体重や血糖値、血圧の数値は気にしているのに、“口の老化”を気にかける人は少ないといえます。でも、多くの研究者が「すべての老いは口からはじまる」と警鐘を鳴らしていることをご存じでしょうか。
最近、「食事中によくムセる」「食欲がわかない」「食べているとなんだか疲れる」「胃もたれする」「口が乾く」「滑舌が悪くなった」……、そんな症状を感じている人は口の老化が始まっているかもしれません。
『歯科医が考案 毒出しうがい』(アスコム)が13万部のベストセラーとなった、歯学博士・照山裕子先生の最新刊『食事でムセる かみ切れない 口臭が気になる人のための口の強化書』から、口の老化と予防対策についてご紹介します。
文/照山裕子
あなたの口、老化していませんか?
「最近足腰が弱ってきた……」
「人の名前を覚えられなくなった。脳が衰えたかな……」
このような趣旨の話を耳にしたり、ご自身で実感されたりする人は、意外と多いのではないでしょうか。でも、「最近、口が弱ってきた(衰えてきた)」という言葉はあまり聞きませんよね? ただ、気づきにくいだけで、口だって年齢とともに老化していきます。
加齢によって、心身の機能が老化して弱っていくことを「フレイル(虚弱)」といいます。年をとって体力が低下する、足腰が弱くなっている、そういった体の変化のことを指します。
その最大の要因は、筋肉が落ちていくことが挙げられます。筋肉が落ちると、動かなくなり、エネルギー消費量も減り、動かないからおなかも減らないので食べられずに、十分な栄養が摂取できないという悪循環に陥ってしまいます。関係ないようにみえて、筋肉の低下は「口の老化」が大きくかかわっています。
口が衰え、「噛む力」や舌の動きが悪くなると、食べるのを避けるようになるなどして、栄養摂取の面で支障をきたします。加えて、滑舌が悪くなり、人との交流を避けるようになります。その結果、家に閉じこもりがちな生活をおくるようになり、筋肉(力)の低下につながり、さらに外に出なくなることで、生きがいまでも失ってしまうという負の連鎖を招く可能性があるのです。
驚くことに、体のなかでもっとも老化が早いのが口だといわれています。「口の老化」のことを「オーラルフレイル」というのですが、公益社団法人日本歯科医師会「歯科診療所におけるオーラルフレイル対応マニュアル2019年版」によると、オーラルフレイルの人が2年以内に身体的フレイルを発症する確率は、約2.4倍だとあります。ですから、足腰が弱った、衰えたと感じる人は、すでに、口が衰えている可能性があるのです。
口の衰えからくる症状のひとつである「食事でムセる、かみ切れない、口臭が気になる」というタイトルの言葉が気になって本書を手に取った人はもちろんのこと、ほかにも、以下のような症状がある人は、特に注意が必要です。たとえ年齢が若くても、「口だけ老人」になっている可能性があるからです。
・よく食べこぼす
・食事をしていると疲れる
・最近あまり食べ物の味がしない
・滑舌が悪くなった
いまの自分の「噛む力」「舌の力」を簡単にチェック!
好きなグミをひと粒口に入れて飲み込むまでに、何回噛んでいますか?
いかがでしょうか?
「20回ほどかな」という人もいれば、「いや、40回は噛んでいるよ」という人もいるでしょう。もしかしたら、10回ほど噛んだら、もう飲み込んでいる人もいるかもしれません。グミのかたさにもよりますが、平均的には、ひと粒につき30回ほど噛んでいるとされています。この数字から、もしあなたがグミひと粒につき30回より少ない回数で噛んで飲み込んでいれば、それは「あまり噛むことができていない」というひとつの目安になります。自分が食べたり飲み込んだりする早さは、ふだんあまり意識しないものです。そのため、自分ではなかなか気づきにくいのですが、グミをひと粒噛むのが30回以下の人は、ふだんの食事も十分に噛まないまま飲み込んでしまっているかもしれません。そうして、知らないうちに体に負担をかけている可能性が高いといえます。歩かなければ足腰の筋力が落ちてしまうのと同じです。よく噛んでいないということは、あまり口の筋肉を動かしていないわけです。それは、口の筋力が衰えてしまうことにつながります。つまり、グミをひと粒30回よりも少なく噛んでいる人は、「噛む力が弱っている可能性が高い」といえるのです。
「噛む力」に加えてもうひとつ、「口の老化」に関係する重要な機能である「舌の力(舌圧)」もチェックしてみましょう。
グミを歯ぐきの裏側に舌で押し付けて、何秒間キープできますか?
