《二条城行幸図屏風》の部分。

慶長20年(1615)、長く続いた戦乱の時代も、大坂夏の陣でついに幕を閉じた。徳川家康は、元号を元和に改め、「武家諸法度」「禁中並公家諸法度」を制定して武家・朝廷を統制。自らの権力基盤を確かなものとした。

元和6年(1620)、朝廷との結びつきを堅固にすべく、徳川秀忠は五女の和子(まさこ)を後水尾天皇のもとへ入内させた。寛永3年(1626)、秀忠と家光が上洛。後水尾天皇を、滞在中の二条城へ招待した。これに応じて行幸がなされ、城では5日間にわたる盛大な歓待がなされた。これを寛永行幸と呼び、寛永文化が花開く一つのきっかけをもたらした。

今年は寛永行幸から400周年。この節目に合わせ、泉屋博古館(京都市)にて「寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと」が開催されている。

泉屋博古館の外観。

3千人以上が描かれた屏風画

本展のハイライトとなるのが、当館所蔵の京都市指定文化財《二条城行幸図屏風》である。

《二条城行幸図屏風》(作者不明、17世紀、泉屋博古館蔵)。
《二条城行幸図屏風》の部分。

幅7mもの六曲一双の屛風絵に描かれているのは行幸の様子だ。金雲で仕切られた上下二段の構成で、上段は二条城へ向かう天皇以下朝廷方の御一行、下段が参内する将軍や大名たちの行列である。史実では行幸の当日、まずは家光と諸大名が御所へ赴き、二献の祝儀で退出。その後、朝廷方が城へと向かった。時系列ではおおむね下段が先、上段が後となる。

本作の発注者・作者ともに不明であるが、幕府の有力者が、当代一流の絵師が所属する工房に依頼したと推定される。それにしても、スケールといい、細密さといい、色使いといい、その豪華絢爛さには目を奪われる。一大行事の晴れがましさを表す、入魂の大作と讃嘆するほかない。

本作の特徴の一つが、描かれた3226人のうち、沿道の見物人たちが半数を超える点だ。彼ら・彼女らは、赤や緑の敷物や桟敷にひしめくように座っている。手を合わせて拝んだり、片手をかざしたり、両腕を組んだり、身を乗り出したり…。厳粛な行幸の見物はそっちのけで、酔った勢いで大騒ぎしている集団も見える。屈託のない民衆こそ、天下泰平を象徴する第三の主役と言ってよさそうだ。

展示室前のロビーには、大画面のディスプレイで解説動画が流れ、くわえて2面のタッチパネルディスプレイで、本作のデジタル画像を拡縮しながら観ることもできる。

タッチパネルディスプレイでデジタル画像の閲覧も可能。

東福門院が制作した押絵も展示

行幸から3年後の寛永6年(1629)、和子は院号宣下を受けて東福門院となった。彼女は、譲位した後水尾天皇とともに、寛永文化を牽引するキーパーソンの1人として活躍した。

《東福門院像》(源秀飛、文政10年(1827)、光雲寺蔵)。

本展の公式図録には、「後水尾院の仙洞御所では和歌・連歌・和漢聯句・講釈・立花など多彩な遊芸が催され、東福門院の御所でも和歌や香、舞の見物などの会が重ねられた」とある。身分的には町人、商人、僧侶といった文化人が、貴人のもとへ訪れることが許され、サロン文化が醸成された。

東福門院自身は押絵をよくした。本展では、彼女の手による押絵《在原業平・小野小町像押絵》《馬郎婦観音像押絵》が展示されている。

《在原業平・小野小町像押絵》(東福門院、17世紀、佐太天神宮蔵)。

押絵とは、布を貼り合わせて歌仙・演能風景・神仏などを描いた手芸作品のこと。東福門院は自らの作品を、交流のあった貴人や文化人に贈答した。

優美な小袖にも注目

冒頭で取り上げた《二条城行幸図屏風》で、見物人の表情・振る舞いから視点をずらし、着衣に注目してみよう。そこにはバリエーション豊かな小袖の数々が見え、どんな柄・模様があるかを鑑賞するのも面白い。

小袖は、高貴な身分の人々も着用し、東福門院も例外ではなかった。彼女は、皇室御用の呉服屋に多くの小袖を注文していたことが記録に残っている。「自身のみならず皇女や女官にも小袖を惜しみなく贈り、公家社会への普及を促した」(『公式図録』)という。

当時の小袖で現存するものは少ない。後世の染織史研究家の野村正治郎が、痛みの進んだこの時期の小袖を、金屛風に貼られた衣桁(いこう)にあたかも掛けているように貼装した作品が展示されている。その先進的とも言える意匠は、現代人が見ても驚くものである。

《染分絖地波菊重模様小袖屏風》(左)と《白絖地扇文字の丸模様小袖屏風》(右)
(野村正治郎、20世紀前葉[小袖は17世紀]、国立歴史民俗博物館蔵)(前期のみ展示)。

このほか本展では、寛永行幸に関連した優品のみならず、当代に生み出された書画・工芸品が多数展陳されている。会期は10月18日までとなっているので、機会を得てぜひ訪れてほしい。

【開催要項】
寛永行幸四百年記念 特別展 寛永行幸と花の都の文化びと
会期:~10月18日(日)
※前期は9月27日(日)まで、後期は9月29日(火)~10月18日(日)まで
会場:泉屋博古館
住所:京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24
電話:075-771-6411
公式サイト:https://sen-oku.or.jp/program/202609_splendidparade400/
開館時間:10時~17時(入館は16時30分まで)
休館日: 9月28日、10月5日、13日
料金:公式サイト参照
アクセス:公式サイト参照

【主要参考図書】
『寛永行幸と花の都の文化びと』(公式図録)(実方葉子編/泉屋博古館)
『京都二条城と寛永文化』(Living History in京都・二条城 協議会編/青幻舎)

取材・文・(《二条城行幸図屏風》の部分を除く)写真/鈴木拓也
老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライターとなる。趣味は神社仏閣・秘境めぐりで、撮った写真をInstagram(https://www.instagram.com/happysuzuki/)に掲載している。

 

ランキング

サライ最新号
2026年
10月号

サライ最新号

人気のキーワード

新着記事

ピックアップ

サライプレミアム倶楽部

最新記事のお知らせ、イベント、読者企画、豪華プレゼントなどへの応募情報をお届けします。

公式SNS

サライ公式SNSで最新情報を配信中!

  • Youtube
  • Facebook
  • Twitter
  • Instagram
  • LINE

おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店
おすすめのサイト
dime
be-pal
リアルキッチン&インテリア
小学館百貨店