ブロードウェイの一流クリエーターが『ピーターパン』誕生秘話を描いた映画をミュージカル化
大人になることを拒み、大空を自由に駆け抜ける“永遠の少年”を通して、大切なことを教えてくれる『ピーターパン』。ファンタジックなストーリーに、子どものころ夢中になった、という人も多いのではないでしょうか。その物語は、作者のジェームズ・マシュー・バリがある未亡人、その子どもたちと交流をもったことから生まれました。この感動的な『ピーターパン』誕生秘話は、2004年にジョニー・デップ主演『ネバーランド(原題はFinding Neverland)』として映画に。そしてその映画を、ブロードウェイの一流クリエーターがミュージカル化したのが『ファインディング・ネバーランド』です。2017年には来日公演が行われ大好評を博したこの作品が、いよいよ日本版として上演されます。
主演は山崎育三郎さん! 人気と実力を兼ね備えたメンバーが紡ぐ奇跡の物語
主人公のバリ役を務めるのは、甘いマスクと歌声をもつミュージカル界きっての人気スター、山崎育三郎さん。4人の息子をもつ未亡人シルヴィアには、ミュージカル界トップクラスの実力で魅了する濱田めぐみさん。そのほか、劇場支配人とフック船長の二役に武田真治さん、バリの妻メアリー役に夢咲ねねさん、シルヴィアの母役に杜けあきさんという充実のキャスト陣。さらに、オーディションを勝ち抜いた子どもたちが物語を動かします。
すべての始まりは、19世紀後半のロンドン、ケンジントン公園でした。新作が書けずスランプに陥ったバリは、公園でシルヴィアと4人の息子たちに偶然出会い、子どもたちの純粋さに触れるなかで大切なことに気づきます。演劇も遊びも同じPLAYなのだ、と。演劇といえば、上級階級の人たちに向けた娯楽というのが当たり前な時代。でもバリは、「自分のやりたいものはそういうものではない、子どもたちが楽しめるファンタジー作品を上演したい」と切に願うようになります。そんなバリに多大なインスピレーションを与えたのが、シルヴィアの3男、ピーターでした。父親を亡くしたことで心を閉ざし、夢や希望を捨てて大人になろうとするピーターに、バリは「大人になることは夢や希望を捨てることじゃない」と伝えようとします。そんなバリとシルヴィア、子どもたちとの間に生まれた絆が、この家族に奇跡を起こすのです。
「ミュージカルの本を読んで涙を流したのは初めて。自分も憧れるバリに近づけるように演じたい」
先日行われた製作発表に登壇した山崎さんは「先日本読みがあったのですが、僕はミュージカルの本を読んで涙を流すというのは初めてのことでした。大人になると涙を流すことが少なくなるけれど、本当に涙なしでは観ることができない作品。誰にとっても自分自身の作品として観られると思います。自分が本当に大切にしているものに改めて気付かされたり、何のために生きているのか、なんでいま、この仕事をしているのか。そんな自分の原点に返れるような作品になっております。 バリは大人にもなりきれず子どもでもないような、行ったり来たりしているような人物。僕自身、子ども心を持っている方にすごく憧れていて。バリは、自分が『こんな大人になりたい』と思えるような遊び心満載の人物なので、そんなバリに近づけるように演じていきたいなと思っています」と抱負を語りました。
「素直に生きていくことの難しさと勇気を教えてくれる」
シルヴィア役の濱田さんも同じく、本読みで「泣いてしまいました」と告白。「それに、とにかく楽曲が素晴らしいんです。その楽曲に彩られるストーリーで私がいちばん感じたのは、素直に生きていくことの難しさと勇気。それを子どもたちから教わって、それを体現して勇気をもって『ピーターパン』という作品を仕上げたのがバリなんです。これは、『ピーターパン』が出来上がるまでのお話です。子どもたちと一緒に演じていますと、嘘ではいられない。お芝居なんですけれども本当に心が動いて、我々大人の心の中の子どもの部分と、子どもたちの大人の部分が会話をして、本当に嘘のない世界を繰り広げられるということが、すごくわかりました。この作品を通じてみなさんに『勇気をもって自分に素直に生きていく』ということを感じていただけたらなと強く思いました」と、作品への愛を語りました。
「心の根底にあるものを思い出させてくれる素敵な作品」
バリの妻、メアリー役の夢咲さんは、子どものころから『ピーターパン』が大好きだったそう。「すごくファンタジーな作品の裏側に『こんなに感動的な実話が存在していたんだ』と感動し、『大人になるってどういうことなんだろう』と考えさせられました。自分では大人になったと感じなくてもいつのまにか大人の感情になっていて、自分が好きだったこと、やりたかったこと、楽しいことを押さえつけて生きているところもあるのかな、と。心の根底にあるものを思い出させてくれた、とても素敵な作品です」と、胸のうちを明かしました。
日本版独自の新演出にも期待! 「大人になること」の意味とせつなさを感じさせてくれる珠玉作
また、今回は日本版独自の新演出による上演というところも楽しみな点。ブロードウェイ版でデジタルとアナログ両方のいいところを活かし、イマジネーションを喚起して舞台に魔法をかけたダイアン・パウルスの演出は、非常に素晴らしいものでした。それを今回はミュージカル『ロボット・イン・ザ・ガーデン』や『COLOR』、『チェーザレ』など、幅広いジャンルで意欲的に活躍する売れっ子演出家、小山ゆうなさんがどう刷新して見せるのか。期待に胸が膨らみます。
もちろん、子どもたちの純粋で懸命な演技にも、心奪われずにはいられないでしょう。無邪気な童心が人に及ぼす力と、想像力の素晴らしさ、喪失から再生するための支えとなる愛と思いやりに、心が震えます。自分の心が本当に求めているものに気づかせ、原点を思いだし、そして「大人になること」の意味とせつなさを感じさせてくれる珠玉作を、ぜひ劇場で。
<作品DATA>
ミュージカル『ファインディング・ネバーランド』
キャスト:
ジェームズ・バリ:山崎育三郎
シルヴィア・デイヴィス:濱田めぐみ
フック船長/チャールズ・フローマン:武田真治
メアリー・バリ:夢咲ねね
デュ・モーリエ夫人:杜けあき
ジョージ:越永健太郎、ポピエルマレック健太朗(Wキャスト)
ジャック:生出真太郎、豊田侑泉(Wキャスト)
ピーター:小野桜介、長谷川悠大(Wキャスト)
マイケル:奥田奏太、谷慶人(Wキャスト)
ほか。
公式サイト:https://horipro-stage.jp/stage/findingneverland2023/
<東京公演>
2023年5月15日(月)~6月5日(月)
会場:新国立劇場 中劇場
<大阪公演>
2023年6月9日(金)~12日(月)
会場:梅田芸術劇場メインホール
<久留米公演>
2023年6月17日(土)・18日(日)
会場:久留米シティプラザ ザ・グランドホール
<富山公演>
2023年6月24日(土)・25日(日)
会場:オーバード・ホール
<名古屋公演>
2023年6月30日(金)・7月1日(土)
会場:愛知県芸術劇場 大ホール
取材・文/若林ゆり