2026年11月3日、皇居東御苑内の「皇居三の丸尚蔵館」がいよいよ全面開館します。それに先立つ9月4日、報道関係者を対象とした記者発表会が開かれ、グランドオープンを記念して約半年にわたって開催される3つの特別展の概要が発表されました。
この日は、館長による挨拶に続き、各展を担当する研究員が各特別展の見どころや展示構成を詳しく説明。さらに、今回新たに完成した展示室3をはじめ、講堂やミュージアムショップも報道陣に公開されました。そこで今回は、記者発表会レポートとともに、新たに判明した情報をまとめました。

島谷弘幸館長「“皇室と国民の懸け橋”として日本文化を発信していきたい」

皇居三の丸尚蔵館の前身である宮内庁三の丸尚蔵館は、皇室に代々伝えられた美術品などが国に寄贈されたことを受け、1993年に開館しました。その後も旧秩父宮家、香淳皇后ご遺品、旧高松宮家、三笠宮家からの寄贈品が加わり、現在の収蔵品は約6,300件。2026年9月4日現在、国宝10件、重要文化財13件を数えます。2019年から施設の拡充が進められ、2023年には管理・運営が宮内庁から独立行政法人国立文化財機構に移管。同年11月に「皇居三の丸尚蔵館」として一部開館し、今回、約7年に及ぶ整備が大きな節目を迎えます。
館長は挨拶の中で、同館の使命を、長い時を経て伝えられた美術工芸品を次世代へ確実に継承するとともに、その魅力を広く伝えることだと説明しました。
皇室に伝来した品々の中には、公家や大名家、京都・奈良の古刹などに由来する名宝だけでなく、明治以降、全国の人々が情熱を注いで制作し、皇室へ献上した作品も数多く含まれています。物として作品を守るだけではなく、そこに託された人々の思いも受け継いでいく――。そうした役割を担いながら、「皇室と国民の懸け橋」として日本文化を発信していきたいと抱負を語りました。
グランドオープンを飾る、3つの特別展
この日の記者発表会では、グランドオープンを記念して、2026年11月から2027年5月までの約半年間にわたり開催される3つの特別展についても、それぞれの概要と見どころが発表されました。第1弾は「皇室の至宝―美いづるところ」、第2弾は「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」、そして第3弾は「日本の書の美1300年」。正倉院宝物から伊藤若冲の国宝《動植綵絵》、さらに日本の書の名品まで、幅広い作品を存分に味わえるラインナップです。
それでは、一つずつ見ていきましょう。
特別展「皇室の至宝―美いづるところ」~正倉院から昭和まで。「皇室の至宝」を3期ですべて入れ替え~

グランドオープン記念特別展の第1弾は、11月3日に開幕する「皇室の至宝―美いづるところ」です。本展については、記者発表会の終了と同時に、出陳される主な展示作品の画像も明らかになりました。そこで、本展に関しては注目作品をピックアップしながらご紹介します。
本展は約3か月の会期を前期・中期・後期の3期に分けた大掛かりな展示構成。展示作品は各期ですべて入れ替え。全期間を通じて約190件が公開されます。同館では過去最大規模の展覧会となり、絵画、書跡、工芸などを通して、古代から現代へと続く皇室と日本美術の歩みをたどります。
前期(11/3~23)の大きな話題は、正倉院宝物が皇居内で初めて一般公開されることです。「日本美術の精華」「正倉院宝物―古代の輝き」「明治―帝室技芸員の誕生」の3テーマで構成され、伊藤若冲《旭日鳳凰図》をはじめ、聖武天皇遺愛の正倉院宝物《螺鈿紫檀琵琶 北倉27》、明治工芸の粋を凝らした重要文化財《菊蒔絵螺鈿書棚》などが並びます。


中期(11/26~12/20)では、前期から引き続く「日本美術の精華」に加え、「聖徳太子と法隆寺献納宝物」と「大正―モダンと古典の融合」の3つのテーマに焦点が当てられます。
中期の最大の見どころは、明治時代に皇室の所有となり、戦後に皇室と東京国立博物館へ分かれて伝わった法隆寺献納宝物が、この機会に皇居三の丸尚蔵館で一堂に再会することでしょう。龍の頭部をかたどった口とペガサスを思わせる文様が印象的な国宝《竜首水瓶》など、飛鳥時代の国際性を伝える名品は見逃せません。

