世界を舞台に飛躍し続けるピアニスト、上原ひろみさん。サライ.jpが最も会いたいアーティストのひとりでしたが、念願叶ってのインタビュー。折しも、上原さん率いるプロジェクト=バンドHiromi’s Sonicwonder(ヒロミズ ソニックワンダー)のニュー・アルバム『OUT THERE(アウト ゼア)』がリリースされる直前です。

『OUT THERE』 は、Hiromi’s Sonicwonderの初アルバム『Sonicwonderland(ソニックワンダーランド)』から1年半ぶりの2作目。多彩な新曲に、上原さん衝撃のデビュー作『アナザー・マインド』(2003年)の冒頭を飾った「XYZ」のSonicwonderバージョンを加えた全9曲。しなやかで弾けるようなサウンドが詰まった本アルバムは、どのようにして生まれたのか? まずは、Sonicwonderの成り立ちから、お話をおうかがいしました。

──『OUT THERE』はHiromi’s Sonicwonderの2作目のアルバムですが、メンバーとの出会いなど、Sonicwonderの成り立ちについてお話しいただけますでしょうか。

「メンバーのひとり、ベースのアドリアン・フェローと出会ったことがプロジェクトの始まりになります。彼には、2016年のツアーで当時のトリオのメンバーとして回ってもらったのですが、演奏していて、なにか面白い化学反応があるなと感じ、これをもっと突き詰めたいと思いました。そこから作りたいバンドのイメージがだんだん確立していき、曲も書くようになりました。そんな中で、自分の思っている世界観を体現してくれるメンバーを探すようにもなりました。自分がそれまで演奏したことがある人だったり、演奏を拝見していて「いいな」と思った人に声をかけたりして。それで集まった3人(アドリアン・フェロー/b の他、ジーン・コイ/ds、アダム・オファリル/tp)と一緒に演奏し始めたのが2023年の5月です」

──作りたいバンドのイメージとは、どんなものだったのでしょう。

「エレクトリックなバンドです。それで、曲を作るときもピアノだけでなくキーボードを弾いたり。メンバーにトランペットを入れることを考えたときにも、エフェクトを使えるトランペッターがいいな、というところがありました」

──演奏し始めたのが一昨年の5月、ということは結成からもうすぐ2年になります。一緒に活動する中で、メンバーの3人から上原さんが受けた影響というのは何かありますでしょうか。

「影響されたことというか、1枚目と2枚目のアルバムの作り方のプロセスが違っています。1枚目は自分がこういうイメージの音楽をやりたいっていうのがあって、それを体現してくれる人を探して作りましたが、2枚目は、最初に彼らのキャスティングがあって、そこに当て書きをしていくという形。彼らがいることが念頭にあって、4人で作れるサウンドって何なのかというのを模索していく中で作り上げた作品です」

成長していく楽曲たち

──上原さんのデビュー・アルバム『アナザー・マインド』の1曲目の「XYZ」のSonicwonderヴァージョンが、『OUT THERE』の1曲目になっています。

「「XYZ」は、デビュー当時のライブでは1曲目でやることも多くて、ときどき再訪したくなる曲なんです。録音するかしないかの違いはありますが、これまでもいろんなプロジェクトのライブでやってきました。違うメンバーとやると、曲の方向性だったり可能性がどんどん多面体として広がっていく曲なので、 Sonicwonderでこの曲をやったらどういう風になるのかとても楽しみでした。それで3人と一緒に演奏したらすごく面白い感じのある仕上がりになったので、1曲目に持ってきました」

──「XYZ」に続く2曲目は、「Yes! Ramen!!(イエス!ラーメン!!)」です。昨年12月のジャパンツアー2024で新曲としてお披露目していましたが、会場は盛り上がりを見せていました。

「もともとラーメンにすごい情熱を注いできたのですが、バンドの3人もラーメンが好きなので、日本に来たときは美味しいラーメン屋さんにたくさん連れていっています。ドラムのジーンだけが魚介が苦手で他の2人は何でも好きなので、全員で行くときは、とんこつかパイタンのどちらか。トランペットのアダムと2人でとかになると、にぼしとか魚介系に行くことが多いです」

──バンドのみなさんは、上原さんの情熱に影響されてラーメンが好きになったのですか?

