『イタリアのトルコ人』テアトロ・レアル2023年公演より
(C) Javier del Real | Teatro Real

オペラのことを知りたい! そんなオペラ初心者向けのガイドブックやウェブサイトには「おすすめのオペラ◯選」といった見出しが並びますが、紹介されている作品は、歴史もの、英雄伝、人間ドラマ、純愛物語、ラブ・コメディ……と多様で、またまた迷ってしまいがち。そこで、的をさらに絞っておすすめしたいのが「仮装・変装して正体を隠した登場人物が暗躍(?)するオペラ」。物語は愉快で軽妙。オペラに抱きがちな敷居の高いイメージを払拭してくれること請け合い。そんな「仮装・変装」が効いたオペラ作品を、新国立劇場で上演されたときの舞台写真とともに紹介。題名は聞いたことあったけれど、こんなに愉快で人間味あふれるストーリーだったのか、とオペラがぐっと身近になるでしょう。

併せて、新国立劇場2026/2027シーズン開幕公演の『イタリアのトルコ人』(10月2日より)も紹介。『セビリアの理髪師』や『ウィリアムテル』など数多くの名作オペラを残したロッシーニの隠れた名作とよばれる喜劇で、この作品にも楽しい「仮装・変装」シーンがあります。新国立劇場初登場となる本作、観劇の前に見どころを予習しておきましょう。

仮装・変装シーンを織り込んだ偉大なる作曲家たちの名作オペラ5作品

『フィガロの結婚』

作曲:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト 台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ 初演:1786年 全4幕

アルマヴィーヴァ伯爵家に仕えるフィガロと小間使いのスザンナ。2人の結婚式当日。スザンナから伯爵に言い寄られていることを打ち明けられ怒ったフィガロは、伯爵を懲らしめる作戦を考えます。夫の愛が失せたことを嘆く伯爵夫人、思春期真っ只中の小姓ケルビーノ、女中頭のマルチェリーナも巻き込んで大騒動に発展。その結末は……。モーツァルトの大傑作と見なされている人気のオペラ・ブッファ(喜歌劇)です。

写真 三枝近志

仮装・変装の見どころ

第2幕/ケルビーノに軍隊行きを命じた伯爵を出し抜くため、フィガロはケルビーノを女装させようと提案します。ケルビーノを着替えさせようと伯爵夫人と二人きりになった瞬間、伯爵がドアをノックして窮地に陥りますが……。

第4幕/結婚式の夜、伯爵夫人とスザンナが衣装を交換。スザンナになりすました伯爵夫人を口説こうとする伯爵でしたが、からくりを知って夫人に謝罪します(上の写真)。

『こうもり』

作曲:ヨハン・シュトラウス2世 台本:カール・ハフナーとリヒャルド・ジュネ 初演:1874年 全3幕

中心人物は、銀行家の中年紳士のアイゼンシュタインと妻のロザリンデ。その友人でありながら、些細なことでアイゼンシュタインに恨みをもつファルケ博士の3人。博士が仕組んだいたずらを発端に物語が進みます。舞台となるのは公爵邸のパーティ。ロザリンデの元カレアルフレード、小間使いのアデーレ、酒好きの刑務所長フランク、裕福なロシアの貴族オルロフスキー公爵など、愛すべき人物たちが次々に登場します。ワルツ王、ヨハン・シュトラウス2世によるウィーン・オペレッタの代表作。欧米の歌劇場では年末や元旦に上演されるのが恒例になっています。

写真 鹿摩隆司

仮装・変装の見どころ

第2幕/オルロフスキー公爵主催の舞踏会。フランス人侯爵に扮したアイゼンシュタインがハンガリーの伯爵夫人に扮した妻のロザリンデを口説いて、浮気の証拠に時計を巻き上げられてしまいます(写真)。この第2幕は、シュトラウスの洗練された華やかな声楽曲がたっぷり楽しめる最大の聴き所でもあります。

『コジ・ファン・トゥッテ』

作曲:ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト 台本:ロレンツォ・ダ・ポンテ 初演:1790年 全2幕

