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棚に飾られている犬、亀、人物の彫刻は、小林照子さんの作品。インターネットで好みの作家を探して、彫刻家・田島享央己さんに直談判。75歳から教えを乞い、創作を続けている。「メイクは形のあるものに描くが、彫刻はその真逆で、自分のイメージを木の中から彫り起こす作業でおもしろい」と語る。

メイクアップ・アーティストの小林照子さんは、1935年、東京生まれ。23歳のときに『小林コーセー』(現・『コーセー』)に美容指導員として入社。数々のヒット商品を手がけるとともに、「ナチュラルメイク」の理論を確立。1985年、同社初の女性取締役に就任しました。しかし、その後、56歳で退社して独立。これまで美に関する種々の研究所や学校を、設立・運営してきました。88歳になられた現在も、美容ビジネスの企業経営や後進を育てる学校『[フロムハンド]メイクアップアカデミー』ほか、美に特化した高等学校および『アマテラス アカデミア』を運営しています。

人生の少し先を歩く「姉」たちから「妹」たちへ

そんな小林照子さんが語る「妹」たちへのメッセージとは……。『50代からの生き方のカタチ――妹たちへ――』(関西学院大学ジェネラティビティ研究センター 編)は、小林さんをはじめとする12人の「姉」たちが、これから人生の半分を生きる、すべての「妹」たちへ贈るメッセージ集。「花人日和」読者にとって学びの多いこの一冊を携えて、小林さんの溢れんばかりのパワーの源を探ろうと、50代からの生き方のヒントを伺いました。

1回目の目標を見失わずに道を開いた「目指す力」では、メイクアップ・アーティストになるという夢を目指し、苦学して美容学校を卒業。その後、『コーセー』へ入社し、販売店での美容部員、本社での美容指導、商品開発とさまざまな経験と実績を積む、そのすべては夢を実現する過程だったと語っています。そして40歳のころ、小林さんは定年後の人生を考え始めたそうです。2回目の今回は「10年後の自分の描き方」について教えていただきます。

取材・文/山津京子

抱き続けた夢を、時代に即した形で実現する

――コーセーでは、女性初の役員に抜擢されました。しかし、それでも会社を退社して、独立の道を選ばれました。

私が在籍していた時代、『コーセー』の定年は、女性は45歳、男性は55歳でした。だから私は40歳になったころから定年後の人生を考えていて、私がそれまで培った美容法やメイクアップを教える学校を創ろうと思っていたんですよね。

ところが、そんな私の想いを知った小林社長自ら引き留められまして、会社にいながら学校も創ってもらい、役員にも任命され、その後、10年間勤めさせていただくことになりました。

お給料も入社当時と比べると100倍も多くいただいて、とてもいい待遇にしていただいたんですよね。役員になることができたので、定年する年も伸ばすことが可能でした。でも、クリエイターになりたいという想いは捨てられず、56 歳で退社して、美容に関する教育や商品開発などを行なう「美・ファイン研究所」を設立しました。

その背景には、演劇公演のスケールが変化していったことも影響しています。私がメイクアップ・アーティストを志した当初は、小劇団でのメイクをイメージしていたのですが、時を経るに従って、日本では総勢何百人もの人が舞台づくりに関わる大型の劇場が作られ、公演が打たれるようになっていて、そうした舞台に対処するためにはメイクアップの専門家を大勢育てなければいけないとより強く思うようになっていたからです。

――退社なさってから現在までも複数の事業を次々と展開。現在もエネルギッシュに仕事をしていらっしゃいます。年を取ると、体力も気力も衰えてくるものですが、どんなときも夢を描き続けてこられたパワーの源は何ですか?

