文/梅本昌男(海外書き人クラブ/タイ・バンコク在住ライター)
南国ならではの気候に恵まれ様々な花が育つタイ。ハイビスカスやジャスミン、スイレン、蘭、そして国花であるタイ語でラーチャプルックと呼ばれるゴールデンシャワーなどなど。その美しさは人々の心を和ませてくれますが、それだけでなく生活と密着しています。
仏教国であるタイ。国民の約95%が信徒です。巨大な寝仏像があるワットポーや三島由紀夫の小説『暁の寺』にも登場するワットアルンなどの壮麗な寺院を訪れた方も多いと思います。人々は毎朝喜捨に周る僧侶にお供えをし、寺院の前を通る時にはワイ(合掌)をして拝みます。
そんな日々に欠かせないのがマライ(花輪)やプームドクマイ(山形の花飾り)。お供えや縁起物として、寺院に始まり、家の中、庭の祠、車の中と至る所に花が飾られているのです。
このマライやプームドクマイについて、以前、世界的に有名なフラワー・アーティストのサクン・インタクンさんにお話を伺ったことがあります。インタクンさんはタイ王室の行事のフラワーコーディネイトを担当したり、ヨーロッパの有名映画祭のレッドカーペットの花装飾を手がけるなどタイ内外で活躍しています。
インタクンさんによると、マライやプームドクマイは先人の知恵が詰まっている物だそうです。
「お供えの生きた花を少しでも長生きさせるため、私たちの祖先は“壊して、また組み立てる”という技法を生み出しました。花びらを一つ一つ分け、それをピンで刺したり、縫ったり、束ねたりしたのです。その結晶がマライやプームドクマイという訳です」
バンコクの中心部を流れるチャオプラヤー川。王宮や先述のワットポーやワットアルンがあるエリアはラッタナコーシン島と呼ばれ、チャオプラヤー川を使って物流を行い街の礎を築いた場所です。
市内最大の花市場であるパーククローン市場もこの地区にあります。大きな建物の内部にはマライから、蓮の花、ジャスミンなどタイらしい花々の他、バラなど西洋の花も販売。露店が100軒以上ならんでいて、市場その物は24時間営業。しかし、やはり最も賑わうのは早朝からの数時間です。
業者だけでなく一般の人も購入することが可能です。また市場の建物の外にも花屋さんがずらっと並んでいますが、日本と比べ物にならないくらい価格が安い。種類によりますが一束20~100バーツ(約78~390円)程度なんですから。
そういえばタイの花と言ったら、何を連想しますか? 一番最初に思い浮かぶのは蘭ではないでしょうか? 実際、タイは世界最大の輸出国の一つです。しかし、タイで蘭が一般的に出回るようになったのは、たった60年程前の事なのです。
タイには約1300もの蘭の在来種があり、特に北部の高山地帯や南部で多く生息しています。1960年代、業者たちが海外での蘭の需要を見て、そういった野生の蘭を持ち帰って品種改良をしてタイで蘭ビジネスが広がるようになったそうです。
現在、タイ国内で生育される蘭の半分近くが輸出され、その年間売り上げ額は約7000万ドル(約2億7000万円)にも上るそうです。
花好きなの貴方、是非タイへお見えになって癒されてください。
文・写真/梅本昌男(タイ・バンコク在住ライター)
タイを含めた東南アジア各国で取材、JAL機内誌アゴラなどに執筆。観光からビジネス、グルメ、エンタテインメントまで幅広く網羅する。海外書き人クラブ会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。