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今年、解体から38年ぶりに再現された「豊島区立トキワ荘マンガミュージアム」(写真提供:豊島区立トキワ荘マンガミュージアム)

『まんが道』以降の満賀たちの道のりを描く作品

 昭和29年夏、間借りだった江東区の 2畳一間の貸し間住まいからトキワ荘へ転居した満賀(まが)道雄と才野(さいの)茂。そこが「御殿のようにみえた」のは、憧れの 手塚治虫の部屋に入居ができたからだ。

 それからは、不思議な運命に導かれるように、若き漫画家たちがトキワ荘へ続々と入居した。カネはなくても、同じ志を持つ仲間と励まし合うことができた「夢のような」毎日が始まる。

 喜びや悩みを共にする仲間たちとの祭りのような日々。漫画の神様・ 手塚への敬愛や「テラさん」との固い絆、夢と才気で結ばれた同志たち、そして恋愛・・・・・・。「漫画の青春」を育んだトキワ荘での実話をもとに、少年漫画の黎明期を「満賀道雄」の目を通して描いた作品が『愛・・・しりそめし頃に・・・』だ。

藤子不二雄(A) が、「ふたりでひとり」の藤子不二雄(藤子不二雄(A)、藤子・F・不二雄)の漫画家としての成長を描く自伝的創作漫画『まんが道』春雷編(1988年)の続編となる『愛・・・しりそめし頃に・・・』の連載を『ビッグコミックオリジナル』増刊号(小学館)でスタートさせたのは1995年のこと。藤子不二雄(A)が還暦を回ってまもなくの頃だった。

『まんが道』以降の満賀たちの道のりを描くこの作品は、それから18年間連載され、「まんが道」から数えると43年という、 藤子不二雄(A) のまさにライフワークとなる大河ロマン作品となる。

赤塚不二夫の吉報をチューダーで祝った夜

トキワ荘を描いた作品は多い。それらの作品にも“チューダー”は頻繁に登場する“トキワ荘名物”のドリンクで、味のみならず、つくり方を描写している作品もある。 それは、『宝焼酎』をサイダーで割った飲み物で、名前の由来は、ショーチュー(焼酎)の“チュー”にサイダーの“ダー”を足してつくった造語だという。

物語は、1956年(昭和31年)、満賀が21歳の頃から幕を開ける。

 トキワ荘での青春群像から、感動を誘うエピソードをひとつ挙げるなら、作者の藤子不二雄(A)が実話にもとづいて描いた赤塚不二夫の逸話だろう。

 1956年、赤塚は、同人誌仲間の石ノ森とともにトキワ荘へ入居するも、石ノ森の無給のアシスタント兼炊事係に甘んじる日々だった。トキワ荘仲間とのお祭り騒ぎのような毎日のなかで、「描きたい漫画が描けない」焦りに悶々としていた赤塚は、一度は漫画家廃業を決意する。だが、兄貴分テラさんの「もう一回トキワ荘で一緒にやろうじゃないか!」という真摯な励ましで、立ち直る。相棒・石ノ森の好意で、掲載の穴が空いた『漫画王』に念願のギャグ漫画を描くチャンスが訪れた。

 その夜、吉報をわがことのように祝ってくれたのが、同じ志をもつ仲間たちだった。単発のはずが連載になることも決まり、それまでの出遅れが嘘のように、赤塚の快進撃が始まる。初連載が決まった夜、仲間たちが開いてくれたお祝いの宴は、夜更けまで続いた。にぎやかな祝宴の場に、『宝焼酎』をサイダーで割ったトキワ荘名物、チューダーが華を添えたのは言うまでもない。

朝まで消えることがなかったトキワ荘2階の部屋の灯

『愛…しりそめし頃に… 新装版 (2)』P335より抜粋 (ビッグコミックススペシャル)

 仲間の吉事はともに祝福し、連載の人気が低迷して休載の憂き目にあえば「次があるよ」と慰め合う。出版社から依頼された原稿の執筆枚数が能力の限界を超えれば、手の空いている仲間が分担しあい、新人漫画家にとって生命線である締め切りを死守すべく徹夜も辞さなかった。誰もが 手塚治虫に憧れて漫画家になった、手塚の申し子だったから、そんな曲芸のような離れ業もこなせたのだ。

 作中で、何度か繰り返される印象的な場面がある。

 満賀が夜なべ仕事の途次、気分転換にお茶を入れ替えようと湯を沸かしに共同炊事場へと部屋を出ると、寺田、石ノ森、赤塚…どの部屋からも裸電球の灯りが漏れている。「俺もがんばらなくちゃ」。 仲間からそんな心を灯す力をもらったことが、幾度あったろうか。