後ほどご紹介する「かみかみリズム体操」では、約10秒間キープすることを目安にしています。10秒というと簡単に思えるかもしれませんが、実際は10秒もできない、できたとしても疲れてしまうという人がかなり多くいます。なぜ、このプロセスを体操に組み込んでいるかというと、わたしは「舌の力」が十分にあるかどうかが、口の健康、ひいては体全体の健康にかかわる重要な要素だと考えているからです。「舌の力」は、口の機能が健康なのか、衰えているのかを判断するための重要な指標となります。「舌の力」といわれても、あまりイメージできないかもしれませんね。わたしたち歯科医が、患者さんの口の健康を測るときにいちばん注目するのが、「舌の力」です。学術的にも、「舌の力」はもっとも信頼度が高い指標とされ、各種の研究が進められている分野でもあります。端的にいえば、「舌の力」さえしっかりしていれば、口の健康は維持できる。そういっても過言ではないほどです。歯がない赤ちゃんやお年寄りがどうやって栄養を摂るのか、これは「舌の力」で食べ物を押しつぶし、飲み込むことができるからにほかなりません。
衰えた口を楽しく鍛えるエクササイズ
「かみかみリズム体操」と仕上げの「毒出しうがい」で、楽しく口を鍛えられます。寝る前以外でしたら、いつでもOK。1日2回行なってください。なお、1回に使用するグミは2粒。30回程度のかたさで飲み込めるものを使用してください。
STEP1 舌ポジリセット
1.好みのかたさのグミを口に含み、舌の上にのせます。
2.舌を使って、グミを歯ぐきの裏側にぐっと押し付け、その状態を10秒キープします。
STEP2 3・3・7拍子がみ
1.「舌ポジリセット」のグミを舌で左側の歯に持っていき、3・3・7拍子のリズムで噛みます。
2.次に舌で右側の歯にグミを持っていき、右側の歯でも3・3・7拍子のリズムで噛みます。
3.さらに左側で同様に噛みます。飲み込めるくらいまで2~3を繰り返して、飲み込みます。なお2セット目を行なうときは右側の歯から噛みはじめましょう。
※新しいグミで、STEP1とSTEP2を、もう1度繰り返しましょう
STEP3 毒出しうがい
1.上の歯をきれいにする/30ml程度の水を口に含み、口を閉じます。そのまま口に含んだ水を上の歯に向けて、クチュクチュとできるだけ大きな音になるように強く速くぶつけます。
2.下の歯をきれいにする/同じように口に水を含み、その水を下の歯に向けて、1.と同じように強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
3.左の奥歯をきれいにする/同じように口に水を含み、その水を左の歯に向けて、強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
4.右の奥歯をきれいにする/同じように口に水を含み、その水を右の歯に向けて、強く速くぶつけます。10回ぶつけたら、水を吐き出します。
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食事でムセる かみ切れない 口臭が気になる人のための口の強化書
著/照山裕子 監修/來村昌紀
アスコム 1430円
照山裕子(てるやま・ゆうこ)
歯学博士。東京医科歯科大学非常勤講師(顎顔面補綴外来)。
日本大学歯学部卒業、同大学院歯学研究科にて博士号取得。世界でも専門医が少ない『顎顔面補綴』を専攻し、口腔がんの患者と歩んだ臨床体験から予防医学の重要性を提唱する。「日本人の口腔ケアへの意識を変えるにはどうしたらいいのか?」という課題の答えのひとつとして考案した内容を『歯科医が考案 毒出しうがい』(アスコム)として書籍化。13万部のベストセラーとなった。現在は大学病院及び全国の歯科クリニックにて診療を続ける傍ら、テレビ・ラジオなどのメディアにも多数出演。『日経xwoman』のオフィシャルアンバサダーも務める。『新しい「歯」のトリセツ』(日経BP)など、著作多数。
監修/來村昌紀(らいむら・まさき)
らいむらクリニック院長。千葉大学臨床教授。医薬学博士。日本脳神経外科学会脳神経外科専門医。
和歌山県出身、和歌山県立医科大学、千葉大学大学院卒業。和歌山県立医科大学附属病院などで経験を積み、2014年にらいむらクリニックを開設。著書に『漢方専門医の脳外科医が書いた漢方の本・入門編』(あかし出版)など。