私だって年とともに衰えているのは実感してきましたよ(笑)。だけど、それを差し引いてもそれまで生きて経験してきたからこそ得られた「直観」や「判断力」があると思うんです。その力を信じていることが、私の原動力になっているのだと思います。

専業主婦をしてきた人が、よく「自分には何も能力がない」とおっしゃいますが、家事も育児も大きな経験であり、力です。例えば、子どもを育て上げた人なら、子育てを続けるには、よその子を育てるしかないですよね。でも、私はそのタイミングで考え方を切り替えて、その経験を活かせるステップへ進むにはどうしたらいいのか、考えてみてはどうかと思うのです。

それまで経験してきた自分の人生を前向きに捉えて考えれば、進むべき新しい世界が結構あるんじゃないかと思うのです。もし進むべき世界が思い浮かばなかったなら、自身が歩いていきたい道や世界を創ればいいんですよ。

2019年、未来の活躍を願い、84歳で立ち上げた小林照子さんの女性塾「アマテラス アカデミア」の講義風景。
「アマテラス アカデミア」の受講生。25~40歳までの現場力のある女性がそろう。

56歳で、やりたいことへ向かって飛び出した

――50代になったからといって、人生を諦めないことが大事なのでしょうか。

“人生は100年”ありますから、あと50年もありますよ(笑)。私は56歳で、やりたいことへ向かって飛び出しました。

10年後の自分を思い描いて、いまから生活してみてください。

どんな女性になりたいですか?
何に夢中になっていますか? 

なりたい自分をイメージすることは、夢を描くことと一緒です。

10年後の未来を考えると長く感じるかもしれませんが、10年前を振り返るとあっという間だったように思いませんか? 

未来の10年というのも過去と同じで、あっという間です。

10年後の自分をイメージしたら、それを言語化して、文章にして、口に出して言ってみてください。口に出して言い続けると、夢は叶うと私は思います。

世界を動かす美意識豊かな女性人材の育成に取り組んでいる。

自分を飾らずに、正直に生きること

――どうしても自信が持てないときはどうしたらいいでしょう。

まず、自分を飾らずに、今から正直に生きることを心がけてみてください。そうすると、自分に合った人、無理せずハダカのままでつきあえる人と出会えるようになると思うんですよ。

そうすると、人生は自然に豊かになり、自信を持って生きることができるんですよね。

かつて私もカタチばかり繕って、無駄なことをしていた時期がありました。上司の悪口ばかり言っていた時代があったんですよ(笑)。そうして、問題を解決した気になっていたのです。でも、そうしているだけでは、何も変わらないことに気がついて、見栄を張らず、素の自分を出して生きるようにしたんです。

すると、いつの間にか波動が同じ人と過ごすようになり、不思議ですが進むべき道が開けて、夢の実現へ向かって歩いてくることができました。

「妹」世代の皆さんにとって、人生はまだまだこれからです。10年後の自分を思い描いて、無理をせずに、今からありのままに生きることを心がけてみてください。

2022年に出版された『50代からの生き方のカタチ』の取材時に出会った映像作家に勧められて、今春、「からだ化粧」に再挑戦し、発表するといいます。「からだ化粧」は、1981年に小林さんが初めて発表したアート作品。モデルの全身にメイクアップを施した作品は、唯一無二のアートとして世界中で高い評価を得ました。今回は、74歳のとき筆を絶って以来の挑戦となります。小林照子さんの夢はまだまだ続きます。

小林照子(こばやし・てるこ)
1935年、東京生まれ。メイクアップアーティスト。小林コーセー(現・コーセー)に美容指導員として入社。数々の商品開発を手掛け、1985年に同社初の女性取締役に就任。その後、独立し、美容ビジネスの企業経営や後進を育てる学校[フロムハンド]メイクアップアカデミーほか、美に特化した高等学校およびアマテラス アカデミアを運営。

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『50代からの生き方のカタチ――妹たちへ――』
(関西学院大学ジェネラティビティ研究センター 編)
アルソス

『50代からの生き方のカタチ――妹たちへ――』(関西学院大学ジェネラティビティ研究センター 編)は、小林照子さんをはじめとする12人の「姉」たちが、これから人生の半分を生きる、すべての「妹」たちへ贈るメッセージ集。

未来に対する不安や迷いと向かいつつ、「真に自分らしく生きる」にはどうしたらいいのか。「そっと背中を押すような」珠玉の言葉が詰まっています。

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