この冬、横浜・山下ふ頭の一角に、新たに巨大な文化装置が立ち上がりました。それが、トヨタグループが主催するイマーシブ・ミュージアム「THE MOVEUM YOKOHAMA by TOYOTA GROUP」(以下、THE MOVEUM YOKOHAMA)です。会場は、横浜港の山下ふ頭4号上屋。港の先端に立つ巨大倉庫内に、約1,800㎡という巨大なスケールのイマーシブ空間が出現。そこで今回は、開館に先立って行われたメディア向けの先行体験会およびそのステージパートでの取材をもとに、THE MOVEUM YOKOHAMAの概要をレポートします。

「THE MOVEUM YOKOHAMA」のコンセプトとは? トヨタグループとの縁とは?

この新たなミュージアムを貫くキーワードは、「MOVE」です。主催するトヨタグループではTHE MOVEUM YOKOHAMAを「リアルな文化体験と心を育む学びの瞬間」を提供する場として紹介。「MOVEUM」は、“MOVE”と”MUSEUM”をかけあわせた造語で、心やからだ、社会、未来へと新しい“MOVE”が生まれる場所であってほしい、という願いが託されています。美術を“静かに眺める”場というより、テクノロジーの力で感覚を動かし、最先端の文化や学びを体験できる場所でありたい、そんな狙いが言葉の端々から伝わってきました。

ステージパートに登壇したTOYOTA GROUP代表・豊田章男さん

メディア向け内覧会のステージパートに登壇した豊田章男さんは、トヨタグループが文化施設を手がける意味を「器」という比喩で語りました。トヨタグループでは、それまでも音楽活動などを通して、文化面での社会貢献を静かに積み重ねてきてはいました。しかしそれらはあまり多くの人に知られることなく、いわば“陰徳”として続けられてきたもの。もっとトヨタに“文化の香り”が必要だ——。そう考えた豊田さんは、文化面での社会貢献をより多くの人々に伝えていくため、もっと大きな器が必要だと実感。そこでタイミングよく出合えたのが、都市に近く、世界とつながる港町・横浜で、約1,800㎡という巨大空間を擁する山下ふ頭4号上屋だったのです。

山下ふ頭からみなとみらい側を臨む眺め。都市と港が調和した開放的な風景が広がる

さらに、横浜はトヨタグループにとっても縁ある大切な場所でした。豊田さんの祖父・豊田佐吉が自動織機を世界へ広めるため渡米した出発地は横浜港でしたし、佐吉の息子・豊田喜一郎もまた、横浜を出発して視察を重ね、自動車事業の端緒をつかんでいます。さらに当時、トヨタ自動車の主力車種であった「クラウン」もまた、横浜港から積み出されてアメリカへと輸出されました。そして2025年、トヨタグループはふたたび横浜へと戻ってきたのです。

会場内の壁面資料より

随所にトヨタ色も見られるTHE MOVEUM YOKOHAMA

THE MOVEUM YOKOHAMAの会場となる山下ふ頭4号上屋は、港湾の記憶をまとった大きな“産業の箱”です。横浜市長の山中竹春さんは、三方を海に囲まれたロケーションから、建物に一歩入った瞬間に没入体験へ切り替わる「落差」に驚いたと話しました。梁や柱といった既存構造をそのまま活かし、オーダーメイドのように空間が設計されている点も印象的です。

アクセス面では、トヨタのモビリティ「e-Palette(イーパレット)」が、山下ふ頭バス待合所から会場まで運行します。さらに日没後は、“光の振付師”との異名をもつフランス出身のデザイナーのマテオ・メッセルヴィさんによるイルミネーションが、建物を彩ります。豊田さんは「対岸から見て、あの光は何だろう、行ってみようか、というきっかけになれば」と期待を寄せました。

MOVEUM YOKOHAMAのライトアップ。横浜港の新たな夜景スポットとなっている

エントランスは“没入への助走路”のような位置づけで、上映時間の15分前から入場可能。会期中無休で、営業時間は日〜木曜・祝日が10:30〜19:30、金・土曜・祝前日が10:30〜20:30です。料金は一般オンライン3,000円(当日3,800円)ほか、学生料金などが設定されています。

館内にはミュージアムショップも。シアター・プログラムに関連するグッズが豊富に用意されていたほか、愛知県長久手市のトヨタ博物館から持ち込まれたものも。自動車企業が運営するミュージアムならではの個性が今後も随所で見られそうです。