哲学者ドン・アルフォンソが2人の若い士官に「女はみんな信用できない」と警告したところ、自分たちの婚約者はそんなことない、と反論。ならば彼女たちの貞節を試してみようと、アルフォンソと青年たちは賭けをすることに。変装して別人(異国人)になりすました士官たちは恋人を口説いてみるが……。賭けのゆくえやいかに? モーツァルトが極上の音楽で男女の心の機微を描いた艶笑オペラ・ブッファ。原作は18世紀のナポリが舞台ですが、イタリアの演出家ダミアーノ・ミキエレットによる新国立劇場版は、設定を現代のキャンプ場に置き換える大胆な演出で大きな注目を集めました。

写真 堀田力丸

仮装・変装の見どころ

第1幕/ドン・アルフォンソにそそのかされて賭けをすることになった若い士官2人は、変装して、それぞれ相手のパートナーを口説きます。2人が変装するのはオリジナルではアルバニア人なのですが、新国立劇場のミキエレット版『コジ・ファン・トゥッテ』では、過激なファッションのパンクな男性に姿を変えます(写真)。

『ドン・パスクワーレ』

作曲:ガエターノ・ドニゼッティ 台本:ジョヴァンニ・ルッフィーニとガエターノ・ドニゼッティ 初演:1843年 全3幕

裕福な独身の老人ドン・パスクワーレが花嫁探しを始めたため、財産を相続するつもりでいた甥エルネストは大慌て。パスクワーレから相談を受けた友人で主治医のマラテスタは、修道院から出たばかりの妹ソフローニャを紹介することに。ところが、パスクワーレの前に現れたのは、マラテスタの企みで偽ソフローニャに扮した、エルネストの恋人で未亡人のノリーナだったのです。そうとは知らずに結婚したパスクワーレは、無垢な新妻がうぬぼれの強い派手好きな浪費家に豹変するのを見て、堪忍袋の緒が切れそうになります。この偽りの結婚の行く末は? イタリアを代表するロマン派の音楽家ドニゼッティの晩年作です。

写真 寺司正彦

仮装・変装の見どころ

第2幕/修道院を出たばかりの無垢な娘ソフローニャに扮するのが、エルネストの恋人で百戦錬磨の若き未亡人ノリーナ(写真)。当初はエルネストも知らなかった、この、あり得ない成りすましが、その後に展開するドタバタ喜劇へと繋がっていきます。

『セビリアの理髪師』

作曲:ジョアキーノ・ロッシーニ 台本:チェーザレ・ステルビーニ
初演:1816年 全2幕

後見人である医師バルトロの監視下で籠の鳥状態のロジーナに想いを寄せるアルマヴィーヴァ伯爵は、理髪師で便利屋でもあるフィガロの知恵を借りて猛アプローチを開始。フィガロの提案で伯爵はまず酔った兵士に、次は音楽教師の弟子になりすましてバルトロ家を訪ね、ロジーナに愛の告白をします。一方、怪しい人物の来訪に警戒心を高めたバルトロは、言い寄ってくるのがアルマヴィーヴァ伯爵だと看破。窮地に陥る伯爵ですが……。そこからハッピーエンドまで物語は二転三転します。華やかなアリアと素晴らしい合唱が随所に散りばめられたロッシーニの傑作です。

写真 堀田力丸

仮装・変装の見どころ

第1幕/ロジーナに愛してほしいと願うアルマヴィーヴァ伯爵は、身分を隠し、次々に姿を変えてロジーナへ思いを伝えます。1幕の後半では兵士に扮装したアルマヴィーヴァ伯爵が酔ったふりをして登場(写真)。バルトロの屋敷が宿舎に割り当てられたと宿泊許可証を持って入り込むが、その後、本物の兵士がやって来て大騒ぎになります。

