
2026年6月11日、1886年の自動車特許取得から140周年という節目に、メルセデス・ベンツから革新の集大成となる新型Sクラスの日本導入が発表された。車両全体の50%以上、約2700点もの部品を新規開発または再設計するという過去最大規模の大幅改良を受け、フラッグシップはさらなる進化を遂げた。
文/竹井あきら
世界の自動車の指標であり続けるために
「Sクラスは、いつの時代もその時点で持てる全ての技術を搭載し、世界の自動車の指標とされてきた」というメルセデス・ベンツの言葉に、大きな異論はあるまい。歴代Sクラスには、走行性能、安全装備、快適性能、そしてステイタス性といった、高級車に求められるものの最先端が4ドアセダンという形に投入されてきた。
1886年の自動車特許取得から140周年となる節目に発表された新型Sクラスも、当然その役割を担っている。現行W223型のプラットフォームを引き継いでいるため、たしかにマイナーチェンジではあるが、マイナーとは名ばかりと思うほど改良点は多い。なにしろ車両全体の50%以上にあたる約2700点の部品が新規開発、あるいは再設計されたというのだから。

まず目を引くのは、風格を増したフロントフェイスだ。ラジエターグリルは従来比約20%拡大され、クローム仕上げのルーバーは従来の3本から4本になり、スリーポインテッドスター形状のクロームパーツがふんだんにちりばめられている。
Sクラスの歴史上はじめての、イルミネーテッドラジエターグリルを採用し、グリルの輪郭が光るようになった。
新世代のDIGITALライトが点灯すると、その存在感はいっそう際立つ。スリーポインテッドスターをあしらったこのライトには、マイクロLED技術を採用。最大40%の照度向上を実現するとともに、状況に応じて照射を最適化し、カーブでもより鮮明な視界を確保する。さらに、照射距離を大幅に伸ばすウルトラハイビームは、単に前方を照らすだけでなく、進行方向に合わせてダイナミックに旋回する。

リアコンビネーションランプも新デザインとなった。左右3つずつのスリーポインテッドスターが印象的に輝き、走り去る姿にまで華やかな余韻を残す。

インテリアは、よりモダンで洗練された印象へと進化した。新設計のインストルメントパネル、ドアトリム、センターコンソールがデジタルとアナログをラグジュアリーに融合させている。
標準装備となる「MBUXスーパースクリーン」は、その象徴的存在だ。14.4インチのセンターディスプレイと12.3 インチの助手席用ディスプレイが一体感のある造形で、のびやかさと先進性を印象づける。
第4世代MBUXでは、Google Mapsベースのナビゲーションや生成AIを活用した音声アシスタントも導入される。クルマとの関係が「操作するもの」から「自然に対話するもの」へと変わりつつあることを感じさせる進化だ。

内装色には「マキアートベージュ/マグマグレー」「ブラック」に加え、ラグジュアリーファッションの世界から着想を得たという新色「ビーチブラウン/ブラック」を採用。明るいトーンのパイピングとステッチが、ラグジュアリーなキャラクターを引き立てる。

新たに「MB.OS(メルセデス・ベンツ・オペレーティングシステム)」が搭載されたこともトピックだ。この自社開発OSは、インフォテインメントにとどまらず、運転支援や車両制御までを包括的に統合。さらに「メルセデス・ベンツ・インテリジェント・クラウド」への接続により、多くの車両機能に関するソフトウェアの無線アップデートが可能となった。

パワートレインは、4.0ℓV8ガソリン+48Vマイルドハイブリッド、3.0ℓ直列6気筒ディーゼル+48Vマイルドハイブリッド、3.0ℓ直列6気筒ガソリン+48Vマイルドハイブリッドの3種をラインナップ。中でもV8ガソリンエンジンに関しては、レスポンス向上のためにクランクシャフトが従来のクロスプレーンからフラットプレーンに変更され、25kWの出力向上も実現されているという。

ただし、今回6月11日より予約注文の受付が開始されたのは、3.0ℓ直列6気筒ディーゼル+48Vマイルドハイブリッドを搭載する「S 450 d 4MATIC」のみ。発表会会場には4.0ℓV8ガソリン+48Vマイルドハイブリッド搭載の「S 580 4MATIC long」も展示されていたが、こちらの正式発表は本年9月以降となる予定だ。

AIRMATICサスペンションにはインテリジェントダンパーコントロールを採用。スピードバンプ(減速帯)を専用の車両センサーで検出すると、直前で電子制御によって減衰力を調整する。また、この情報は、メルセデス・ベンツ・インテリジェント・クラウドに最大 14 日間保存され、他車が取得した路面情報を活用して同じ場所に接近する他の車両のサスペンションも事前に減衰調整するという仕組みも導入された。
安全性もまた、Sクラスが伝統的に重視してきた領域だ。フロントシートには衝突の直前に乗員の体をより安全なシートの深い位置に素早く導く「PRE-SAFEインパルス(前面衝突被害軽減機能)」を全車標準化。また衝突の危険が高まった際に耳の自然な保護反応を引き出すノイズを発生し、衝撃音による聴覚障害を防ぐ「PRE-SAFEサウンド」というシステムも装備されている。
寒い時にシートベルトを快適な温度にする「ヒーテッドシートベルト」も備わる。これは快適装備であるとともに、温かいシートベルトのおかげで厚手のアウターを自ずと脱ぐことで、正しい位置でシートベルトが装着できるようになるという安全装備でもある。

1990年代までのメルセデス・ベンツは、石橋を叩いて壊すほどの実験を重ね、「過剰品質」といわれるまでのクルマをつくった。現代のメルセデス・ベンツは、いわば石橋が壊れる前に予知し、守る、デジタルでスマートなものへと進化した。
転換のようにも見えるが、これらはたしかにひとつながりの歴史の上にあり、この進化し続ける姿勢こそ、世界の自動車の指標であり続けるために欠かせない資質に違いない。
メーカー希望小売価格(消費税込み)
S 450 d 4MATIC (ISG) 15,980,000円
S 580 4MATIC long (ISG) 23,650,000円(予定価格)
メルセデス・ベンツ日本
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