開館を飾る2本立てのイマーシブプログラム

2026年3月末までのオープニングを彩るのは、2本立てのイマーシブ・プログラムです。ひとつは、「THE MOVEUM THEATER」で上映されるウィーン世紀末芸術をテーマとした「『美の黄金時代』グスタフ・クリムトとエゴン・シーレ~光と影の芸術家たち~」で、合計52分にわたる圧巻の没入体験が堪能できます。もうひとつは、山口智子さんが10年をかけて約26カ国を巡り、「未来へ紡ぎたい音の宝」を映像に収めてきた「LISTEN.」の新シリーズ「LISTEN. ONE MOMENT」。こちらは「STUDIO PROGRAM」として上映されます。

華やかな登壇者によるステージパート

最後に、内覧会のステージパートとして開催された座談会での内容を要約してレポートします。ステージパートでは、トヨタグループが満を持してオープンさせるミュージアムにふさわしく、豪華メンバーが集結。山中竹春さん(横浜市長)、都倉俊一さん(作曲家・文化庁長官)、山口智子さん(「LISTEN.」プロデューサー)、シグリッド・ベルカさん(駐日オーストリア大使)、豊田章男さん(TOYOTA GROUP代表)の5名が登壇しました。

山中さんは、山下ふ頭が1963年完成の埋立地として戦後復興を支えてきた歴史を踏まえ、産業用の役割を終えたこの地を、市民のために再開発を目指すなかで、トヨタグループという強力なパートナーを得て「MOVEUM」という新たな文化の発信拠点が立ち上がる喜びを語りました。「MOVEUM」というその名の通り、人・感性・未来が“動いてくる場所”になれば、と期待を込めました。

都倉さんは、作曲家の視点から、今回の体験を「映像だけでなく“音”が決め手になる」と捉えていました。美術と音楽が一体となり、エンタテインメントと本格的な芸術を同時に味わえること、それがいまのテクノロジーで“ライブ”のように成立していることに大きな期待を寄せ、「ここでそれが証明されるのでは」と語ります。さらに横浜という港町の文脈にも触れ、昔の曲「港町ブルース」を引き合いに出しながら、港が文化を交差させてきた場所であることを強調。世紀末ウィーンの芸術もまた支える人と場所があって花開いたとして、ここ横浜で国際的な展覧の“新しい器”が育っていく展望を示しました。

山口さんは、「LISTEN.」の根幹にある「体感」を、MOVEUM全体の方向性へと接続しました。説明を“わかった気になる”時代に、目を閉じて耳を澄まし、細胞で受け取ること。その入口として、ここが「旅に出る第一歩」になってほしいと語り、山口さんならではの独特の表現で「音のお風呂にジャボンと入る」ように浸ってほしい、と話しました。

ベルカ大使は、ウィーンの美術館でオリジナルを見た経験を踏まえつつ、没入型で19世紀末〜20世紀初頭のウィーンに“入り込む”感覚は初めてだと賛辞を述べました。さらに、本展を体験したあと、ぜひオーストリアまで本物を見に来てほしい、とも強調しました。

美術館の概念を変える可能性を秘めたTHE MOVEUM YOKOHAMA

港の風景、産業遺構としての巨大空間、そして音と映像のテクノロジー。THE MOVEUM YOKOHAMAは、これらが一体となったユニークなミュージアムであり、新たな横浜のランドマークとして発展が期待されます。

次の記事では、「THE MOVEUM YOKOHAMA」のメインコンテンツとなるシアタープログラム「ウィーン世紀末美術『美の黄金時代』グスタフ・クリムトとエゴン・シーレ~光と影の芸術家たち~」と、山口智子さんがプロデューサーを務める「LISTEN. ONE MOMENT」の詳しい内容について掘り下げてレポートします。

THE MOVEUM YOKOHAMA 基本情報

施設名称:THE MOVEUM YOKOHAMA by TOYOTA GROUP
開催期間:2025年12月20日(土)~2026年3月31日(火)
営業時間:日曜~木曜10:30~19:30、金・土・祝前日10:30~20:30
会  場:神奈川県横浜市山下ふ頭4号上屋(神奈川県横浜市中区山下町279-9)
入場料 :一般 オンライン3,000円、当日会場3,800円
     大・高・専門学校生 オンライン2,000円、当日会場2,700円
     小・中学生 オンライン1,200円、当日会場1,900円
     ※未就学児無料 
公式HP:https://global.toyota/info/themoveum/

文・撮影/齋藤久嗣


 

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