見た目もスッキリして、掃除もしやすいIHヒーター。直火を使わないので安全性も高く、最近は炊飯などのオートメニューまであってとても便利です。上手に使いこなしている人がいる一方、見た目では火加減がわかりにくい、強火を使った料理ができない、ガスコンロの時はおいしく作れた料理がうまく作れないなど、悩みを抱えている人も多くいます。
20年以上にわたってIHヒーターを使用し、商品開発にも携わってきた料理家の脇雅世さんは「IHとガスでは料理のレシピが変わります」と言います。ガスコンロとIHヒーターではそもそも加熱の仕組みが違うからです。その仕組みを知らずにガスコンロと同じように調理してもおいしくできないのは当たり前なのです。
そこで今回は、脇雅世さんの著書でIHヒーターのための料理本『IHクッキング・レシピ』から、IHヒーターの仕組みをご紹介。強みを生かし、弱点をカバーする調理のポイントもご紹介します。
文/脇雅世
加熱の仕組みを知って、頭を切り替えよう
料理を始める前に、まず知っていただきたいのは、ガスコンロとIHヒーターは加熱方法が根本的に違うということです。
IH加熱の仕組み
IHとは「Induction Heating」の略称で正確には「電磁誘導加熱」と翻訳されます。ちょっと難しい言い方ですね。ガスコンロは直接の炎で調理器具を熱します。従って火のあたる鍋底、側面、取っ手まで全体が熱くなります。
それに対してIHは、ヒーターの台(トッププレート)の下に渦巻き状の磁力発生コイルがあり、電気を流すとこのコイルから強力な磁力線が発生し、その磁力線がトッププレートを通って上に置かれた鍋底の金属を発熱させ、鍋の中のものが熱くなります。
つまり鍋の底自体がヒーターのように発熱するのがIHの仕組みです。鍋を置かないと熱が発生しないですし、鍋を離すと熱が消える。そして、鍋底だけが熱くなり、側面や取っ手は熱くならないので、年配の方やお子さんも安心して使えます。
IHは熱効率が抜群
エネルギー面から見るとガスコンロの熱効率は40〜55%なのに対してIHは80〜90%。倍近く効率がよいのです。とはいえ、IHでガスコンロの時と同じレシピで作るとおいしくできないという悩みもよく聞きます。たとえばカレー。いつものレシピで作ると水っぽくなり、うまく煮詰まりません。理由はIHでは鍋肌が炎で加熱されないため水分蒸発量が半減するからです。そんな場合は、だしや加える水分を2割がた減らします。また、熱効力をよくするために蓋を活用して対流を促すなどIHクッキング向けにちょっとした工夫をします。
私がIHをすすめる理由
もちろん、IHにはガスコンロでの調理を上回るメリットがたくさんあります。
最大のメリットは火力の幅の広さです。強火はガスの強火より強く、とろ火はガスの弱火よりずっと弱く、自在に温度設定できます。
次のメリットは安全面です。ガスと違い直火ではないので火が衣服に移ったり、手元が熱であおられたりする心配がなく、落ち着いて調理ができることです。
調理中の燃焼から発生する汚れや水蒸気も少なく、結露や部屋のカビを回避することができて室内もクリーンで快適。
そしてフラットなトッププレートは、通電しない部分に物を置いたり、調理台として使ったりが可能で、キッチンがとても快適な空間になります。
IH調理のポイント3つ
1.火力
一番弱い「とろ火」からマックスの「強火」まで自在な設定。
IHは鍋底自体が発熱して加熱調理をするというところがガスの火との最大の違い。IHの火力の幅は、ガスコンロよりも広いのです。強火はガスの強火よりも強く、とろ火はガスのとろ火よりずっと弱いので、強火で一気に炒めたり、お湯を沸かしたり、とろ火で長時間煮込んだり保温することが可能です。
2.水量
ガスでの従来のレシピよりも少なめに。
磁力線の力によって鍋底が発熱するIHでは、ガスコンロのように鍋の周りからあぶられることがないので、水分の蒸発が少なくなります。長時間煮る煮物やカレーなどは蒸発量がガスの場合の1/2程度と少ないため、調味料の分量はそのまま、加えるだしやスープ、水などを2割程度控えましょう。
3.蓋
熱効率をよくするため、蓋を上手に活用。
鍋底が発熱するIHは、ガスコンロのように側面から伝わる熱がありません。鍋の中の熱を効率よく使うためにも蓋を上手に活用することが大切です。ガス火の時よりも蓋づかいが熱の通りを大きく左右します。鍋中で大きな対流が起きにくいので、煮物などでは煮汁を全体に行き渡らせるために落とし蓋をして補います。
WAKI流・調理のテクニック編
IHだから調理がうまくいかない、という言い訳は禁句にしましょう! IHとガスとは加熱のメカニズムが異なるのです。それを一度頭に入れると調理の仕方が自然に変わります。まずは慣れること……きっとうまくいきます!
落とし蓋で対流を作る
落とし蓋にさらに蓋をする
少ない湯と蓋で調理
とろみは鍋の端から入れる
鍋をゆすってとろみを行き渡らせる
調味液は鍋の中央に入れる
焦げそうならリングの上から外せばOK
フライパンは火が消えない程度に傾ける
IHは水分をガス火の2割減に
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脇雅世(わき・まさよ)
料理家。東京生まれ。1977年に渡仏し、ル・コルドン・ブルーやマキシム・ド・パリなどで学ぶ。1981年より10年間、24時間耐久カー・レース「ル・マン」にマツダ・レーシングチームの料理長として参加。1984年に帰国、服部栄養専門学校国際部ディレクターに。1991年より「脇雅世料理教室」を主宰。雑誌やテレビなどのメディアで和洋中、幅広いレシピを紹介する一方、IHクッキングヒーターや低温調理器の使いこなしを分かりやすく提案し、家庭料理にも調理科学に基づく考え方の必要性を提唱する。そのバックボーンからIH用調理器具を貝印株式会社と共同開発し、2008年よりo.e.c.シリーズを展開している。2014年、フランス農事功労章を受章。著書多数。近著に『いちばん親切でおいしい 低温調理器レシピ』(世界文化社)がある。
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『IHクッキング・レシピ』(脇雅世 著)
世界文化社