文・石川真禧照(自動車生活探険家)


高い視線からの車体の見切りもよく、カーブでも安定感のある走り。本格的なオフロード走行も楽しいに違いない。

車に限ったことではないが、物を選ぶときにいくつかの候補を比較するのは楽しい時間だ。でも選択の基準、つまりライバルがないというのは、張り合いがない。車の世界では、高級なクロスカントリー車がそうだった。砂漠やジャングルのような荒地を高速で走ることができるのに、車体が大きく、室内が豪華なつくりの車は1車種しかなかった。メルセデス・ベンツGクラスだ。もともとはドイツの軍用車両として造られたが1980年代に民間用に転用された車だ。軍用だっただけに実用性重視、武骨なデザインが個性として認められ、次々と改良され、今日まで生産されている。こうした成り立ちの車は他になく、現在でも一部の高級車ユーザーに人気の車種になっている。

客室のある車体の辺りは、普通のディフェンダーと同じ幅だが前後のフェンダーとタイヤが大胆に張り出している。
左右4本出しのマフラーがこの車の性格を表している。マフラーの音量は2段階に切り替えることができる。
余計な突起物などないフロントマスク。最低地上高は標準時で250mm。
標準タイヤを背負っているうしろ姿。そのため運転席からの後方視界は限られる。タイヤ交換はかなりの重労働だ。

そのGクラスに強力なライバルが登場した。それがディフェンダー オクタだ。英国、ランドローバー社が生産するクロスカントリースポーツモデル。そのルーツは1940年代で、欧州各国の軍用車両や警察、消防車両に採用されていたモデルなので、歴史も実力も十分にある。2010年代に一時生産中止になったが、22年に復活した。新シリーズのディフェンダーには何タイプかの車体形状と、パワーユニットが用意され、愛好家の間で人気車になっていた。そこに、昨今の富裕層のクルマ購買状況を察知したランドローバー社が、ディフェンダーをベースに24年に高性能、高級なクロスカントリーモデルを発売した。

標準車よりもさらに張り出した前後のフェンダー。運転席からでも前方の感覚はつかみづらかった。
アルミホイールは前20、後22インチ径。タイヤも前275/60R20、後275/50R22。タイヤはオフロード用だがオンロードでも高性能。

発売にあたり、ランドローバー社はディフェンダーを世界一過酷なラリーと言われている「ダカールラリー」(かつてのパリ・ダカール)に参戦させ、見事に総合1、2位を獲得した。それがディフェンダー・オクタだ。

ランドローバーの走破性、同社の高級ブランド、レンジローバーの上級感に加え、ディフェンダーのパフォーマンスが、新しい時代の高級クロスカントリー車を誕生させた。

センターコンソール前方に置かれた変速レバーはこのような形状をしている。電子制御の8速ATだ。
エアサスペンションは、荷室の後方からでも車高を調節することができる。

そのスタイリングは、通常のディフェンダーを基本にしているが、太いタイヤを被うために幅広いフェンダーにつけかえている。その足回りは大幅に改良され、上下、左右の車体の振れを制御する電子制御サスペンションを採用。さらに悪路走破能力を高めた装備を加えたモードも開発し、実用化している。

カバーで外からは見えないが、この下にはV型8気筒4.4Lの強烈なツインターボ+マイルドモーターが搭載されている。2000回転からのトルクの太さは圧倒的。
直線を基調にしたインストルメントパネルはシンプルで見易く、扱いやすい。
8000回転まで刻まれたエンジン回転計を中心としたメーターパネル。燃費や走行可能距離も表示されるが、スピードメーターはデジタルで表示なので、瞬時に車速がわかる。
ダイナミックモードはエンジン/ハンドル/ギアシフト/サスペンション減衰力の4項目をコンフォート/ダイナミックの2つに切り替えることができる。
サスペンションストロークを最大にすると、水深90cmまで走破することができる。
さらにハンドル下部にポツンとあるスイッチを長押しすると、オフロードラリーモードで、これは日本ではとても試すことができない超ヘビーな場所を走破するための、通称オクタモードスイッチ。もちろん試せなかった。

