日本が世界に誇るドレスウオッチ「クレドール」のブランド誕生から50年の節目を迎え、特別な限定モデルが発表されました。わずか5本の超限定生産で、価格は1650万円。その驚きの技術と芸術性に迫ります。
文/土田貴史
四層の彫金ダイヤルが織りなす“時の物語”
クレドールとは、1974年に誕生したドレスウオッチブランド。フランス語で「黄金の頂き(CRÊTE D’OR)」を意味する名前の通り、最高級の品質と究極の美しさを追求しています。日本の美意識と匠の技を結集させ、手にした人の心を満たし、人生に彩をもたらす腕時計を生み出してきました。
今回の50周年記念モデルは、「クレドール ゴールドフェザー」をベースとしています。このゴールドフェザーとは、セイコーの薄型メカニカルウオッチの系譜を受け継ぎ、60年以上の時を経て、昨年に蘇ったモデルであり、羽根のように「薄く」「軽やか」で、「空気をはらみ」、「艶やか」で、「優美」であることをコンセプトに、現代のドレスウオッチとしてアップデートされた超薄型モデルとなっています。
さて、50周年記念モデルの最大の特徴は、四層に重なった緻密な彫金ダイヤルにあります。手掛けたのは、彫金師・照井清(てるい・きよし)氏。照井氏は、1984年からクレドールの宝飾時計を手がけてきた凄腕の職人です。2002年には「現代の名工」として表彰され、2007年には黄綬褒章も受章している、日本を代表する彫金師なのです。照井氏は、これまでも数々の息を呑む芸術をクレドールのなかに生み出してきましたが、今回の作品はさらなる新境地だそうです。
本作では50周年を機に新たな一歩を踏み出すクレドールの「門出」が表現されました。モチーフは「Panta rhei(パンタレイ)」。万物流転すなわち、あらゆる存在は時の流れとともに変化して極まりない」という意味で、時の概念を水の流れに例えてビジュアル化しています。ダイヤルには水面に広がる波紋模様。一粒の雫が水面に放たれ、波紋となって広がる様を、四層に重ねた彫金ダイヤルで表現しています。四層重ねたときに繋がりのある模様に仕立てることは、照井氏だけが到達できるの匠の技に他なりません。
このモデルは、これまで照井氏が手掛けたモデルの中で、最も彫金量が多いもの。ベース部分には、連続した細かな円を刻む「魚々子(ななこ)」という緻密な模様や、鏨(たがね)を使って付ける「六角荒らし」を用いており、水がとめどなく流れる様を、2本の線を彫って1本の太い線に見せる「袋彫り」や、どの角度から見ても歪みのない、圧倒的な輝きを放つ鏡面彫りで表現しています。
また、水面に反射してきらめく日の光のように輝くダイヤモンドが、照井氏自身によって、30分ごとの位置に24個セッティングされており、このダイヤモンドがアワーマークの役割も担っています。
彫金はダイヤルだけに留まらず、ムーブメントにも施されています。こちらには、クレドールの「未来への発展」を表現。一粒の雫から始まった水流が、やがて大河へと成長する様子を、波や水しぶきのような彫金で表現しています。
2024年9月7日(土)に発売が予定されているこの時計。手に入れられる人はごくわずかですが、クレドールの50年の歴史と、崇高な職人技が感じられる逸品であることは間違いありません。こんな素晴らしい技術・芸術が日本にあることを誇りに思いたい、至宝の1本です。