「いえ、日本に連れて来たときに3人ともラーメンが大好きだってことがわかったんです。それで、ラーメン好きなバンド・メンバーに恵まれたので、これはラーメンを書く時が来たな!って書きました」

──前作の『Sonicwonderland』では、オリー・ロックバーガーさんをフューチャーしたボーカル曲『Reminiscence(レミニセンス)』が印象的でしたが、『OUT THERE』にもシンガー・ソングライターのミシェル・ウィリスさんをフィーチャーした曲「Pendulum(ペンデュラム)」が入っています。オリーさんは上原さんがバークリー音楽大学時代の同級生だったとのことですが、ミシェル・ウィリスさんもお親しい間柄だったのでしょうか。

「いえ、これまでお付き合いはありませんでした。彼女の作品をずっと聴いていて、とてもファンだったのですが、「Pendulum」をやりたいと思ったときに、ミシェルの声が思い浮かんで、「歌って欲しい」と連絡しました。そうしたら私のことを知っていてくれて、快諾してくださいました」

──作詞を共作なさったようですが、どんなやりとりを?

「もともとはソロ・ピアノの曲として書いたものなのですが、その後、歌が聴こえてきて、日本語で歌詞を書きました。それで、できたものをライブで矢野顕子さんに歌っていただいて、そのライブ録音を昨年末に発売した矢野さんとの共作のアルバム(※)にも収めたのですが、英語の歌詞っていうのもいいなと思っていたら英語の単語が浮かんできて。それを日本語の歌詞の英訳としてまとめて、「こういう語感をいれたい」とミシェルに投げかけました。そこからのミシェルと私とのやりとりを混ぜて、一緒に作りました」

──Pendulumは振り子、という意味ですか?

「そうですね、スウィングしている、人生の中の振り子のような歌詞になっています」

※矢野顕子×上原ひろみ『Step Into Paradise -LIVE IN TOKYO-』

ジャケットの微笑ましい裏話

──「OUT THERE」というのは、収録されている4曲からなる組曲のタイトルであり、アルバムのタイトルでもありますが、その文字が“縦書き”で入ったジャケットのイラストレーションは、前作に続き、ルー・ビーチさんの描き下ろしです。ウェザー・リポート『ヘヴィー・ウェザー』やYMOのアルバムのアートワークなど、数多くの名盤を手がけてきた偉大なるルー・ビーチさん。今作の依頼では、どんなやりとりをなさったのでしょう。

ニュー・アルバム『OUT THERE』ジャケットはルー・ビーチ氏による書き下ろし。

「1枚目のアルバムのときは面識もありませんでしたが、ルー・ビーチさんの作品がとても好きで、「ぜひ絵を描いていただけないでしょうか」とお願いしました。その時は聴いてもらう曲もデモ音源しかなく、バンドの感じもわからなかったと思いますが、その後ライブにも来てくださいました。それに、今回の『OUT THERE』は収録曲をライブで何度かやっていましたので、その時に録った音源を今回の Sonicwonderのサウンドとしてルー・ビーチさんに送り、後は全て投げるかたちで依頼しました。それでワクワクしながら待っていたら、イメージが湧いた!って、描いて送られてきたのが、この絵です(写真上)」

──受け取って、いかがでしたでしょう。

「彼の頭の中には私の音楽がこう聴こえているんだろうな、面白いな、って思い、「アメイジング!」って返事を送りました。実は、「赤い植物みたいなのものが私なのかな? ステージで演奏しているときの私のヘアスタイルみたいだし、前にピアノもあるし」と私なりにいろいろ考えていたんです。そうしたらビーチさんから、「左下に浮いているのがひろみだよ」って。あのイカみないたものが私だって言うので、あ、違ったんだって(笑)

その後に「いやな気持ちにならなきゃいいけど」って書いてきてくれたので、「そういう風に私を表現してくれて光栄です」って返しました。ルー・ビーチさんはほんとうに気のいい、音楽が大好きな、素敵な方なのです」

『OUT THERE』のライブも待ち遠しい

──アメリカやヨーロッパのライブで、すでに『OUT THERE』に収められた新曲を演奏したとのことですが、反応は?

