文・写真/新宅裕子(海外書き人クラブ/イタリア在住ライター)
イタリア料理の大定番、子どもも大人も大好きなピザが近年、大きく進化しています。もともと、ナポリ風ピザは生地がもちっと分厚いとか、ローマ風はカリッと薄めとか、そんな地方による違いはありました。しかし、モダンなタイプのピザは、今までのイメージを完全に覆す別物です。そこで今回は、イタリア語っぽく「ピッツァ」と発音しながら気取って食べたくなるような、オシャレな「グルメピッツァ」をご紹介します。
シェフのこだわりが詰まったグルメピッツァ
そもそも、イタリアでのピザの位置付けは庶民のお手頃なソウルフードと言えるでしょう。テイクアウトしたり、家で小麦粉をこねて手作りしたり、どの家庭でも気軽に食べられているもの。ピッツェリアと呼ばれる専門店で食べても、シンプルな伝統マルゲリータ(トマトソースにモッツァレラチーズとバジルをのせたピザ)なら一枚1000円もしないくらいです。そこにズッキーニやナスといった野菜やキノコ、サラミ、ハムなどをのせ、好きなチーズを選んでさまざまな味を楽しめるのが醍醐味でもあります。
しかし、グルメピッツァ(別名:コンテンポラリーピッツァ)となるとそうはいきません。そのピッツァを焼くのはピザ職人ではなく、もはや一流シェフ。こだわりの食材を使って仕上げられるアートのようなピッツァは、普通のピザの約4倍というイタリアにしてはビックリな価格帯ですが、ジワジワと流行りの兆しが見えています。
香ばしく軽い生地に華やかなトッピング
では一体何が現代的なのでしょうか。まず、直径30センチはある従来のピザは、食べ切ると満腹になって重いと感じることも時たまありますが、グルメピッツァは見た目のボリュームと裏腹、意外と軽いものです。ある有名シェフは、この種のピッツァを「空気パン」と名付けて商標登録までしているほど。その秘密は、粉の材料と発酵過程にあります。
グルメピッツァの大きな特徴は薄力粉のみならず、全粒粉や大麦粉、米粉、トウモロコシの粉など、小麦粉に別の粉が混ぜられて生地が作られていること。さらに、イタリアでよく使われるビール酵母の粉ではなく、フレッシュな天然酵母を使っています。2日以上かけて長時間発酵させたり、使う粉の種類によっては温度と湿度を管理しながら二段階(もしくはそれ以上の)発酵を丁寧にゆっくり行ったりすることで、ふわっふわな仕上がりになるのです。
また、具をのせずに生地だけを焼いていくので、この段階ではピッツァというより大きく丸いパン。粉それぞれの特性を生かし焼き加減を調整することで、外はサクサク、中はふんわりというという、絶妙な生地となります。この粉の調合と発酵が、ピッツァシェフの第一の腕の見せどころなわけです。
そのうえ、トッピングが超豪華。基本的には生地と別で調理され、出来上がったパンにのせられていきます。ブランドの生ハムやトリュフといった高級食材のほか、色鮮やかな野菜クリームやエディブルフラワーの添えられたピッツァはまるで芸術作品のよう。生地自体の香ばしさと贅沢な具の美味しさは言うまでもありません。
シェフの個性と伝統と アイデア次第で可能性は無限大
伝統料理が根強いイタリアで注目を集めている進化系ピッツァ。先日開かれたNESPRESSOによるイベント“Coffee & Pizza”では、グルメピッツァの生地にコーヒーを練り込むというユニークな試みもありました。三度目の試作でようやく納得できたという若きシェフたちは、液体のコーヒーを小麦粉に混ぜた後、生地を焼く際にも挽いたコーヒー豆の粉をまぶしたそう。一風変わった表面の黒い生地は、ほのかにコーヒーの香が口に残るという主張しすぎない巧みなお味でした。
このように、グルメピッツァは遊び心あふれる楽しい最新グルメといった感じで、シェフや企業がオリジナリティを追求して組み合わせの試行錯誤を繰り返しています。
バラエティに富み、生地にもトッピングにも無限の可能性がありそうですが、シェフたちは旬を大切にし郷土食を意識しながら具材を選んでいるとのこと。ここにしっかりとイタリアらしさも見受けられました。
家族や友人たちとワイワイガヤガヤ一緒に食べるピザももちろん素晴らしい伝統ですが、シックな雰囲気で味わうグルメピッツァ、日本の方のお口にも合うこと間違いありません。
文・写真/新宅裕子(イタリア在住ライター)
東京のテレビ局で報道記者を務めた経験を活かし、イタリア・ヴェローナ移住後も食やワイン、伝統文化、西洋美術等を取材及びコーディネート。ガイドブックにはない穴場や現地の暮らしを紹介するほか、ワインなどの輸出仲介も行う。世界100ヵ国以上の現地在住日本人ライターの組織「海外書き人クラブ」(https://www.kaigaikakibito.com/)会員。