桜の花に包まれる「セネタ・マイセン Cherry Blossom」。冬桜が咲き始める秋に発表された、季節の詩情を宿すタイムピースです。

ドイツ時計の聖地グラスヒュッテと、ヨーロッパ磁器発祥の地マイセン。ザクセン州の地で育まれた二つの伝統が、ひとつの腕時計に結実しました。グラスヒュッテ・オリジナルの新作「セネタ・マイセン Cherry Blossom」は、マイセンの絵付師が極細の筆で描いた桜を磁器の文字盤にとどめ、移ろう季節の一瞬を、永く時を刻む機械式時計へと昇華させた一本です。

文/土田貴史 写真提供/グラスヒュッテ・オリジナル

エルベの川辺とエルツ山地 ドレスデンを挟んだ二つの町

マイセンとグラスヒュッテは、いずれもドイツ東部、ザクセン州の小さな町です。マイセンはエルベ川のほとり、州都ドレスデンから北西へおよそ25kmに位置し、グラスヒュッテはドレスデンの南、エルツ山地(ドイツ語で「鉱石の山」の意)の谷あいに佇んでいます。両者の距離は直線にしておよそ40km。ドレスデンを要に、北西と南へ扇を開いたような位置関係にあります。

二つの町を結ぶのは、地図上の近さだけではありません。18世紀初頭、ザクセン選帝侯アウグスト強王は、東洋の磁器に魅せられ、錬金術師ベトガーにその製法の解明を命じました。1710年、ヨーロッパ初の硬質磁器製作所としてマイセンに王立磁器工房が開かれます。その白磁を支えた原料のカオリン(白色粘土)は、当初エルツ山地のアウエで採掘されたものでした。一方のグラスヒュッテも、かつては銀山で栄えた鉱山町です。鉱脈が尽きて困窮した町を救うため、1845年、ザクセン政府の支援のもとで時計産業が興されました。

つまり両者はともに、ザクセン宮廷の庇護と、エルツ山地の鉱山文化という同じ土壌から芽吹いた工芸なのです。今もドレスデンのツヴィンガー宮殿には、宮廷が集めた磁器コレクションと、精緻な時計や科学機器を収めた数学物理学サロンが同じ敷地内に並んでいます。磁器と時計は、数百年前からこの地で隣り合う存在でした。

マイセンが300年余りにわたって守り続けてきたのは、白磁の上に自然を描く芸術です。18世紀には中国磁器の影響を受けた東洋的な図柄が主でしたが、やがて身近な草花が加わり、なかでも気品ある桜は特に愛されるモチーフとなりました。今回の文字盤は、そうした伝統の延長線上にあります。

マイセンの工房で手描きされた磁器製文字盤。花弁の濃淡や枝の陰影は、色を重ねるたびに900℃の窯で焼成することで生まれます。文字盤中央下には、マイセンの象徴である交差した双剣のマークが添えられています。

文字盤の製作は、グラスヒュッテではなくマイセンの工房に委ねられています。花の色彩を生むのは、門外不出の調合を受け継ぐマイセンのカラーラボラトリー。熟練の絵付師が淡い白磁の上に一輪ずつ筆を運び、色を重ねるごとに900℃の窯で焼き上げることで、深みのある発色が得られます。文字盤まで自社で手がけることを誇りとするグラスヒュッテ・オリジナルが、あえてその役目を託したことに、両者の深い信頼関係がうかがえます。

一人の時計師が仕上げるアトリエモデル 桜を引き立てる控えめな意匠

グラスヒュッテ・オリジナルの歴史は1845年から途切れることなく続き、ムーブメント部品の最大95%を自社で製造する、真のマニュファクチュールとして知られています。「セネタ・マイセン」はその中でも特別なアトリエモデルの一つで、一本ごとに一人の時計師が最初から最後まで組み立てを担います。磁器の白に筆で花を描く絵付師と、ムーブメントに向き合う時計師。二つの町の職人の手仕事が、ここでひとつに重なります。

時計全体の意匠は、薄い磁器の文字盤を主役に据えるため、あえて抑制されています。直径40mm、厚さ10.2mmのスリムなレッドゴールドケースが文字盤を縁取り、表示は時と分の2針のみ。ソリッドゴールドの針は枝先をなぞるように伸び、桜の構図を邪魔することがありません。ダークブルーのアリゲーターストラップは、桜色とレッドゴールドの温かみを落ち着いた色調で受け止めています。

ドーム型サファイアクリスタルの下に広がる桜の枝と、5Nレッドゴールドのケース。リューズを引けば秒停止機構が働き、正確に時刻を合わせられます。

その奥に収まるのは、自社製の自動巻きキャリバー36です。振動数は毎時28,800振動、パワーリザーブは約100時間を確保し、週末に外しておいても月曜の朝まで止まることなく動き続けます。温度変化や磁気に強いシリコン製ヒゲゼンマイを備え、日常での精度と耐久性にも配慮されています。

サファイアクリスタルのケースバック越しには、グラスヒュッテ伝統の3/4プレートに施されたリブ仕上げ、手彫りのエングレービングを施したテンプ受け、サンレイ仕上げの角穴車などが覗きます。ダブルGのロゴを配したソリッドゴールドのスケルトンローターが、その上で両方向に回転します。表には磁器に描かれた花、裏には職人が磨き上げた機械。この時計は二つの顔を持ち、それぞれがザクセンの手仕事の結晶となっています。

日本の十月桜をはじめとする冬桜は、秋の紅葉と並んで咲く儚い花です。散りゆくからこそ美しい一瞬を、焼成によって色褪せることのない磁器にとどめ、精緻なムーブメントで時を刻み続ける。マイセンとグラスヒュッテ、ザクセンの二つの美学が出合ったこの一本は、季節を超え、世代を超えて受け継がれていく時計となるでしょう。

モデル名:セネタ・マイセン Cherry Blossom
リファレンス:1-36-16-05-05-01
ムーブメント:自動巻きキャリバー36-16、ハンドエングレービングを施したテンプ受け
機能:時・分、秒停止機構
振動数:28,800振動/時(4Hz)
パワーリザーブ:約100時間
石数:27石
ケース素材:レッドゴールド(5N)、サファイアクリスタルケースバック
ケースサイズ:直径40mm、厚さ10.2mm、ラグからラグまで47.09mm
防水性能:5気圧
文字盤:マイセン磁器、手描きの「Cherry Blossom」モチーフ
針:レッドゴールド(5N)
風防:両面無反射コーティングを施したドーム型サファイアクリスタル
ストラップ:ダークブルーのルイジアナ産アリゲーター、レッドゴールド製尾錠
価格(税込):493万9000円
問い合わせ先:グラスヒュッテ・オリジナル ブティック銀座 Tel.03-6254-7266
URL:https://www.glashuette-original.com

 

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