
ティファニーの185年にわたる歴史の中で培われた宝飾技術の集大成ともいえるこの作品は、ジャン・シュランバージェが1965年に手掛けた名作「バード オン ア ロック」ブローチから着想を得ています。喜びとオプティミズムの象徴であるダイヤモンドのバードは、フライング トゥールビヨンの開口部で今にも飛び立とうとする姿を見せ、永遠の美を象徴しています。
文/土田貴史
時計という機能を超越し、真の芸術作品として腕に佇む
直径39mmのホワイトゴールドケースに収められた文字盤は、まさに芸術そのもの。シャンルベエナメル(盛り上がった畑を意味するフランス語の装飾技法)による多層構造の上に、手塗りのラッカー仕上げフラワーが2層にわたって巧妙に配置され、奥行きある美の世界を創出しています。
3色のブルーエナメルは薄く重ねられることで宝石のような輝きを放ち、800度以上の高温で焼成される工程を経て完成。この工程だけで80時間を要するという事実が、その芸術的価値の高さを物語っています。
ケースには341石のラウンド ブリリアント ダイヤモンドがスノー セッティングで施されています。これはティファニーが誇る、最も困難とされる宝石セッティング技法の一つです。目に見える金属部分を最小限に抑えながら、大小さまざまなダイヤモンドを緻密に配するスノー セッティングは、まさにブランドの真骨頂といえるでしょう。

特筆すべきは、フライング トゥールビヨンを覆うファセット加工されたサファイヤクリスタルドーム。ダイヤモンドカッティングに使用される工具で手作業により加工されたこの0.309グラムの超薄型サファイヤは、トゥールビヨンのケージと共に1分ごとに回転し、ダイヤモンドのようなファセットが光を捉えて文字盤に絶えず変化するパターンを描き出します。この装飾的演出は、ティファニーの象徴的なダイヤモンド セッティングの美学を時計の機構そのものに昇華させた革新的アプローチといえます。
時計製作における最高峰の技術であるフライング トゥールビヨンは、重力が時計の精度に与える影響を補正するために考案されたメカニズムです。通常のトゥールビヨンとは異なり、上部を支えるブリッジがないため、その魅惑的な動きを余すことなく鑑賞できます。スイスのジュラ地方に拠点を構える革新的ムーブメント製作ブランド、アルティム社が手がけたキャリバーAFT24T01は、205個のパーツから構成され、50時間のパワーリザーブを備えています。
ムーブメントには面取り、サンドブラスト、ストレートグレイン仕上げ、サテン仕上げ、鏡面仕上げなど、様々な高度な時計製作技術が手作業で施され、異なる輝きが織りなす豊かな表情を生み出しています。ゴールド仕上げが施されたギアトレインは、他の金属が放つシルバーがかった色調との美しいコントラストを成し、静謐な印象を醸し出します。
ティファニーを象徴する6本の爪がダイヤモンドを支える「ティファニー(R) セッティング」に着想を得た2つの星型ブリッジは、フライング トゥールビヨンと時分表示に配され、それぞれの爪に丹念な鏡面仕上げが施されています。
「バード オン ア フライング トゥールビヨン アジュール ブロッサム」は、ティファニーの時計製作における哲学の完璧な体現です。卓越したデザイン伝統、ダイヤモンドの専門知識、そして熟練の装飾工芸技術が融合し、精巧な機構と高度な技術を搭載した時計の真の魅力を伝えています。
世界限定10本という希少性、そして芸術作品としての完成度も伴い、この製品は次世代へと受け継がれる宝物となるでしょう。

www.tiffany.co.jp