ブレゲ タイプ XX 2075｜1930年の伝説的飛行を現代に蘇らせた250周年記念モデル

1930年、パリからニューヨークへの大西洋横断飛行を成し遂げたブレゲXIXスーパービドン「クエスチョンマーク号」。その機体に使われたアルミニウムを文字盤に採用し、70年前に実在したゴールド製「タイプXX」を現代に復活させた特別なクロノグラフが誕生しました。

文／土田貴史

歴史に根ざしたゴールドモデルの復活

今回発表された2つのモデルが特別な意味を持つのは、実際に1955年にブレゲが製作した民間用「タイプXX」の歴史的事実に基づいているからです。軍用モデルがステンレススティール製であったのに対し、民間用として製作された3本のモデルはイエローゴールド製でした。つまり、今回のゴールドモデルは単なる派生版ではなく、70年前の正統な系譜を受け継ぐ復活品なのです。

ブレゲ・ミュージアムに収蔵されている1955年製の実機を参考に、文字盤デザインも忠実に再現されました。オリジナルはサテン仕上げのシルバー文字盤でしたが、その後ブラックに変更されたという歴史的変遷も、今回の2バリエーション展開に反映されています。

ケース素材には、ブレゲの名を冠した独自合金「ブレゲゴールド」が採用されています。この特別な金は、75％のゴールドにシルバー、コッパー、パラジウムを組み合わせた独自配合で、従来のイエローゴールドとは一線を画すブロンドカラーの色調を実現しています。この合金は、ブレゲの技術革新を象徴する素材です。

直径38.3mm、厚さ13.2mmのケースは、1955年の歴史的モデルと同一の寸法を採用し、オリジナルへの敬意と現代的な着用感を両立させています。

航空史への壮大なオマージュ

最も注目すべきは、ブラック文字盤モデルに採用されたアルミニウム素材です。これは、1930年9月1日から2日にかけて、パリからニューヨークへの大西洋横断無着陸飛行を世界で初めて成功させた「ブレゲXIXスーパービドン」への直接的なオマージュです。

当時の航空機は機体成分の95％がアルミニウム合金「ジュラルミン」で構成されており、ルイ・ブレゲがこの軽量素材の先駆者であったことから、時計の文字盤に同素材を採用することで歴史への敬意を表しています。7時と8時の間に控えめに記された「AL」の文字が、この特別な素材選択を物語っています。

表面処理には陽極酸化技法を採用し、深いブラックと抜群の耐久性を実現しました。この技術は現在も航空宇宙分野で使用されており、まさに空への憧憬を体現しています。

ブレゲという名前が航空史に刻まれているのは、創設者アブラアン-ルイ・ブレゲの5代目の子孫、ルイ-シャルル・ブレゲ（1880-1955年）の功績によるものです。高等電気学校を卒業した彼は、1911年にブレゲ航空会社を設立し、50年間にわたって革新的な航空機を開発しました。

第一次世界大戦で活躍した伝説的複葉機ブレゲ14、商用飛行の発展に貢献したブレゲ「ドゥ・ポン」、そして1930年の歴史的大西洋横断を成し遂げたブレゲXIXスーパービドン「クエスチョンマーク号」。これらの航空機は、ブレゲ家の革新精神が時計製造から空の世界へと拡張した証しです。時計メゾンとしてのブレゲが1952年から軍用・民間用「タイプXX」を供給してきた歴史も、この深い航空との関係性の延長線上にあります。

さて、搭載されるキャリバー7279/7278は、2023年に導入された5Hzの高性能ムーブメントをベースとした手巻き仕様の新派生機です。クロノグラフ機能については、フライバック仕様となっていて、4時位置のボタン一回の操作でクロノグラフのリセットと再スタートが同時に行われます。ムーブメント裏面には、1930年の飛行経路とブレゲXIXの機体、ヨーロッパと北アメリカの沿岸が手彫りで描かれ、この時計が持つ歴史的意義を物語っています。

またシルバー925文字盤モデルは250本限定で、ケースバックのサファイアクリスタルに限定シリアルナンバーが刻印されます。

「ブレゲ タイプ XX 2075」は、70年前の歴史的モデルへの敬意、航空史への壮大なオマージュ、そして現代的な技術革新が見事に融合した、真の記念碑的作品です。時計愛好家にとってはもちろん、航空史に興味を持つ人々にとっても、特別な意味を持つタイムピースなのです。