
クルマは、ときにその国の美意識や価値観を映し出す鏡にもなる。日本で首相専用車としてトヨタ・センチュリーSUVが採用され注目を集めるなか、フランスでは大統領専用車としてDSオートモビルの新世代EV「N°8(ナンバーエイト)」が存在感を放つ。フランス伝統のサヴォア・フェールを宿したこのモデルが提示する、新世代のフレンチラグジュアリーとは。
文/竹井あきら
N°8が描く美しき移動体験の未来
日本の首相専用車として、トヨタ・センチュリーSUVが採用された。そんなニュースが巷で話題に上るのも、国を代表する要人が乗るクルマがその国のラグジュアリーや美意識、技術力を映すからかもしれない。
フランスの大統領専用車は、「N°8(ナンバーエイト)」。素材選びから仕上げに至るまで美の追求を極めるフランス伝統の職人技術「サヴォア・フェール(匠の技)」を礎とするフランスのプレミアムブランド、DSオートモビルの新世代EVモデルである。
日本では2025年5月のフォーミュラE、そして2026年1月の東京オートサロンで披露されたこのN°8が、ついに日本で発売開始となった。煌びやかなDSブランドの頂点に立つ、贅を極めたフラッグシップの登場だ。

全長4845mm、全幅1900mm、全高1585mmという堂々たるボディは、SUVとクーペが融合した官能的なフォルムを纏う。EVの要とも言える空力性能にもこだわり、フラットなアンダーボディやリトラクタブルドアハンドル、アクティブエアグリッドシャッターなどを駆使し、Cd値0.24という優れた数値を実現している。


フロントフェイスには、3つのライトユニットとともに、8つのダイヤモンド型LED装飾を水平に配置。近未来を感じさせる先進的かつアーティスティックなライティングデザインは、ジュエリーのように精密で美しい。リアにはブランド初となる垂直ラインを取り入れた3D LEDテールランプを採用し、後ろ姿も抜かりない。

そしてフレンチラグジュアリーを体現したインテリアこそDSの真骨頂。ドアを開ければ、フランスのクラフトマンシップ「サヴォア・フェール」が存分に発揮された、美しい工芸品におぼれるような体験が待っている。
シート、ダッシュボード、ドアトリムに至るまで贅沢に用いられた明るい茶色のナッパレザーには、光を受けると真珠のネックレスのように輝くパールトップステッチが施される。ライトゴールドのアクセントを効かせたブラッシュドアルミニウムパーツには、ヴァンドーム広場の石畳を表現したという「クル・ド・パリ」装飾が施され、高級腕時計やジュエリーのような輝きを添える。

特徴的なのは、クルージングヨットから着想を得たというステアリングホイール。Xシェイプのスポークにはクル・ド・パリ文様のライトゴールドのアクセントが配され、手にしっとりとなじむナッパレザーの質感とあいまって、見ても触れても質感が高い。
クーペライクなスタイリングながら、着座位置はSUVらしく高く乗り降りしやすく、シートの座り心地も快適だ。張りのある高密度フォームと調整式ボルスターが身体をしっかり支え、長距離移動でも疲れにくい。ベンチレーション機能に加え、ヘッドレスト下部には新機能のネックウォーマーも備える。
ラゲッジスペースは通常時で約620ℓの積載容量を誇り、さらに後席は3分割可倒式で長尺物まで対応する。

フローティングタイプのセンターコンソールやフランスのハイエンドオーディオブランド「フォーカル」のスピーカーカバーもまた独創的なデザインで、異国情緒どころか驚きと畏れをも感じさせる。
見上げれば、放射線状の装飾が施されたパノラミックガラスルーフが一面に広がって空を透過する。流れる景色が生む解放感の中で、前衛と伝統が息づく濃厚なパリの美学が味わえる、唯一無二のインテリアだ。

静粛性も秀逸で、DS独自の3層シーリング構造に加え、消音ラミネーテッドガラスをはじめとする遮音設計により、外界のノイズを徹底的に遮断。ドアを閉めた瞬間、まるで静寂の繭に包まれるような感覚が訪れる。
14スピーカーと690W高出力アンプが備わるフォーカル社の3Dプレミアムオーディオシステムは繊細なニュアンスまで再現する。EVならではの静けさを味方につけた、上質なオーディオルームで楽しむ音楽体験は至福だ。

N°8の核となるプラットフォームには、ステランティスの「STLA-Medium」が採用されている。97.2kWhの大容量バッテリーを低重心化と前後重量配分の最適化を図るためフロア中央に配置し、WLTCモード一充電航続距離はクラストップレベルの750kmを達成。急速充電は最大160kWに対応し、効率的な充電性能も確保した。
パワートレインには前後にモーターを備えるデュアルモーターAWDシステムを搭載。FIAフォーミュラE選手権で培われた電動化技術を活かし、レスポンスに優れたダイナミックな走りとエネルギーマネジメントを両立したという。
回生ブレーキシステムは3段階から選択可能な回生モードを備え、アクセル操作のみで減速、停止が可能なワンペダルドライブにも対応する。
システム最高出力は350ps、0-100km/h加速は5.4秒。路面状況を先読みしてダンパーを制御する「DSアクティブスキャンサスペンション」がしなやかな乗り心地と安定感を両立。その走りは力強く、そしてとても滑らかで、波を抑え込みながら走る船のような走行感もまた独特だ。

最新技術も充実している。
16インチワイドタッチスクリーンを備える「DS IRISシステム」は、オーディオ、ハンズフリー通話、運転支援機能など多岐に渡るインフォテインメントメニューをスマートフォン感覚で操作できる直感的なインターフェイスを持つ。ChatGPTと連携し、インタラクティブな対話も可能だ。

N°8は、美しいものに囲まれる喜び、静かな時間を味わう豊かさ、そして移動そのものを楽しむ贅沢にあふれている。速さや効率を競う時代の先にあるもの。N°8が描くフランス流ラグジュアリーの未来は、じつに優雅だ。
希望小売価格は、「N°8 ETOILE AWD」が 10,050,000円、「N°8 ETOILE AWD アブソリュートコンフォートパッケージ」が10,450,000円(いずれも税込)。ボディカラーは「クリスタルパール」、「ノアールペルラネラ」、「グリパラディオム」に2色の新色「ブランアルバータ」「ブルートパーズ」を加えた5色で展開される。
DS AUTOMOBILES
URL: https://www.dsautomobiles.jp/models/dsn8.html





