暮らしを豊かに、私らしく

文/鈴木拓也

人気ブログ「ひとり紫苑・プチプラ快適な日々を工夫」を運営する紫苑(しおん)さんは、御年71歳。

紫苑さんのブログは、節約を主なテーマにしているが、辛気くささはなく、おいしそうな手料理や、DIYで縫製した衣服など、快活な記事が続く。
プロフィールに、「子どもたちが結婚して、都内に小さな一軒家を買いました」とあるから、悠々自適の日々を満喫しているかと思ったら、そうではないという。

家を購入したのは64歳のとき。これで貯金を使い果たした。それから程なくして年金の受給が始まったが、フリーランスであったため国民年金となり、受給額は毎月5万円。

幸いにも仕事は続けており、何とかやりくりはしていたが、そこにコロナ禍という想定外の出来事が降りかかる。

このときになって、「人生で初めてお金に向き合う生活が始まった」と、著書『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』(大和書房)で、紫苑さんは記す。

家賃・子育ての負担はないとはいえ、月5万円の生活を想像するのはちょっと難しい。

どのように切り抜けて、幸せな今の生活をつかんだのだろうか。
そのあたりの事情を、本書よりかいつまんで紹介しよう。

無理なく食費を月1万円に抑える

紫苑さんは、今の月々の支出を明かしている―水道光熱費が約9千円、通信費は約7千円というのは、一人暮らしとして違和感ない数字。対して、「3食ちゃんと食べる」という方針で、食費が約1万円というのは驚く。ならすと1日あたり330円、1食あたり110円……!?

本書には、ある日の全食事が公開されている。少し長くなるが、そのまま引用すると、以下の内容だ。

【朝】
朝ご飯は結構しっかり食べます。毎朝自家製ヨーグルトに甘酒とシリアルをプラスして。自家製パンに鶏ハムなど前夜の残りを乗せたオーブンサンド、コーヒー。50円くらい。
【昼】
お好み焼き。キャベツ、豚コマ少し、桜海老と青海苔をたっぷりかけて。ソースが食欲をそそってたまりません。お昼はうどん、パスタなど麺類も多いです。80~100円くらい。
【夜】
夜はしっかりタンパク質を摂ります。この日は鶏レバーのワイン煮。レバーは牛乳に浸して臭みを取り、ニンニクオイルで炒めて、赤ワインで煮込みます。さっと茹でた豆苗を添えて。100~150円。

決して粗末な食事でもなければ、単調なものでもなく、むしろおいしそうなラインナップだ。この境地にたどり着くまで試行錯誤があったと推察するが、やはり節約のコツはある。例えば1回の買い物で使う額は千円とし、それで向こう4日分を賄えるように考えるという。買い物の中身は「いわしあるいは鳥むね肉(200円)、卵(200円)、牛乳150円、野菜数種類(400円)」と、大枠は決めておくのだそうだ。

「栄養価があり安い」という基準を突き進めてこうなったとのことだが、以前はお菓子類がコストを圧迫していたと述懐する。

食費1万円生活を始めるにあたり、それまでどんなものにお金を使っていたかと考えてみました。といっても私の場合、考えるまでもなく甘いモノです。スイーツというより駄菓子類です。ケーキといった上等なお菓子より、スーパーなどで売っている百円台のビスケットやおせんべいなどが好き。スーパーで買い物をすると決まって、その金額が多い。(本書より)

財布だけでなく、健康にもよくないとわかっていてもやめられない。ダイエッターあるあるだが、栄養学の知識と「かんたん30円スイーツ」で乗り切った。「30円スイーツ」とは、自分で作る白玉ぜんざいやチョコクッキーなど、安価な材料でできるスイーツのこと。甘味料も、甘酒や蜂蜜などヘルシーな素材を活用。健康レベルも上がったというから、節約様々だ。

リメイクとプチプラファッションを徹底活用

ブログを見ても、紫苑さんはかなりおしゃれに気を使っていることがわかるが、こちらも節約を徹底している。

洋服は、若い頃から買いためたストックを活用。ただ、シニアになると昔の服をそのまま着ても似合ないことがある。そこで、服の一部分をリメイクして、今の年齢にフィットするように改造。

例えば、20~30年前に購入したというアニエス・ベーのコートワンピ。袖が短くて二の腕が出るのが気になり、100均のダンガリー風の生地2枚で長めの袖に付け替えている。

新たに買う洋服も、価格重視。リサイクルショップで見つけた200円くらいの青・白のボーダーシャツを買って身に付けたところ、若返ったような感じがして開眼。緑・紺のボーダーも100円で手に入れ、ヘアターバンと組み合わせて「10歳くらい若返りました」という。

ターバンは白髪やアホ毛が隠れる以外にも効果があります。一つはバンドをするときに、顔の皮膚を持ち上げるためにシワが伸びる? 気がします。もう一つは、ヘアバンドのトップが、ヘアを盛ったような効果を出してくれるのです。(本書より)

そして、着物。若い頃から着物が好きで、一時は「桐ダンスの中と、部屋のほとんどを着物が占めていたほど」であったそう。
門外漢にしてみれば、着物は最も値の張る衣類の代名詞という印象だが、「今は1万円くらいでいい着物が買えます」と言い、さらには「千円、800円といったプチプラ着物」もあるという。

そうした着物でも、価格の割には高級感があるそうで、さらに体型を気にしないで着られるといった着物特有のメリットもあり、かなり重宝しているそうだ。

* * *

紫苑さんが節約生活を始めたのは、乏しい年金のなか、コロナ禍に見舞われたことがきっかけだが、お金を遣わないことのメリットを多々実感している。1つには安くても健康にいい食生活に変えたことで「若返った」ということ。さらに、お金や死に対する不安までなくなったという。それは、今まで避けてきたお金の問題と正面から向き合い、工夫次第で5万円の年金でも暮らしていけるとわかったことが大きい。シニア世代にとって、節約の効用は思いのほか大きいのかもしれない。もし、定年後のお金の問題で悩んでいるなら、本書はとても役立つ1冊になるかと思う。

【今日の定年後の暮らしに役立つ1冊】
『71歳、年金月5万円、あるもので工夫する楽しい節約生活』

紫苑著
大和書房

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文/鈴木拓也 老舗翻訳会社役員を退任後、フリーライター兼ボードゲーム制作者となる。趣味は神社仏閣・秘境巡りで、撮った映像をYouTube(Mystical Places in Japan)に掲載している。

 

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