも、受け止める。
このスタンスでいれば、自分の軸を守りつつ、たくさんの価値観をインプットしていけるはずです。
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堀井美香(ほりい・みか)
フリーランスアナウンサー。1972年、秋田県生まれ。1995年、TBSにアナウンサーとして入社。永六輔、みのもんた、久米宏、竹中直人(いずれも敬称略)など、個性的な先達のアシスタントを長年にわたって務めた。2022年3月に退社し、現在はフリーランスアナウンサーとして活動。ジェーン・スーとの大人気ポッドキャスト「OVER THE SUN」など、独立後の活躍も目覚ましい。著書に『「OVER THE SUN」公式互助会本』(左右社)『音読教室 現役アナウンサーが教える教科書を読んで言葉を楽しむテクニック』(カンゼン)『一旦、退社』(大和書房)がある。