「食べるもので見た目の年齢は変わります」と話すのは、消化器内科医であり美肌評論家の工藤あき先生。実年齢は同じでも、肌がみずみずしく若く見える人もいれば、シミ、肌荒れ、くすみなどが目立つ人もいます。
そこで、著書『老けない人が食べているもの』(アスコム)で、「老ける人と老けない人の差は、遺伝やスキンケアの問題だけでなく、肌をつくる食事の内容にある」と語る工藤先生に、「食べもの」で見た目年齢をグッと若くする要点を伺いました。
取材・文/前川亜紀
食物繊維を摂るべき理由と、その効果
——新刊『老けない人が食べているもの』で、「肌のくすみなど、衰えは不調のサインのひとつである」と、工藤先生は指摘しています。その理由はなんでしょうか。
工藤先生(以下敬称略) 私は消化器内科医として、日々多くの患者さんと接しています。消化器科というと、胃や腸などの消化管を想像しますが、肝臓や胆嚢、膵臓など内臓全体の状態も診ています。
診察の最初に診るのはその人の外見……すなわち、肌の状態です。慢性的な不調を抱えている人ほど、実年齢以上に見た目が老いている傾向があります。
投薬による治療で状態が改善した後は、食生活でいい状態を維持します。患者さんの経過観察をしていると、食べているもので外見が大きく変わることに気付きました。体は食べものでできているのです。それなら、老けない食べものを選べばいいと思い、その食事内容を一冊にまとめたのが『老けない人が食べているもの』です。
——50代以上になると、太り気味や運動不足などが気になる人も多く、長年蓄積した生活習慣の改善も必要だと感じます。「老けない食べもの」が有効に働く体に整えるために、何をすればいいのでしょうか。
工藤 まずは排便について意識をしてください。老化を早めるポイントは「酸化=体の錆び」「糖化=体の焦げ」「細胞のターンオーバーの乱れ」「胃腸の不調」の4つです。
これらに間接的にも直接的にも関わっているのが、腸内の環境です。女性は便秘に苦しむ人が多いので、まずは便通をよくすることを心がけてください。朝起きたら水を飲む、動物性脂肪を控える、食物繊維を含む海藻や野菜類をよく摂るなどです。
——よく食物繊維を摂るようにと言われていますが、その理由を教えてください。
工藤 まず、食物繊維の定義は、「人の消化酵素で消化されない食物中の難消化性成分の総体」です。小腸で消化・吸収されずに、大腸まで至り、便通の改善に働きかけてくれます。
摂取が推奨されるのは、便秘対策などの整腸効果だけでなく、血糖値上昇の抑制、血液中のコレステロール濃度を下げるなど、さまざまな生理機能があるからです。
生活習慣病の予防のための食生活の指針のひとつである『日本人の食事摂取基準』(2020年版/厚生労働省)を参考にすると、日本人一日あたりの「目標量」は、成人男性21g以上、女性18g以上です。
しかし『国民健康・栄養調査報告』(2019年/厚生労働省)を見ると、男性17.5g、女性14.6gと不足しています。
この摂取量は年々下がっており、それとともにがん患者が増えていることを、医師をはじめとする専門家が指摘しています。
——欧米の研究では、一日あたり24g以上の摂取で、乳がん、胃がん、大腸がんなどのほかに、心筋梗塞、2型糖尿病の発症リスク低下が観察されたそうです。
工藤 そうなんです。欧米人に比べて、日本人の食物繊維の摂取量が少ないというデータもあるんですよ。
私の感覚では、糖質制限ダイエットがブームになってから、さらに食物繊維の摂取量が低下したと感じます。
食物繊維は、肉や魚などの動物性食品にはほとんど含まれず、植物性食品に多く含まれます。糖質制限ダイエットで、ごはんやパン、芋、豆を避ける食生活を続けると、食物繊維の摂取量が少なくなります。
今、ハッとした人は、主食として、玄米ごはん、麦ごはん、胚芽米ごはん、全粒小麦パンを無理ない範囲で取り入れることをおすすめします。最近ブームのオートミールもいいですね。
食卓に取り入れやすい食材としては、納豆、ひじき、おから、こんにゃく、きのこ類、さつまいも、切り干し大根、かぼちゃ、ごぼう、ブロッコリーなど。市販のお惣菜にも、これらの食材を使ったものは多くあるので、選ぶときの参考にしてみてください。
——食物繊維を含む食材を積極的に食べると、便通改善のみならず、食べ過ぎの予防になるとも思いました。
工藤 体調不良の原因の多くは、排便トラブルです。便秘になると、吹き出物や肌荒れが起こりやすくなります。お腹に便が溜まっているから、下腹部がぽっこり出てきますし、体も重くて運動不足になります。
食物繊維を含む食事は、よく噛むので満腹感を得られます。消化酵素を含む唾液もよく出るから胃腸の疲れを軽減するなど、いいことづくめなんです。スムージーなどで摂取するよりも、噛むことをおすすめします。
50代以上の女性に多い軟便も、食物繊維を意識することで改善していきます。軟便のもうひとつの原因は、胃腸の疲れ。食事から食物繊維を摂ることも大切ですが、痛みなどが起こったときは、あえて食事をパスすることも選択肢のひとつ。
体は正直で、消化器系統が健康でないときは、食欲が湧きにくいです。無理して食べようとせず内臓を休ませることも大切です。
がまんのし過ぎは老化を早める
——老けない食生活に入る前に、ベースを整える重要性がわかりました。ほかにすべきことはありますか?
工藤 50代以上の女性に申し上げたいのは、がまんをしないことです。
女性の患者さんと接していると、家族や他人を優先し、「自分のことを二の次、三の次」にし続けた結果、不調を抱えている人が多いことを感じます。
特に、子育て経験があったり、ハードな仕事を続けてきた女性に便秘に悩む人が多いのは気になるところ。これまでの生活を聞くと、便意があってもトイレに行けず、がまんし続けたという人は多いです。
便はリラックスしないとなかなか出ません。家族の世話、仕事のタスクに追われるうちに、自然に便が出なくなり、薬に頼らざるを得ない状況になってしまうのです。
便通のほかにも、若い頃の無理は、50代ごろから出てきます。これも食生活で改善できますので、気長に自分中心的に生きるようにしてください。それが、ストレスの軽減にもつながり、気持ちも明るく若々しくなっていくはずですよ。
工藤あき(くどう・あき)
消化器内科医・美腸・美肌評論家。一般内科医として地域医療に携わりながら、腸内細菌・腸内フローラに精通。腸活×菌活を活かしたダイエット・美肌・エイジングケア治療にも力を注いでいる。植物と美の関係をひもとく、日本でのインナーボタニカル研究の第一人者としても注目されている。その美肌から「むき卵肌 ドクター」の愛称で親しまれ、メディア出演多数。テレビに『ひるまえほっと』(NHK総合)、『ホンマでっか!?TV』(フジテレビ系)ほか、著書に『体が整う水曜日の漢方』(大和書房)などがある。2児の母。Instagram=@kudouaki_kudounaika
日本内科学会認定医・日本消化器病学会専門医・日本消化器内視鏡学会専門医。
* * *
『老けない人が食べているもの』(工藤あき 著)
アスコム