世界最大の高級時計見本市が毎年、ジュネーブで開催される。長い歴史とともに技術を継承し文化を醸成してきた名ブランドの、時代の審美が集約した新作ウォッチを紹介する。


進化する名品腕時計
スイス西部に位置する国際都市、ジュネーブ。レマン湖越しにアルプス山脈の稜線が連なり、中世の面影を残す歴史的建物が並ぶ。
一方でジュネーブはスイスの時計産業の中心地としても知られる。その契機となったのが16世紀の宗教改革だ。フランスでカトリック勢力との対立で弾圧されたユグノー(※)はジャン・カルヴァンの本拠地だったジュネーブを目指した。彼らの中には高度な時計製造の技術を持つ者も多く、すでに金細工・彫金の技術を有した地元職人たちと結びつくこととなる。
ユグノーたちは礼拝の時刻を重視した。時計は本来贅沢品であったものの、時間管理という正当性を持つため、奢侈禁止令の対象から外れる。その結果、宝飾職人たちは時計製造へと転じ、ジュネーブの時計産業が形成されていった。
その後製造の分業体制が確立され、ジュネーブはその集積地となる。量産とは一線を画し、仕上げや調整、複雑機構に重点を置いた高級化へと舵を切ったのもこの頃だ。ジュネーブで製造され、厳格な基準を満たした時計にのみ与えられる「ジュネーブ・シール」の存在からも、その品質基準の高さがうかがえる。現在も同地は産業の中核を担い続けている。
こうした歴史背景を持つジュネーブで、毎年、高級時計見本市「ウォッチズ&ワンダーズ」が開催される。2026年は展示スペースがさらに拡大し、老舗からマイクロメゾンまで65ブランドが参加。伝統的で重厚な機械式から宇宙をテーマにした先鋭的なモデルまで並び、今年の潮流を占う場となった。その中から技術と美意識の精髄を体現した新作を紹介する。
※カルヴァン派の新教徒。
PATEK PHILIPPE パテック フィリップ
精緻に設計された黄金比に基づく独特の造形
ジュネーブの時計文化を体現する名門として、高級時計界に確固たる地位を築くパテック フィリップ。今年は1968年に誕生した、時分針のみの本質に収斂した機能と美しい楕円フォルムを持つ「ゴールデン・エリプス」の新モデルを発表。ミディアムサイズを復活させ、極薄ケースでオリーブグリーン文字盤を格調高くまとめ上げた。

『ゴールデン・エリプス 3738/100G』
自動巻き。18Kホワイトゴールドケース。サイズ縦35.6×横31.1mm、厚さ5.9mm。659万円。
問い合わせ先:パテック フィリップ ジャパン・インフォメーションセンター 電話:03・3255・8109

VACHERON CONSTANTIN ヴァシュロン・コンスタンタン
老舗メゾンの奥深さを感じさせる文字盤配置の妙
1755年創業、ジュネーブ最古参のヴァシュロン・コンスタンタンは、長い歴史ゆえにそのアーカイブが群を抜く。1921年に誕生した「ヒストリーク・アメリカン」もそのひとつで、文字盤を傾けることで運転中に時刻を見やすくした時計が源流。新作は小径ケースに、ブルーのアラビア数字とブレゲ針を採用したグレイン仕上げのシルバー文字盤の組み合わせが新鮮な表情をもたらす。

『ヒストリーク・アメリカン 1921』
手巻き。パワーリザーブ約65時間。18Kピンクゴールドケース。ケース径36.5mm、厚さ7.41mm。572万円。
問い合わせ先:ヴァシュロン・コンスタンタン 電話:0120・63・1755
ROLEX ロレックス
実用時計を追求し続けた時計界の巨人による百年の研鑽
腕時計の大敵であった水分や埃から守るため、ロレックス初の防水腕時計「オイスター」の特許を取得したのは1926年のこと。誕生100年を記念した新作は、ベゼルとリューズのみゴールドを採用した特別なコンビ仕様に仕立て、ブランド名や5分目盛りにはブランドカラーのグリーンを配して端正に仕上げた。6時位置には控えめに「100 YEARS」の文字が記されている。

『オイスター パーペチュアル 41』
自動巻き。パワーリザーブ約70時間。100m防水。ステンレススティール×18Kイエローゴールドケース。ケース径41mm。142万8900円(予価・今春発売予定)。
問い合わせ先:日本ロレックス 電話:0120・929・570
GRAND SEIKO グランドセイコー
独自の機構に磨きをかけ、日本的な美意識で表現したダイバーズウォッチ
時の移ろいを日本の自然観で体現しながら、高い実用性を追求するグランドセイコー。今年は年差±20秒という超高精度を実現した独自の駆動・制御機構「スプリングドライブ U.F.A.」をダイバーズに採用。文字盤は「Ushio(潮)」をテーマに、日本を取り巻く海流を型打ちによる立体感と、浅瀬の透明感をグリーンで表現した。着脱と微調整を容易にしたブレスレットも実用性が高い。

『Evolution 9 Collection スプリングドライブ U.F.A. Ushio 300 Diver』
自動巻きスプリングドライブ。300m防水。ブライトチタンケース。ケース径40.8mm、厚さ12.9mm。165万円。
問い合わせ先:セイコーウオッチお客様相談室(グランドセイコー) 電話:0120・302・617
AUDEMARS PIGUET オーデマ ピゲ
八角形のベゼルに軽快な機能を宿す小振りクロノグラフ
オーデマ ピゲは150年間、創業の家系で経営を続ける数少ないメゾン。ラグジュアリースポーツウォッチの始祖である「ロイヤル オーク」は自社製ムーブメントへの置換を進めており、38mmクロノグラフが完全自社製へと置き換わった。構造を簡素化したメカニズムを採用して機能性を大幅に向上させた。大振りになりがちなクロノグラフに38mmという選択肢は福音だ。

『ロイヤル オーク クロノグラフ』
自動巻き。パワーリザーブ約55時間。50m防水。ステンレススティールケース。ケース径38mm、厚さ11.1mm。594万円。
問い合わせ先:オーデマ ピゲ ジャパン 電話:03・6830・0000
取材・文/高橋克実
※『サライ』2026年7月号より






