新国立劇場は、オペラ、バレエ、ダンス、演劇という現代舞台芸術のためのわが国唯一の国立劇場。

秋の装いで来場する観客でロビーが賑わう10月。新国立劇場が迎える新しいシーズン(2024/2025)の大きな話題が「新国立劇場公式ホスピタリティプログラム“グランエクスペリエンス”」。同劇場内のオペラパレスで実施される特別な“おもてなし”。そのスペシャルな内容と、同プログラムの対象となる11月のオペラ『ウイリアム・テル』の魅力を併せて紹介します。

新国立劇場2024/2025シーズンの話題のひとつが公式ホスピタリティプログラム“グランエクスペリエンス”。これは、観客のみなさんにとって忘れられないスペシャルな観劇体験をしていただこうと企画されたもので、対象となるのは同劇場内で最も大きな劇場で、日本随一のオペラの殿堂であるオペラパレスで上演されるバレエとオペラの2作品。ラウンジでの軽食や飲み物のサービスなど数々の特典が付加され、出演者やクリエイティブスタッフとの交流といった限定特典も盛り込まれた魅力的なプログラムとなっています。舞台の興奮を胸に特別ラウンジでゆったりとドリンクを楽しめる時間は、最高の贅沢そのもの。

将来的には、同プログラムで得た利益を障がいのある方や若年層の支援に還元し、サステナブルな取り組みへと発展させていく予定とのこと。社会参画企画としても期待したい取り組みと言えるでしょう。

オペラパレスは、オペラ・バレエの専用劇場。客席の壁・天井は厚いオーク材で仕上げられ、歌手の肉声が理想的に響く設計となっている。

具体的には次の通り。

【グランエクスペリエンスのスペシャルな内容】
・優先入場(通常の開場時間より30分前に入場ができる)
・特設のクロークを用意
・舞台全体が見渡せる1階中央の最上席での観劇
・ゆったりと過ごせる専用ラウンジの提供
・終演後ラウンジ内にて出演者またはクリエイティブスタッフとの交流の時間を用意
・開演前、幕間、終演後に軽い食事とシャンパンなどの飲み物を用意
・観劇の記念となる“グランエクスペリエンス”限定のパスとお土産を用意

特設クロークが設置される(写真はイメージ)
開演前、幕間、終演後は専用ラウンジでシャンパンなどの飲み物をいただきながら過ごすことができる(写真はイメージ)

新国立劇場公式ホスピタリティプログラム

グランエクスペリエンス
特設サイト:https://www.nntt.jac.go.jp/ticket/grandexperience

【グランエクスペリエンス実施の2作品】
■第1弾バレエ『眠れる森の美女』
日程:2024年11月4日(祝)
S席1階16列センター+グランエクスペリエンス:8万1950円
グランエクスペリエンス(ホスピタリティサービスのみ/別途要公演チケット):6万7100円
公演情報ページ:https://www.nntt.jac.go.jp/ballet/sleepingbeauty/

■第2弾オペラ『ウィリアム・テル』
日程:2024年11月30日(土)
S席1階16列センター+グランエクスペリエンス:9万9000円
グランエクスペリエンス(ホスピタリティサービスのみ/別途要公演チケット):6万7100円
公演情報ページ:https://www.nntt.jac.go.jp/opera/guillaume-tell/

ロッシーニの幻の大作『ウィリアム・テル』(新制作)を最上席で堪能する

ここからは、新国立劇場公式ホスピタリティプログラム「グランペリエンス」の第2弾が実施されるオペラ『ウィリアム・テル(ギヨーム・テル)』を紹介します。

ロッシーニ作曲のオペラ『ウィリアム・テル』は、ハプスブルク家の圧政下にあった14世紀スイス・アルプス地方の民衆の自由を求める闘いを描く歴史劇。原作はドイツの文豪シラーの戯曲で、初演は1829年。完成までの作曲期間は5か月。それまで1作品を2~3日で書き上げていたロッシーニとしては異例の長い時間をかけて作曲したオペラであり、彼が最後に作曲したオペラでもあります。