「レコーディングをする前から、少しずつですが披露してきました。みなさん「アルバム楽しみにしてるよ」って言ってくれて、老若男女、盛り上がっている感じはありました」

──老若男女、といえば、日本のライブ会場でも、上原さんのファンの幅の広さを感じたことがあります。前作の『Sonicwonderland』のツアー中のライブ会場で、小学生くらいのお子さんを連れた方の姿を何度か見たのです。

「日曜日の16時とか早めに開演する日には、お子さんもいらっしゃっていることがあります。真剣に聴いている子供さんもいて、「よくこんなに集中力が続くな。ちゃんと曲も追っているし、今日はすごい音楽的なお子さんが来ている」なんて感心することもあります」

──ステージから見えていらっしゃるのですね。最近のSNSにはジャズとかロックとかジャンルに関わらず、とても若い世代の人たちが自分の演奏動画をアップしていて、中には目が離せなくなるものもあります。上原さんもご覧になることはありますか?

「あります。可能性のかたまりですよね。これからまだまだ何だってできるじゃないですか。もう、期待しかないです」

──ところで、上原さんが子供の頃にピアノを始めたのはクラシックで、その後、ジャズに行ったという流れなのですか?

「ジャズに行ったという気持ちはないのですが、ジャズもたくさん聴いて、演奏もしました。他にもいろんなジャンルの音楽を聴いていて、高校生の頃にバンドをやるようになってからはキング・クリムゾンだったり、フランク・ザッパだったり。とくにザッパはジャズ・ミュージシャンと共演することも多くて、そんなジャズ・ミュージシャンの方からザッパを知ったりしていました」

──いろんな音楽というと、上原さんは、矢野顕子さんをはじめ、東京スカパラダイスオーケストラ、タップの熊谷和徳さん、レキシなど、様々な共演ライヴも行っています。そうした方面も楽しみで仕方がありません。
とはいえ、まずはニュー・アルバム『OUT THERE』をタイトルに謳ったライブ・ツアーを期待しているのですが、日本での予定は?

「またツアーがやれるよう、今、計画中です」

──発表を心待ちにしています。ところで、上原さんは Sonicwonderのメンバーを率いるバンマスでもあるわけです。バンマスとして、これだけは!と守っていること、心がけていることはありますか?

「本番前に、みんなが好きなものを食べられるようにすること。これは、非常に重要で、自分も含めてモチベーションとかテンションも違いますから」

──ライブでのSonicwonderの弾けるパワーの源は、そこにあったのですね。まずは、ニュー・アルバム『OUT THERE』をたっぷり楽しませていただきます。
今日は、ありがとうございました。

4月4日発売ニュー・アルバム『OUT THERE』  収録曲

1. XYZ
2. Yes!Ramen!! イエス!ラーメン!!
3. Pendulum (featuring Michelle Willis) ペンデュラム feat.ミシェル・ウィリス 
4. OUT THERE: Takin’ Off  テイキン・オフ
5. OUT THERE: Strollin’ ストローリン
6. OUTTHERE: Orionオリオン
7. OUT THERE: The Quest ザ・クエスト
8. Pendulum ペンデュラム
9. Balloon Pop バルーン・ポップ

上原ひろみ(うえはら・ひろみ)/1979 年静岡県浜松市生まれ。6歳よりピアノを始めると共に作曲を学ぶ。17歳の時にチック・コリアと共演。1999 年にボストンのバークリー音楽大学に入学。2003年、アルバム『Another Mind』で世界デビュー。2011年に参加アルバムが第53回グラミー賞ベスト・コンテンポラリー・ジャズ・アルバムを受賞するなど、現在まで、国内外において、数々の受賞歴をもつ。2020年よりコロナ禍により苦境となったライヴ業界の救済を目的にシリーズ企画「SAVE LIVE MUSIC」を展開。その公演回数は100 公演を超え、多くの音楽ファンに感動を与えた。2023年公開の映画「BLUE GIANT」で音楽監督を務め大きな話題を集めた。新プロジェクトHiromi’s Sonicwonder での活動を始め今後も世界を舞台に更なる飛 躍が期待されている。

上原ひろみオフィシャルサイト:https://www.hiromiuehara.com/s/y01/artist/001/profile?ima=0000&link=ROBO004

ユニバーサルミュージック上原ひろみサイト http://www.universal-music.co.jp/hiromi-uehara

カメラ: 藤田修平
ヘアメイク:神川成二
衣装:LIMI feu

インタビュー・構成:堀 けいこ

 

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