後期(12/23~2027/1/24)は通期で掘り下げられる「日本美術の精華」に加え、「ボンボニエール―皇室の御慶事を彩る小箱」「昭和―100年の軌跡」の3テーマで構成。
まずチェックしたいのが、教科書でも有名な狩野永徳筆の国宝《唐獅子図屏風》。大画面に描かれた堂々たる唐獅子の勇姿を目に焼き付けておきたいところです。さらに皇室の慶事に際して制作されたボンボニエール約50点が見られるのも、皇居三の丸尚蔵館ならではの見どころといえるでしょう。



本展は、「3つの展覧会が一つになっているようなもの」と館長が表現した通り、三度訪れて初めて全貌を見渡せる展覧会といえそうです。
特別展「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」~伊藤若冲《動植綵絵》30幅が、国内11年ぶりに一堂に~
2027年2月4日から始まる第2弾が、「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」です。
伊藤若冲が約10年をかけて描いた《動植綵絵》は、花、鳥、魚、虫、貝、そして若冲が得意とした鶏など、あふれんばかりの生命を描いた30幅の大作です。
今回、その全30幅が一斉展示されます。国内では2016年以来11年ぶり。1993年の宮内庁三の丸尚蔵館開館以来、館内で30幅すべてを一堂に展示するのは初めてで、2021年の国宝指定後としても初となります。「施設が大きくなったことで実現した」と担当研究員が語ったように、まさにグランドオープンを象徴する展覧会です。
展示では30幅を季節の流れに沿って構成。春から夏へ向かう第1章では、芍薬と蝶を描いた《芍薬群蝶図》など、生き物たちのはつらつとした姿を紹介し、秋から冬にかけては、黒い雄鶏と赤い南天、白菊の対照が鮮烈な《南天雄鶏図》や、雪景色の中に色鮮やかな錦鶏を描く《雪中錦鶏図》などが迎えてくれます。
しかし、この展覧会は若冲だけを見るものではありません。円山応挙《牡丹孔雀図》、与謝蕪村《鳶・鵜図》、尾形乾山の色絵作品など、同時代の京都で花鳥画に取り組んだ絵師たちの名品も展示されます。
たとえば若冲と応挙がともに牡丹と孔雀をどう表現したのか。あるいは色彩を駆使する若冲に対し、ほとんど墨だけで鳥の姿や天候まで描き出す蕪村はどう違うのか。作品同士を見比べることで、若冲の個性だけでなく、18世紀京都画壇そのものの豊かさが浮かび上がるはずです。
特別展「日本の書の美1300年」~王羲之の書が伝来した奈良時代から近現代まで、1300年の「書」をたどる~
3つの記念特別展の掉尾を飾るのが、2027年3月25日開幕の「日本の書の美1300年」です。
本展では、奈良時代から現代まで、約1300年にわたる日本の書の歴史を約100件で紹介。前期と後期で作品を大幅に入れ替えます。島谷館長によれば、現在同館が収蔵する国宝10件のうち6件が書の作品とのことで、皇居三の丸尚蔵館の収蔵品において「書」がいかに重要な位置を占めているかがわかります。
必ず見ておきたいのが、「書聖」と称された中国・東晋の王羲之です。じつは、王羲之の真筆はすべて失われているのですが、本展で出陳される国宝《喪乱帖》は原本を極めて精巧に写した唐時代の貴重な模本。筆線のかすれだけでなく、原本にあったと考えられる虫食いの跡まで再現されており、王羲之の筆跡を今日に伝えるもっとも重要な作品のひとつとされています。
さらに本展では、平安時代の仮名の美を伝える作品、華麗な料紙と書が響き合う国宝《平家納経》、天皇の宸翰や禅僧の墨跡なども登場。南北朝時代の国宝《後醍醐天皇宸翰天長印信(蠟牋)》では、力強い筆致だけでなく、中国から伝来した蠟牋という装飾料紙にも注目です。
活字やデジタル文字に囲まれる現在だからこそ、筆の速度、墨の濃淡、線のかすれ、紙の装飾まで含めて「手で書く」という営みを見つめ直せる展覧会になりそうです。
展示面積は旧館の約8倍。新展示室のお披露目も
今回のグランドオープンは、展覧会だけでなく建物そのものにも大きな変化をもたらします。
建築には、皇居の景観と調和する緑青色の銅板屋根が用いられ、外壁や館内の随所には日本の伝統文様である「ひし形」が取り入れられています。直線を基調とした現代的な建築の中に、ひし形がさりげなく反復されているところを探しながら歩くのも面白いでしょう。