エンジンルームには、V型8気筒、4.4Lガソリン・ツインターボ・マイルドハイブリッドを搭載。最高出力は635ps、最大トルクは750Nmを発生する。変速機は8速自動で、運転モードでエンジン、ハンドル操作、ギアシフト、サスペンションのレベルをダイナミックとコンフォートのモードに切り換えることができる。

さらに「オクタ」モードという独自の設定があり、これを選択すると、ダカールラリーでオフロードを時速100キロ以上で走行しても、確実に操作できるようなサスペンションの仕様になる(らしい)。このモードは日本では試すことはできないと、ディフェンダーの車両担当者から忠告を受けたので、試せてないが……。

前席の着座位置を高めにすると、ボンネットは見えるので安心感がある。
ドアを開けるとサイドステップが床下から自動で出てくる。乗降には便利な装備。
車高が高いオクタに乗るときには、インパネ端に設けられたハンドグリップが重宝する。

運転席横のダッシュボードに備わるハンドグリップを利用して、高い運転席に座る。ドアを開けると同時にせり出してくるサイドステップのおかげで乗降性はよい。

エンジンを始動する。V8、4.4Lという大排気量エンジンの咆哮と振動が座席をとおして伝わってくる。電気自動車にはない現象だが、走り出しの動きは、太いトルクのおかげで電気自動車並みに鋭い。試しに停止状態から時速100キロまでの加速を計測すると、メーカー発表値、4秒に近い数字を記録した。この巨体と巨漢(車両重量2.6トン!)での成績としては素晴らしい記録といえる。

乗り心地もとても洗練されていることに驚いた。巨体を支えるサスペンションは最新のエアサスペンションだが、装着されているタイヤはオフロード走行用のタイヤだった。当然、街中ではゴツゴツとし、段差などでも上下にハネてしまう位の硬さかと思っていた。

ところが段差の乗り越えも、ゼブラ舗装や目地からの突き上げもなく、しなやかにこなして走り切る実力を体験させてくれた。内装はシンプルだが、安物感はなく、手や指で動かしたときの感触がよい。操作系もしっかりしている。ライバルと比較しても見劣る個所は見当たらない。

着座位置は前席とくらべても高くはない。床はほぼフラットで、足元と頭上の空間は狭くない。
頭上はガラスルーフで、半分だけ開く。シェードは布製なので、昨今の日本の暑さには室内に熱が伝わり辛いかもしれない。
張り出しもなく、広々と使える荷室。奥行は約90cm、左右幅は1.1~1.5mで、十分広い。
後席は背もたれが2/1/2の分割で前倒しできる。倒したあとの荷室はカチッとしており、薄いマットレスを敷けば、大人2名が快適に寝ることができる。
リアウインドと天井の間に設けられた小窓は、初代ディフェンダーからの装備。後席を平らにし、周囲の窓にカーテンをして寝ていると、明け方の光がここから室内に入ってくる。ディフェンダーのルーツであるアドベンチャードライブの面影が感じられる装備だ。
リアゲートは右ヒンジの横開き。スペアタイヤごと開くが、あまり重くはない。閉めるときはオートクロージャーなので、静かに閉められる。

ライバル不在だった高級クロスカントリー車だったが、ようやく対応できるモデルが英国から現れた。

ランドローバー/ディフェンダー オクタ

全長×全幅×全高4940×2065×2000mm
ホイールベース3020mm
車両重量2610kg
エンジン/モーターV型8気筒ガソリンツインターボ4394cc/交流同期
最高出力635ps/6000~7000rpm/19ps
最大トルク750Nm/1800~5855rpm/200Nm
駆動形式4輪駆動
燃料消費率未発表
使用燃料/容量無鉛プレミアムガソリン/ 90L
ミッション形式電子制御8速AT
サスペンション形式前:ダブルウィッシュボーン 後:マルチリンク
ブレーキ形式前:ディスクブレーキ 後:ディスクブレーキ 
乗員定員5名
車両価格(税込)2190万円
問い合わせ先0120-18-5568

文/石川真禧照(自動車生活探険家)
20代で自動車評論の世界に入り、年間200台以上の自動車に試乗すること半世紀。日常生活と自動車との関わりを考えた評価、評論を得意とする。

撮影/萩原文博

 

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