オリジナル版以上かも? おっさん二人が繰り広げる喜劇を女性に書き換えたユニークな傑作
ニューヨークで生まれ育った戯曲の名手、ニール・サイモン。その作品のなかでも、最高傑作と言われるのが『おかしな二人』です。性格の真逆なおっさん二人が繰り広げる喜劇は、ジャック・レモン&ウォルター・マッソー主演の大ヒット映画(1968年)でご存じの方も多いでしょう。この戯曲には、登場人物をサイモン自ら女性に書き換えた〈女性版〉が存在しています。ただ男女を置き換えたというだけではなく、細かいところで異なるおかしさを爆発させる巧みな展開には唸らされること請け合い。オリジナルの男性版に引けを取らないどころかそれ以上かも、という出来なのです。
宝塚出身の大女優二人を主演に迎え、大好評のコメディが満を持して再演
この作品が、宝塚出身のレジェンド的存在、大地真央さんと花總まりさんの主演によりシアタークリエで上演されたのが2020年。大女優同士の化学反応は爆笑に次ぐ爆笑を呼び、大好評を博しました。ところが折しもコロナ禍が人々の観劇生活を脅かし始めたころだったため、「せっかくチケットを取ったのに観劇が叶わなかった」という人も多くいたのです。そんな無念を晴らすように、この4月、ほぼ同じキャストで再演されることに! これを見逃しては大損です。
とにかく大地真央さんは、ユーモアセンス抜群の人。最近でこそ某ファイナンス系会社のCMや、ドラマ『最高のオバハン 中島ハルコ』などで類い稀なコメディエンヌぶりが一般にも知られるようになってきましたが、宝塚時代から笑いを呼ぶアイディアをひねり出す名手で、そのセンスが高く評価されていました。
一方の花總まりさんは、宝塚時代も退団後も「コスチュームプレイの女王」として君臨してきた人。これまでコメディにはあまり縁がなかったのですが、この作品の初演でこれまでのイメージをかなぐり捨て、「当たって砕けろ!」の覚悟でコメディエンヌとしての才能を開花させました。何より二人のコンビネーションがおかしくも愛らしく、素晴らしいのです。
対照的なおかしな二人が同居して始まる、ニューヨークでのカオスな生活
舞台となるのはニューヨークの高級アパートメント。オリジナルでは80年代が舞台でしたが、このバージョンでは70年代に設定され、インテリアも衣装もサイケデリックです。テレビのプロデューサーとしてバリバリ活躍するオリーブ(大地)の部屋に、女友だちが集まってゲームをしています。このオリーブ、仕事以外のこととなるとだらしなく、ズボラで横着で大ざっぱ。部屋のあちこちに、脱ぎ散らかした派手な衣服や雑誌やゴミが見えています。装飾や立地はオシャレ、でも散らかり放題の汚部屋へ、転がるように入ってきたのがマジメな専業主婦の友だち、フローレンス(花總)。完璧な妻であり母として生きてきたのに、なんと夫に離婚を切り出されてお先真っ暗。心配したオリーブは、「新しい人生を送るべきよ」と、自分との同居を提案します。ところがフローレンスは変人レベルの潔癖症で、オリーブとはまさに水と油! 二人の生活はカオスを呼びます……。
山崎静代さん、青木さやかさんなどお笑い界出身者も参戦! 笑いの連鎖を巻き起こす個性派俳優陣たち
まず、オリーブたち大人女子が交わすガールズ・トークの面白さ。宮地雅子さん、平田敦子さんといったベテランの芝居巧者に加え、南海キャンディーズのしずちゃんこと山崎静代さん、青木さやかさんというお笑い界出身の二人が笑いに磨きをかけてくれます。おっさん化が顕著な面々ですが、絶妙なところで下品にならないさじ加減がさすが。カッコいいバリキャリなのに不精者のオリーブは、別れた夫が弱点です。カネをせびられてギャンブル資金をホイホイ出しちゃうダメさも、かわいくてつい爆笑。
花總さんは登場からほぼすっぴん!? という地味メイクで、嘆いたり叫んだりの百面相。本人は一生懸命なのにズレまくり、ボケまくり、癇癪を起こしまくりというフローレンスに全身全霊で挑みます。エプロン姿もオタマを振り回す姿も、バラエティ豊かな顔芸も、新鮮で愛おしい!
さらに抱腹絶倒の爆笑を呼ぶのが、同じアパートメントに住むスペイン人兄弟(芋洗坂係長さん&渡辺大輔さん)とのかけあい。英語が不自由で、カタブツでパッショネートなラテン兄弟の言葉遊びはたまらないおかしさで、ドッカンドッカン笑いの連鎖が巻き起こります。ここ、この戯曲のいちばんおいしいところかも。
すったもんだの末、あるどんでん返しによって物語は意外な展開を見せますが、オリーブと女友達の日常は続いていきます。最後のセリフは間違いなく、オリジナルの男性版より心に残るはず。
ミュージカルの女王コンビのゴージャスなステージで心が弾む観劇体験を
大地さんはこの再演に際し、「(初演より)さらに面白くなると思います。いえ、絶対面白くなります。70年代のニューヨークの、おかしな私の部屋に是非遊びに来てください。サンドウィッチを作って待っています。ちょっと散らかってますが……」とメッセージを。花總さんは「大先輩との共演ですので緊張していたのですが、大地さんは気さくに色々アドバイスしてくださりフローレンスの笑いの部分を引き出してくださいました。やはりコメディセンス抜群です! 大尊敬しております。一生懸命努めますのでどうぞお楽しみくださいませ」とコメントを寄せています。
そして、このバージョンのお楽しみは、宝塚でいうところのフィナーレ、歌とダンスによるスペシャル・カーテンコールが付いていること! ミュージカルの女王コンビのゴージャスなステージに、テンションも爆上がり。「ああ、楽しかった!」と心が弾む観劇体験を、いまこそ味わって。なお、大地さんと花總さんは、3月23日の朝8:00〜9:50に放送される、フジテレビ系列の「めざまし8」に生出演。ライブで歌を披露します。こちらもお楽しみに!
『おかしな二人 』
<東京公演>
日程:2023年4月8日(土)~4月26日(水)
会場:シアタークリエ
<宮城公演>
4月29日(土)〜5月1日(月)
会場:トークネットホール仙台(仙台市民会館)
<富山公演>
2023年5月6日(土)〜5月7日(日)
会場:富山県民会館
<大阪公演>
日程:2023年5月11日(木)~5月14日(日)
会場:梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
<出演>
大地真央:オリーブ
花總まり:フローレンス
青木さやか、宮地雅子、平田敦子、山崎静代、渡辺大輔、芋洗坂係長
公式サイト:https://www.tohostage.com/okashinafutari/index.html
取材・文/若林ゆり 画像提供/東宝演劇部