秋は新国立劇場の新しいオペラシーズンの始まり! 幕開けはロッシーニの隠れた名作喜劇『イタリアのトルコ人』

新国立劇場オペラ2026/2027シーズン開幕公演はロッシーニの『イタリアのトルコ人』(10月2日〜)。浮気性の人妻フィオリッラ、セクシーなトルコ王子セリム、少々鈍臭いフィオリッラの夫ジェローニオ、トルコ王子の元恋人ザイダ、フィオリッラを崇拝するナルチーゾ、彼らのアバンチュールに着想を得ようとする詩人プロスドーチモ、といった面々が繰り広げる恋愛喜劇です。

テアトロ・レアル2023年公演より(C) Javier del Real | Teatro Real

シーズン開幕のメッセージで、大野和士オペラ芸術監督は『イタリアのトルコ人』について次のように語っています。

「シーズンオープニングは『イタリアのトルコ人』で飾ります。何人もの大人が絡んだ恋愛のドタバタ劇に、ロッシーニは優美で気の利いたアリア、二重唱、三重唱、そして壮大なスケールのフィナーレを与えて、魅力的なオペラに仕上げました。上演の機会が多くない作品ですので、ぜひお見逃しのないようご覧ください。演出はロラン・ペリー。テアトロ・レアル、リヨン歌劇場との共同制作で2023年にマドリードで初演されたプロダクションです。彼は常に私達におしゃれで少しスパイシーな舞台を届けてくれます。このオペラでシーズンを始めることによって、観客の皆様にとっても新しい気持ちで聴いていただけるのではないかと思っています」

指揮はイタリアの俊英アレッサンドロ・ボナートが新国立劇場初登場。キャストには世界の著名劇場を席巻するロッシーニ歌劇の人気歌手が勢揃い。毎回大評判になる絶好調の新国立劇場のベルカント(※)・シリーズがシーズン開幕を華やかに飾ります

※ベルカント イタリアオペラにおける伝統的な歌唱芸術。美しさ、上品さ、柔軟性、華麗さ、確かな技術を備えていることが求められます。

【あらすじ】 
夫ジェローニオとの生活に飽き飽きしていたフィオリッラは、ナポリにやってきたトルコ王子セリムに目を付けて恋の駆け引きを楽しみます。そこにセリムに想いを寄せ続ける元恋人ザイダが現れ、事態はもつれ始めて‥‥。そんなドタバタを喜劇のいいネタができたと喜ぶ詩人プロスドーチモは、夫ジェローニオやフィオリッラの取り巻きナルチーゾをけしかけて騒ぎを煽っていきます。

テアトロ・レアル2023年公演より(C) Javier del Real | Teatro Real

仮装・変装の見どころ

第2幕/トルコ王子セリムが仮面舞踏会でフィオリッラを連れ去ろうと計画します。その計画を知ったザイダは、自分も仮面舞踏会に紛れ込み、2人の駆け落ちを食い止めようとします。一方、フィオリッラの夫ジェローニオもトルコ衣装を纏って王子セリムを装い、妻の略奪を防ごうとします。しかしながら、ジェローニオは、女性2人のどちらが妻フィオリッラなのかわからず大混乱に。

今回、新国立劇場で上演されるペリー演出版は、1950年〜70年代にイタリアで流行したフォトノベルがコンセプト。ポップでお洒落なビジュアルの舞台が期待されています。ここで、ちょっとネタバレ、2幕の舞踏会の場面では、男性は全員白い船員服、女性は全員グレーのワンピースを着ているというスタイリッシュビジュアルになっています。おかげで、誰が誰だかわからない中、 騙されたジェローニオだけがトルコ風の場違いな衣裳で登場(写真)。この場面、観客席でたっぷりと笑って楽しみたいものです。

新国立劇場 2026/2027 シーズンオペラ
『イタリアのトルコ人』[全2幕/イタリア語上演/日本語及び英語字幕付]

公演日程 2026年10月2日(金)〜10月12日(月・祝)
予定上演時間 約3時間(休憩含む)

■新国立劇場オペラサイト(『イタリアのトルコ人』特設サイト)
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/ilturcoinitalia/問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)

■新国立劇場オペラサイトhttps://www.nntt.jac.go.jp/opera/
問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)

取材・文/ 堀けいこ

 

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