超高級時計の世界において、常に革新性を追求するオーデマ ピゲが、新たな傑作を世に送り出しました。「リマスター02 オートマティック」と名付けられたこの時計は、同社の1960年代の前衛デザインを現代に蘇らせたモデルです。

文/土田貴史

左右非対称に表現された、建築哲学を背景とする美意識

オーデマ ピゲは1960年代前後に、左右非対称のプロトタイプをいくつも製作していました。当時のカタログを紐解くと、1959年から1963年の間に、30型以上もの非対称モデルがデザインされていたことがわかります。その多くは10本以下の少数生産で、まさに実験的な試みだったようです。

今回の「リマスター02 オートマティック」のインスピレーション源となった1960年製のモデル「5159BA」も、わずか7本しか製造されなかった希少な時計でした。このような歴史的背景は、オーデマ ピゲが常に新しい価値を追い求め、時代を切り開く姿勢を貫いてきたことを物語っています。

インスピレーション源となった1960年製のモデル「5159BA」。

さて、この時計のデザインに大きな影響を与えたのが「ブルータリズム」という建築スタイルです。ブルータリズム建築運動とは、1950年代から1970年代にかけて隆盛、建築物の構造や材料をそのまま露出させ、装飾を最小限に抑えた力強い造形を特徴としています。コンクリート打ちっぱなしがその最たる例。主な建築家には、ル・コルビュジエやパウロ・メンデス・ダ・ロシャなどがいます。

ブルータリズムの核心は、「誠実さ」と「素材の真正性」にあります。建築物の構造や機能を隠さず、むしろそれらを積極的に表現することで、新しい美的価値を創造しようとしました。この哲学は建築だけでなく、デザイン全般に大きな影響を与えたのです。

オーデマ ピゲがブルータリズムから影響を受けたのは、形そのものに意味を持たせる点に共感したからではないでしょうか? ブルータリズム建築が、建物の構造駆体を美の表現手段として使ったように、オーデマ ピゲは時計のケース形状を通じて、新たな美学を創造しようと試みたのです。

「リマスター02 オートマティック」の非対称な長方形ケースは、時間の非線形性や人生の予測不可能性を表現しているかのようです。それまでの時計は、時の連続性をデザインの基軸としてきましたが、オーデマ ピゲはそこにもメスを切り込みます。

ダイヤルの対角ラインに15.8度の角度がついたサファイアクリスタルの風防は、通常の時計の概念を覆す大胆な試みですが、これは単なる装飾ではなく、時間の見方を変える挑戦とも解釈できます。

このモデルに搭載される超薄型自動巻きムーブメント、キャリバー7129は、厚さわずか2.8mmながら約52時間のパワーリザーブを実現しています。これは、形状の追求が単なる外見だけでなく、内部機構にまで及んでいることを示しています。

「リマスター02 オートマティック」は、オーデマ ピゲの歴史に刻まれた前衛的精神を受け継ぎつつ、現代の技術で進化させた傑作。腕の上で静かに主張を続ける、小さな芸術作品です。

リマスター02 オートマティック
自動巻き、18Kサンドゴールドケース(左右非対称サイズ:縦38✕横41mm)。649万円(税込)。世界限定250本。(問い合わせ先/オーデマ ピゲ ジャパンTel.03-6830-0000)

オーデマ ピゲのWEBサイトはこちら

 

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