文・写真/坪井由美子(海外書き人クラブ/海外プチ移住ライター)
50代で思いきって始めたマルタでの新生活。第1回目は移住を決めた理由から準備(https://serai.jp/kajin/1130064)、第2回目では語学学校の様子をお話しました(https://serai.jp/kajin/1140334)。今回のテーマは個人的に一番重要な「食」。スーパーの食材やお気に入りの市場など、マルタの自炊生活についてお伝えします。
マルタ料理って何?
マルタ料理と聞いてピンとくる人は少ないと思います。欧州に長く暮らした私にとってもこれまで出会う機会がなかった未知の料理。実際に暮らしてみると、イタリアやアラブ、イギリスなどの影響を受けたという食文化はとても興味深く、なんといっても新鮮なシーフードが豊富なのは嬉しいことでした。
マルタのスーパー探検
マルタではできるだけ自炊しようと思い、到着してまず最初に向かったのがスーパーマーケット。地元のスーパーをいくつか回ってみたところ、品揃えはドイツとそれほど変わらず必要なものはほとんど揃います。手前味噌で恐縮ですが、自著『在欧手抜き料理帖』(欧州の普通のスーパーで手に入る食材を使った簡単レシピ本)に掲載した料理もたいていのものは作れそう。毎月書いているレシピ連載では、マルタでよく食べられるリコッタチーズを使ったメニューを紹介したりもしました。
島国マルタは物資の多くをイタリアなどから輸入しているので、物価はそれほど安くはなく、ドイツより若干高め。そんな私の救世主となったのが、ドイツでおなじみのディスカウントスーパー「Lidl」。家からは遠かったのですが時々バスで買い出しに行き、日本米に比較的似ている品種のイタリア米やパスタ、大容量のお菓子などをまとめ買い。
お米はアジア系スーパーで買うことも。割高ではあるものの醤油や味噌、冷凍納豆なども揃います。韓国料理が好きなのでキムチやコチュジャンも冷蔵庫に欠かせません。
新鮮な食材は市場で
海外で楽しみなのが、地元の人々のふだんの生活が垣間見られる市場めぐり。マルタでもあちこちの市場に出かけました。青空市場には地元産の新鮮な野菜や果物が並びます。顔見知りになった八百屋さんがおまけしてくれたり調理法を教えてくれたり、そんな交流も楽しく、住人として受け入れられているようで嬉しくなります。
毎週日曜日には、島の南端にある漁村マルサシュロックで大規模なフィッシュマーケットが開かれます。港沿いに並ぶ屋台では魚介類だけでなくお菓子や蜂蜜、工芸品などのみやげ物、衣類や靴など様々な品物が売られていて地元の人や観光客で大賑わい。活気があって見て歩くだけでも楽しい市です。
日本でも人気のマルタ産マグロ
マルタはマグロの養殖で有名ですが、地元ではあまり消費されず多くは国外に輸出されるそうです。主な輸出先はなんと日本。デパ地下やスーパーで「マルタ産マグロ」を見かけた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
マルタの鮮魚店では冷凍じゃない新鮮な本マグロが手に入ります。しかも1kg2ユーロからとお手頃。欧州では脂身はあまり好まれないので、赤身よりトロの方が安いのも日本人にとっては嬉しいポイントです。
焼き立てのマルタパン
マルタで感動した食べ物のひとつがパン。無形文化遺産に登録される「フティーラ」はふかふかした生地の伝統的なパンで、ピザ生地にもよく使われます。お気に入りは、外側はパリッとしていて中はふんわりとした食感の「ホブス」と呼ばれるパン。スライスしてサンドイッチにしたり、バターとマルタ産のおいしい蜂蜜をかけて食べるのが朝の楽しみです。
石窯で焼き上げられたばかりのパンは、驚くほど香ばしく風味豊か。各地に点在する昔ながらのパン屋さんを訪ね歩いています。今のところ一番の行きつけは、ヴァレッタ旧市街のはじっこでみつけた、一見してパン屋と分からないほどそっけないお店。無口なおじさんがせっせと焼いているパンのおいしいことといったら! しょっちゅう通って感動を伝えていたら、工房を見せてくれるようになりました。おじさんはあいかわらず無口なのですが、それも含めて最高のお店です。
文・写真/坪井由美子
ライター&リポーター。ドイツ在住10数年を経て、世界各地でプチ移住しながら現地のライフスタイルや文化、グルメについて様々なメディアで発信中。著書『在欧手抜き料理帖』(まほろば社)。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」会員(https://www.kaigaikakibito.com/)。