文・石川真禧照(自動車生活探険家)

10代から20代の頃、運転免許が欲しくて仕方のなかった人は、大抵憧れの車があった。
その車は屋根の開いたオープンカーだったり、スピードの出るスポーツカーだったが、もちろん購入できるほどの収入もなく、夢の話だった。



時が過ぎ、この若者だった人たちが当時の憧れの車を購入する例が増えている。当然新車ではなく、車齢50年近い中古車だ。じつは筆者もそのひとりなのだが、当時の車は中古車市場でも台数が少なく、また同じことを考えている同朋は多いらしく、近年市場での値上がりが激しい。あの頃の新車価格の数倍であることも珍しくないのだ。





1970年(昭和45年)、10月。東京・晴海で第17回東京モーターショーが開催された。前年からこの年にかけての国産車は、鈴鹿や富士でサーキットレースが盛んだったこともあり、国産各社がスポーツカーを発表し、一堂に展示していた。そのほとんどが今日、名車と言われている車だった。
トヨタ・セリカ、日産スカイラインGTR、三菱ギャランGTO、ホンダ1300クーペ、いすゞベレットGT等、次々と車名が出てくる。その中にフェアレディZもあった。
フェアレディZはそれまでの屋根のない二人乗りオープンカーのフェアレディからクーペタイプの二人乗りスポーツカーへとフルチェンジし車名も変更されたモデルで、フェアレディZはその後、モデルチェンジを繰り返しながら2022年には7代目が送り出された。スカイラインとともに日産車の中では歴史のある車名になっている。




7代目のZを開発するときに、その性格付けをどうするかが開発部門で取り上げられた。日産にはGTRという超ド級のスポーツカーもある。調査してみると、初代Zが日本だけでなく、米国でも支持されている事がわかった。本格的なスポーツカーというよりはスポーツカーの雰囲気を楽しめる車ということで人気があった。その人気の理由のひとつがスタイリング。そこで、新型は初代をオマージュしたスポーツカーにすることにした。60年代から70年代のデザインを取り入れるのは世界的にも流行していた。


冷静に考えれば、当時の車は安全面でも環境面でも現在の基準には合致しない。特に衝突安全に関しては運転者や同乗者だけでなく周囲に対しても責任がある。技術面でも最新のテクノロジーの発達は目覚ましいものがある。電子制御の進化は特に凄い。実際に古い車を最近試乗した時にヒヤッとする場面もあった。


7代目のフェアレディZが発表されたのは2022年。ところが発表してから生産技術での問題が発生し、国内での受注が中断してしまった。待つこと約1年、ようやく25年モデルが販売されることになった。
撮影と試乗を兼ねた取材期間中、最新のフェアレディZが数日間我が家のガレージに居たのだが、毎日その姿を見て、ドアを開け、乗り込んだ時、50年以上前に憧れの車に乗ったかのような幸せの時間を味わうことができた。当時の実車を手に入れるのも楽しいが、もっと気軽にこういう形で憧れの車を乗り回すのも、車の楽しみのひとつの方法かもしれない、と思った。
日産/フェアレディ Z バージョン ST
全長×全幅×全高 | 4380×1845×1315mm |
ホイールベース | 2550mm |
車両重量 | 1620kg |
エンジン | V型6気筒ガソリンツインターボ 2997cc |
最高出力エンジン | 405ps/6400rpm |
最大トルクエンジン | 475Nm/1600~5600rpm |
駆動形式 | 後輪駆動 |
燃料消費量 | 10.2km(WLTC) |
使用燃料/容量 | 無鉛プレミアムガソリン/ 62 L |
ミッション形式 | 電子制御 9速自動変速 |
サスペンション形式 | 前:ダブルウイッシュボーン/後:マルチリンク |
ブレーキ形式 | 前:ベンチレーテッドディスク/後:ベンチレーテッドディスク |
乗員定員 | 2名 |
車両価格(税込) | 675万9500円 |
問い合わせ先 | 0120-981-523 |

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。
撮影/萩原文博