挑戦し続ける女優・大竹しのぶさん「いつもの暮らしが、心も体も満たしてくれる」【心に栄養｜花人シアター】

2023/4/2

デビュー以来半世紀近く、休むことなく話題作に出演する俳優・大竹しのぶさん。観客の手を握り、舞台の世界にグッと引き込むような吸引力に魅了された人は数知れず。そんな大竹さんの最新作は、４月から東京公演がスタートするミュージカル『GYPSY（ジプシー）』。描かれるのは、２人の娘をスターに育てようと、困難をものともせずに突き進む、究極のステージママ・ローズの奮闘を描く夢と努力の物語。ブロードウェイで1959年に初演されてから半世紀以上、再演が繰り返されている名作です。今回、公演を控え、舞台稽古に励む大竹さんに役柄の魅力や公演への意気込み、そして演じるローズと同じく子を持つ母としてのプライベートについてお話を伺いました。今回は、２回にわたってお届けするインタビュー記事の第２回です。第１回の記事はこちら。

最もワクワクするのは、舞台初日の幕が上がる瞬間

大竹さんは、現在も精力的に数多くの作品に出続けています。2022年10～11月は『女の一生』の上演期間中に、テレビドラマやバラエティ番組の撮影も行っていました。『GYPSY』の後も、音楽祭への出演、年末までに複数の舞台作品に出演する予定が控えています。

「お芝居が好きだから続けられるんでしょうね。体力や気力も、仕事を通じて鍛えているようなところがあります。前日にテレビの撮影をして、京都に戻り舞台に立って、終わると再びドラマの現場へ……という日もあったのですが、そういうときも楽しいのです。スケジュールを見るとハードのようにも思いますけれど、とても充実している。その満足感の方が強いです」

仕事で喜びを感じるのは「舞台で初日の幕が上がるとき」という大竹さんに、その理由を聞きました。

「初日はやはり特別です。舞台はスタッフも出演者も何か月も一丸となって準備し、やっとお客様に見ていただける。この最初の一日ですから、最もワクワクします。なにもなかった劇場にセットが組まれていき、照明や音楽の調整がされ、みんなで“やるぞ！”と心をひとつにして、劇場の開幕のベルが鳴る。そして、幕がゆっくりと上がっていく……このときが本当にうれしい瞬間です。ですから私は緊張したことがないんです。よく“変わっているね”と言われるんですけれど（笑）。もちろん、稽古も大好きです。こうして話している間も、稽古場に行きたくてうずうずしてしまうほど。初日の舞台が終わり、お客様にお褒めいただき、演出家やスタッフの方々から“よしよし、よく頑張りました”と言われると、心の底からうれしい。ですから、すべてのエンタメがストップしたコロナ禍はとてもつらかった。今は、上演できる喜びをかみしめています」

自宅でのいつもの暮らしが、心も体も満たしてくれる

現在65歳、年齢を感じさせない大竹さんのパワーの源は、自宅でリラックスすること。

「家でゆっくりと過ごすことが私の充電時間かもしれません。リビングでお茶を飲みながら、映画やドラマを観たり、妹とおしゃべりをしたり。息子と一緒に暮らしていることもあり、食事の準備、洗濯や掃除などもしています。ご飯を炊いて、お味噌汁を作って、魚を焼く程度ですが、家の食事をおいしいと思うことはささやかな喜びであり、こういうことを重ねていくことで、気が付けば心も体も満たされていくことを感じています」

特別に運動をしていないという大竹さんは、家事をしっかりこなしていました。

「私は家事を筋トレだと思っているところがあります。もうちょっと頑張ろう、とついついあれこれ手を出してしまうのです。先日、段ボールを外の収集場に持って行ったのですが、その他の段ボールが崩れていることに気付きました。このままでは収集してくれる人が大変だと思い、再び家に戻り、はさみと紐を持って段ボールをまとめに収集所まで戻ったのです。家と収集所２往復していい運動になりました。それに、きっちりとやり切ると気持ちがいいのです」

それは、几帳面だったお母様から受け継がれた性格だそう。

「母は眠る前にキッチンをチェックし、シンクや台をしっかり拭いてから“今日も１日が終わりました”と言っていたのです。若い頃の私は“明日にすればいいじゃない”と言ったことがありました。でもこの年になると、母と同じことをしているのです。きっと子どもたちも私のこういう姿を見ているので、似たようなことをするんでしょうね」

悩みながら前進することは戦い。私たちは一生、戦っているのかも

ミュージカル『GIPSY』で大竹さんが演じるローズは、２人の娘に自分の夢を託します。大竹さんご自身が母として、子どもたちに望むのは、“自分の道を生きる”こと。

「２人とも30歳を超え、自分の道を歩いているので、特に望むことはありません。あえて言うなら、お互いに愛し信頼し合って生きるパートナーを見つけてほしいとは思います。ここまで子どもが大きくなり、子育てをしてきた35年以上の月日を振り返ると、親ができることは少なかったんだと気付きます」

母親としての役割を終えた今、意識していることは、“挑戦できる環境に、身を置き続けること”。

「お芝居の仕事に、終わりも正解もありません。ですから、今のように挑戦をさせていただける環境にいることは、本当にありがたいと感じています。目下の挑戦は『GYPSY』です。とにかくこれをいい作品に仕上げていきたい。仕事に限らず、何事も本気で挑めば、道は開いていきます。一生懸命やっていると、ワクワクしてきますし、それが続いていくんです。私の場合、その対象は仕事です。何かを達成すると、一歩先が見えて世界が広がる。また挑戦をすると、その先が見えるという繰り返しです。悩みながら前進することは戦いでもあります。そうなると、私たちは一生、戦っているのかもしれませんね（笑）」

いつまでもいきいきと美しい俳優・大竹しのぶさん。Instagramで発信される、心が和む日常風景やにじみ出る人柄に、ファン層を増やしています。

大竹さんとお話をしていると、「この先何があるのか」と未来のことよりも、「今、この瞬間」を全力で生きていることが伝わってきます。「あとちょっと」を積み重ね、自ら望む人生を積極的に歩いて行く……これが人生100年時代に大切なことなのかもしれません。

大竹しのぶ（おおたけ・しのぶ）
1957年東京都生まれ。1974年、テレビドラマ『ボクは女学生』に出演し注目を集める。1975年、映画『青春の門－筑豊編－』のヒロイン役で本格的にデビュー。同年、NHK連続ドラマ小説『水色の時』に出演し全国的な存在に。以降、映画、舞台、テレビドラマ、CMほか多数の作品に出演。近作に映画『ヘルドッグス』、舞台『女の一生』、テレビドラマ『PICU 小児集中治療室』などがある。歌手として紅白歌合戦に出演、エッセイストとしても活躍。紫綬褒章、読売演劇大賞最優秀女優賞ほか受賞多数。Instagram（＠shinobu717_official）。

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