光の束のなかに佇む「来火」。透明なボトルに、銀の菱形ラベルが凛として映えます。

「辛口」とは、甘さや旨味を削ぎ落とした先にある味わいなのか……。ラグジュアリー日本酒ブランドSAKE HUNDREDが世に問う「来火(らいか)」は、その常識に異を唱える一本です。香りも甘味も旨味も酸も豊かに満ちていながら、最後はすべてが鋭いキレへと収束していく。フラッグシップ「百光(びゃっこう)」と双璧を成す、新たなる辛口高級酒が誕生しました。

文/土田貴史

引き算ではなく、満ちたままキレる辛口

2018年の創業以来、SAKE HUNDREDは「百光」に代表される、透明感と米の甘やかさを両立させた酒を世に送り出してきました。ところが、国内外で高い評価を得る一方で、「少し甘い」という声が届くこともあったといいます。ブランドオーナーの生駒龍史氏は、発表直後の取材でこう振り返ります。「米から造る酒なのだから、甘くあることを否定する必要は一切ない。それが僕の強いポリシーでした」。

とはいえ、辛口に関心がなかったわけではありません。生駒氏自身、古典的な辛口の銘酒を愛してきた一人です。それでも手を出さなかったのは、日本酒の辛口が本質的に「引き算」の酒だからでした。日本酒度という指標が示すとおり、辛口とはすなわち“甘くない”こと。甘味も旨味も酸も抑えた“ナイ・ナイ尽くし”の先に、スパッとキレる味わいが生まれます。そこには、ブランドの個性を描く余白がほとんど残されていなかったのです。

転機は発想の切り替えでした。最終的な印象がドライであればよいのなら、甘味も旨味も酸も備えながら、なおかつ激烈にドライな酒は造れるのではないか。こうして掲げられたのが「溢れる個性、味わう辛口」というコンセプトです。

背景には、世界の高級酒を見つめる冷静な眼差しがあります。ワインやウイスキーの世界では、「ドライ」と「複雑性」が品質を語るうえで欠かせない価値軸です。生駒氏は、かつて一世を風靡した淡麗辛口が世界の高級酒の座に届かなかった理由を、複雑性の欠如だと分析します。「来火」が目指したのは、その両方を満たし、世界の美食の舞台で通用する辛口でした。

左が「来火」、右がフラッグシップ「百光」。白と黒、対照的なボトルの色が、甘やかさと鮮烈なドライという酒質の対比を物語ります。

設計の鍵となったのは「体験の時間軸」です。口に含んだ瞬間には多彩な味わいが広がってよい。しかし後半は、心地よい苦味と長く伸びる酸によって、グッと引き絞られていく。生駒氏が醸造元に託したのは、そうした味わいの流れそのものでした。

実際にグラスを傾けると、その意図がよくわかります。白い花を思わせる繊細な香りに、若い洋梨や白桃の皮のような瑞々しいアロマが重なります。口当たりはクリーンで鮮烈。山椒の若葉やセルフィーユを思わせる青い清涼感、白玉や求肥にも似た米の旨味、輪郭のあるミネラルが次々と表情を変え、終盤には蕗の薹やグレープフルーツピールのようなほろ苦さが全体を束ねていきます。一色に塗り込められた辛口ではなく、幾重もの色調を内に秘めた辛口。「初めて飲んだとき、涙が出ました。頭の中で描いていたものが、目の前に現れたんです」と、生駒氏は語ります。

小ぶりな白ワイングラスでは香りが開き、甘味・旨味・酸が立体的に広がります。
飲み口の薄い平盃では香りが抑えられ、辛口の骨格が際立ちます。推奨温度は5〜10℃。

佐渡の米と水、28%の磨きが描く輪郭

醸造を担うのは、新潟・佐渡島の天領盃酒造です。開発にあたり、生駒氏と商品開発責任者の河瀬氏は、数十の銘柄をブラインドで試飲しましたが、二人そろって最高点をつけたのは天領盃酒造でした。ちなみに、天領盃酒造の代表・加登仙一氏が蔵を継いだのは2018年。奇しくもSAKE HUNDRED創業と同じ年です。

精米歩合は28%。磨きすぎれば淡白に、残しすぎれば重たい辛口になります。生駒氏によれば、50%では分厚く、18%では重心が軽すぎて料理に合わせにくい。天領盃酒造にとっては初となる高精白の造りで、その均衡点を探り当てました。

原料米の選び方も独創的です。麹米には安定感のある岡山県産山田錦を用い、掛米には佐渡産の飯米「こしいぶき」を選びました。淡麗辛口の代表格である「五百万石」のように溶けにくい酒米は、発酵末期に酵母が「ガス欠」を起こし、雑味が発生するリスクがあります。その点で、こしいぶきは、目指す距離をぴたりと走りきる栄養バランスを備えた米なのです。仕込み水は、佐渡の最高峰・金北山の伏流水。カルシウム硬度75、マグネシウム硬度5という全国的にも珍しい組成が、旨味の膨らみと心地よいほろ苦さを支えています。

江戸時代から歴史を紡ぐ天領盃酒造の蔵。
代表取締役社長兼製造責任者の加登仙一氏。蔵を引き継ぎ、その名を全国に轟かせるまでに立て直しました。

こうして生まれた辛口は、華やかでジューシーな高級酒が不得手としてきた領域にも手を伸ばします。寿司や脂ののった魚、肉料理のメイン、香辛料を効かせた一皿まで。すでに和食の名店を中心に採用が進み、ミシュランTOKYO掲載店「聖坂 和敬」でのオンリストも決まっています。

2026年8月31日、アンダーズ東京で開かれたメディア発表会では、繊細な料理とのペアリングも披露されました。

「百光」が百年先まで光を灯す祈りの酒であるなら、「来火」は未来に火を灯す覚悟の酒。挑戦を始める日、決意を新たにする日、大切な人と歩み始める日。人生の節目にこそ開けたい一本です。

メディア発表会で「来火」を手にする、Clear代表取締役の生駒龍史氏。候補に挙がった銘柄名は約800案に及んだといいます。
ブランドの顔である「百光」とは対照的に、クリアボトルを採用。「古き良き辛口」の重いイメージにとらわれないための選択で、紫外線を避けるためオリジナルカートンに収めて届けられます。

品名:来火|RAIKA
製造者:天領盃酒造(新潟県佐渡市)
原料米:佐渡産こしいぶき(掛米)、岡山県産山田錦(麹米)
精米歩合:28%
アルコール分:13.6%
内容量:720ml
価格:2万2000円(税込)
販売:SAKE HUNDRED公式サイト https://jp.sake100.com/products/raika

 

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