舞台となるのは、スイス連邦建国の起源とされる、スイス三原州(ウーリ、シュヴィーツ、ウンターヴァルデンの三州)が相互援助を誓い合った“リュトリの誓い”(1291年)の後のウーリ州。伝説の英雄ウィリアム・テルをめぐる物語と、ハプスブルク家の圧政に喘ぐスイス・アルプスの民衆の闘いを背景に、スイス側の青年アルノルドとハプスブルクの皇女マティルドの身分違いの愛が描かれます。愛国者たちの苦悩と連帯、支配者との衝突が劇的に語られ、幕切れでは清らかなハープに導かれて自由を謳う崇高な大合唱が響き、血で血を洗う争いの物語が浄化されます。アルプス地方の豊かな自然美を想起させる瑞々しい音楽も魅力的。

トランペットのファンファーレが印象的な序曲はあまりにも有名ですが、長大であることもあり、オペラ全編の上演機会は少ない作品。シラーの原作はドイツ語ですが、オペラの台本はフランス語。本公演は日本初となるフランス語のオリジナル台本による新制作という、貴重な公演となります。

演出は、大野和士芸術監督が厚い信頼を寄せるヤニス・コッコス氏。

「コッコスさんの持ち味はドラマ性を大切にすること。今回は、心の雄大さ、内面性が強く浮かび上がる演出になるのでは。それと同時に、非常に品性のある舞台をつくられる方なので、『ウィリアム・テル』にぴったりの演出家だと思います」と大野監督。

指揮:大野和士オペラ芸術監督
演出・美術・衣裳:ヤニス・コッコス

そして、大野和士芸術監督自らの指揮のもと、ウィリアム・テル役にこの役を得意とするバリトン歌手ゲジム・ミシュケタ、青年アルノルド役に超人的な声で魅了するテノールのルネ・バルベラ、その恋人である皇女マティルドにスター・ソプラノのオルガ・ペレチャッコと、世界最高峰のベルカントの名手が贅沢に揃います。国内からも妻屋秀和(バス)、安井陽子(ソプラノ)、齊藤純子(メゾソプラノ)と人気歌手が揃い、大河ロマンにふさわしい、華やかでダイナミックな舞台を繰り広げます。

ウィリアム・テル:ゲジム・ミシュケタ
アルノルド:ルネ・バルベラ
マティルド:オルガ・ペレチャッコ

りんごを射抜く、あの伝説のシーンを目撃したい

ところで、「ウィリアム・テル」の物語といえば誰もが思い浮かべるのが、息子の頭に載せたりんごを射抜く場面。総督府のあるアルトドルフで、ハプスブルク家が支配を強めるため派遣した総督ヘルマン・ゲスラー(ジェスレル)が掲げた神聖ローマ帝国の象徴である帽子への表敬を拒んだため捕らえられたウィリアム・テルが、「弓の名手ならば息子の頭に載せたりんごを射抜くことができなければ死刑」と理不尽な刑を課される場面です。テルは見事に射抜きますが、その時矢を2本手にしていたことを見咎められ、「2本目でゲスラーを射るつもりだった」ことがわかり投獄されます。しかし、ルツェルン湖を護送される際、舵取りのため縄を解かれたのを機に岩場に脱出、追ってきたゲスラーを2本の弓で討ち抜く。この伝説はスイス建国の象徴となっているだけでなく、世界中で童話や劇の形で親しまれているわけです。

このエピソードはオペラでもハイライトの一つで、息子に矢を向けることをためらうウィリアム・テルは、一旦はゲスラーに命乞いをしますが、「お父さんの腕を信じる」と誇り高く身をさらす息子ジェミの姿に逡巡を振り払って見事にりんごを射抜く感動的なシーンとして描かれます。

この場面を、日本が世界に誇る上質なステージ、新国立劇場オペラパレスでぜひ観てみたいもの。オペラ通はもちろん、初めてのオペラ鑑賞にもおすすめの作品といえます。

新国立劇場 2024/2025シーズンオペラ
ロッシーニ『ウィリアム・テル』
[全4幕/フランス語上演 日本語及び英語字幕付]
公演日 2024年11月20日(水)~11月30日(土)
●グランエクスペリエンスは千秋楽30日に実施
会場 新国立劇場オペラパレス 東京都渋谷区本町1-1-1
https://www.nntt.jac.go.jp/opera/guillaume-tell/
■問い合わせ 電話:03・5352・9999(ボックスオフィス)

取材・文/堀けいこ

 

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