また、車いす対応スロープ、多目的トイレ、オストメイト対応設備、おむつ交換台、ベビーチェアなども整備され、館内は段差のない構造に。講演会や映像上映、ワークショップにも対応する講堂と、ミュージアムショップも新設されました。


そして最大の変化が展示空間です。2023年の一部開館時には展示室1(437㎡)と展示室2(253㎡)の計690㎡でしたが、今回は590㎡の展示室3が加わり、合計1,280㎡に拡充されました。一部開館前の旧施設の展示面積は160㎡だったため、実に約8倍です。
新設された展示室3に実際に入ってみると、まず感じるのはその奥行きです。天井高は充実の4.5m。展示ケースのガラスも存在を意識させにくいほど視界がクリアで、作品との間を遮るものが少なく感じられます。大型の屏風や絵巻、巨大な絵画など、皇居三の丸尚蔵館が誇るスケールの大きな作品も、ゆとりを持って見せることのできる空間に仕上がっています。


この拡充により、《動植綵絵》30幅の一斉展示が初めて館内で実現するなど、これまで収蔵庫に眠る時間の長かった名品を、作品本来のスケールや相互の関係まで含めて見せることが可能になりました。
皇室ゆかりの文化財を守る収蔵施設として始まった三の丸尚蔵館は、今回のグランドオープンによって、それらを研究し、公開し、日本文化の魅力を国内外へ発信する本格的なミュージアムへと大きく踏み出します。正倉院宝物、伊藤若冲、そして1300年の書――。11月から翌年5月まで続く3つの特別展は、新しくなった皇居三の丸尚蔵館の可能性を、一つずつ解き明かしていく半年間となりそうです。

展覧会基本情報
皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展
「皇室の至宝―美いづるところ」
展覧会名: 皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展「皇室の至宝―美いづるところ」
会期: 2026年11月3日(火・祝)~2027年1月24日(日)
前期:11月3日(火・祝)~11月23日(月・祝)
中期:11月26日(木)~12月20日(日)
後期:12月23日(水)~2027年1月24日(日)
観覧料: 一般2,500円
主な注意事項: 日時指定制。会場での当日券販売はありません。前期・中期・後期で展示作品はすべて入れ替わります。小中高大生および満23歳未満は無料。無料入場対象者も一部を除き事前予約が必要。
皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展
「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」
展覧会名: 皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展「国宝 動植綵絵 いろどりの世界」
会期: 2027年2月4日(木)~3月14日(日)
観覧料: 一般3,000円
主な注意事項: 日時指定制。会場での当日券販売はありません。会期中、一部の作品の展示替えを行います。小中高大生および満23歳未満は無料。無料入場対象者も一部を除き事前予約が必要。
皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展
「日本の書の美1300年」
展覧会名: 皇居三の丸尚蔵館グランドオープン記念特別展「日本の書の美1300年」
会期: 2027年3月25日(木)~5月16日(日)
前期:3月25日(木)~4月18日(日)
後期:4月21日(水)~5月16日(日)
観覧料: 一般2,500円
主な注意事項: 日時指定制。会場での当日券販売はありません。前期・後期で作品を大幅に入れ替えます。小中高大生および満23歳未満は無料。無料入場対象者も一部を除き事前予約が必要。





