「タイトルロール」ということばをご存じですか? オペラや演劇、映画などの用語で、タイトルは題名、ロールは役のことで、作品のタイトルになっている役をさします。

時代を超えて愛されてきたオペラには、『カルメン』や『ドン・キホーテ』『アイーダ』など、物語の軸となる登場人物の名前をタイトルにした作品が数多くあります。そんな中から、ここで取り上げるのは『リゴレット』。中近世の宮廷で、慰み者として雇われていた道化師リゴレットを主役にしたヴェルディのオペラです。

来春2月に予定されている新国立劇場での同作公演で「現代最高のバリトンのひとり」と称えられる歌手がタイトル・ロールを演じることが発表されて、期待を集めています。その公演情報とともに、オペラ初心者でも楽しめるストーリー展開と聴きどころを紹介します。

新国立劇場『リゴレット』2023年公演より 撮影:堀田力丸

父娘の深い愛が招く悲劇を名曲で綴るイタリア・オペラの傑作

イタリア・オペラを頂点に導いたといわれるジュゼッペ・ヴェルディ(1813~1901年)は、出世作の『ナブッコ』に始まり、『マクベス』『椿姫』『アイーダ』など、数多くの傑作・人気作を世に送り出しました。『リゴレット』もそんな人気作品のひとつ。ベルディが37歳のときに初演されたオペラで、およそ半世紀におよぶ彼の創作の歴史の中期にあたる作品。フランスの文豪、ヴィクトル・ユーゴーの戯曲『王は楽しむ』を原作としています。

物語の舞台は16世紀の北イタリア。リゴレットは、富と権力にものをいわせ放蕩生活を送るマントヴァ公爵に仕える宮廷道化師。公爵やとりまきの廷臣に媚びを売る生活を送っていますが、容姿が醜く、ときに辛辣な物言いをするので、廷臣たちからは疎まれます。そんなリゴレットの生きがいは、娘のジルダ。リグレットは私生活を誰にも見せず、ジルダをひた隠しにし、大切に育てていました。ところが、なんと純真な箱入り娘ジルダが、マントヴァ公爵を愛してしまったのです。他ならぬ娘が公爵に弄ばれて、リゴレットは復讐を決意します。そして……。


醜い道化師のリゴレット、純真な娘ジルダ、放蕩者のマントヴァ公爵。この3人を軸に、愛、呪い、そして復讐のドラマが繰り広げられていきます。

新国立劇場『リゴレット』2023年公演より 撮影:堀田力丸

聴きどころ満載! タイトルロールを演じる世界的なバリトンをはじめスター歌手たちが繰り広げる声の饗宴 

スリリングなストーリー展開に目が離せないオペラ『リゴレット』は、名曲も満載。最も有名なのは「風の中の〜羽のように〜」という日本語訳で知られる「女心の歌」(第3幕)ですが、他にも、「慕わしき人の名は」(第1幕)「悪魔め、鬼め!」(第2幕)など数々の名アリアで彩られます。美しい重唱が多いのも『リゴレット』の魅力で、中でも第3幕の四重唱「美しい恋の乙女よ」は、オペラ史上最も美しい四重唱と言われています。

ヴェルディによるオペラ化に不満を抱いていた原作者ヴィクトル・ユーゴーも、初演でこの四重唱に魅了され、 一夜にしてヴェルディ・ファンになったというエピソードも残っています。

新国立劇場『リゴレット』2023年公演より 撮影:堀田力丸

そんな聴きどころの多い本作で、今回タイトルロールを演じるのはヴェルディ・バリトンとして世界に名を馳せ、圧倒的な人気を誇るウラディーミル・ストヤノフ。道化師リゴレット役には、公爵にへつらう卑屈さと傲慢さ、冷酷さと娘への慈愛、 恐れと怒りの深い表現が求められます。そんな難役を演じるストヤノフについて新国立劇場オペラ芸術監督の大野和士氏は「彼の歌にはリゴレットの内面を観客に自然と想像させるだけの深さがある」と、その実力を称賛しています。

ウラディーミル・ストヤノフ

一方、純粋無垢なジルダを演じるのは、日本が誇るソプラノ中村恵理。 叙情的な声と高度なコントロール技術、心ゆさぶるドラマティックな感情表現で観客を魅了します。そして、マントヴァ公爵に扮するのはローレンス・ブラウンリー。伝統的なイタリア・オペラを美しく歌い上げる世界最高峰のテノールとして活躍しています。

中村恵理
ローレンス・ブラウンリー

指揮はイタリア・オペラの名手と称えられるダニエレ・カッレガーリ。長年ヴェルディのオペラに取り組んできたエミリオ・サージによる演出は、現代的な視点で登場人物の孤独をクローズアップし、それぞれの個性を際立たせます。シンプルでありながら、美しい舞台美術や衣裳も印象的。絡み合う人間ドラマの深さと哀しさが、観客にストレートに伝わります。

『リゴレット』の持つ、ヴェルディならではの美しく情熱的な音楽と、切なく衝撃的な結末は心に深く刻まれるもの。オペラ鑑賞の体験が少ない人でも強く惹きつけられるに違いありません。

新国立劇場 2025/2026 シーズンオペラ
ジュゼッペ・ヴェルディ『リゴレット』
[全 3 幕/イタリア語上演/日本語及び英語字幕付]
公演日程 2026年2月18日(水)〜3月1日(日)
■新国立劇場オペラサイト
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/rigoletto/
■問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)

取材 堀けいこ

 

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