 執筆の合間には映画館へ連れ立って、少年漫画の滋養分を全身に浴びた。黒澤明監督の名作『用心棒』をともに映画館で見た夜もそうだった。身震いするほどの興奮で寝付かれず、「自分もこんなふうに熱狂させる漫画を描きたい!」と意を決した満賀が部屋に戻ろうとすると、石ノ森、赤塚、才野…全員の部屋の明かりも点いている。ほかの仲間も同じように映画から受けた感動で創作意欲を掻き立てられていたのだ。

 その夜、トキワ荘2階の4つの部屋の灯は朝まで消えることがなかった。ときに語らい、ときにライバル心を燃やして徹夜した夜も数知れない。

宴の席に欠かせない存在となったトキワ荘名物「チューダー」

『愛…しりそめし頃に… 新装版 (2)』P343より抜粋 (ビッグコミックススペシャル)

 トキワ荘の仲間たちを結びつけた絆は漫画だけでなかった。我先にと購入した映写機やテレビがトキワ荘にやってくると、全員が集合しての鑑賞会が始まる。トキワ荘へ通ってくる面々とも連れ立って出かけた富士五湖めぐりの旅や、元実業団選手だったテラさんの活躍によりオンボロ草野球チームの試合も活気を帯びた。

 トキワ荘通い組の仲間が訪ねてくると小宴がはじまる。富士五湖でのキャンプの夜、草野球の試合を終えた慰労の席、苦楽を共に味わう宴の席にトキワ荘名物「チューダー」は欠かせない存在だった。

トキワ荘仲間の兄貴分・テラさんとの別れ

『愛…しりそめし頃に… 新装版 (2)』P344より抜粋 (ビッグコミックススペシャル)

 そんな喧騒の日々にも別れの季節は訪れる。トキワ荘仲間の兄貴分だった寺田ヒロオが独身生活にピリオドをうち、退去する日がやってくる。結婚式が終わり、満賀たちはテラさんのいないこれからのトキワ荘での暮らしに寂しさを募らせる。「いつまでもおれたちの面倒見ていられないよな」「これからは逆におれたちがおかえしをしなきゃ…」。そのとき、石ノ森はこう決意を新たにする。「テラさんへのおかえしはただひとつ!」「ぼくらがテラさんを喜ばすようないい作品を描くこと!」「これしかないんじゃないかと思うよ!」

 心を一つにした同志たちの口から、『上を向いて歩こう』の歌声がこぼれた――。

 多くが高卒で上京し、東京で大人になった彼ら漫画家の卵に、酒豪がいたという話は聞かない。漫画も肉体労働にはちがいないが、酒に溺れるほどの余裕も現実での蹉跌ともまだ無縁な頃だった。

「将来は少年漫画を塗り替える」――。仲間たちと夢を語り、先輩漫画家の良いところや悪いところを議論し合う。トキワ荘の仲間たちの小さな宴はときとして師と仰ぐ 手塚の背中を追いかけ、それぞれの「まんが道」を邁進する新世代の語らいの場となった。

 一騎当千の若者たちの座に、ときに情熱の炎を燃え上がらせる風を送り、悲喜こもごもの人生の機微をも味わう小道具として、その場に寄り添っていたのが、「チューダー」だ。

ちなみにショーチューとサイダーの割合は、1/5対4/5で飲む者もいれば、 『ショーチューひとったらし』で気分良くなれる者もいて、その割合はまちまちだった。いずれにしても、この独自のブレンド方法は、まだ社会に出て間もない若者たちが、飲みやすさを第一に考案したものだった。

 漫画と青春のあいだでたゆたう満賀の揺れ動く心境と漫画家としての成長の軌跡をドラマチックに描く『愛…しりそめし頃に…』でそれぞれのターニングポイントを飾る小道具。トキワ荘仲間の清涼剤であり、お祭り騒ぎのような日々を彩る名脇役が宝焼酎のサイダー割り、「チューダー」だったことは、作者の藤子不二雄(A)の想いをにじませた名作『愛・・・しりそめし頃に・・・』読者の脳裏に、強く刻まれている。

※藤子不二雄(A)の表記は、正しくは藤子不二雄 Ⓐ (丸囲みのA)になります。


このうまさ、百年品質。

宝焼酎の誕生は、大正元年(1912年)。100年を超える長い歴史の中で、私たちがたどり着いたのは、貯蔵技術とブレンド技術でした。
そのすっきりしたまろやかな味わいこそ、「宝焼酎」が一番愛され続けている理由です。
飲み継がれる、おいしさを。今までも、これからも、人生に寄り添うこの味わい。
次の100年へ。その品質を磨き続けます。

「宝焼酎」Webサイトはこちら


取材・文/山田英生   写真提供/豊島区立トキワ荘マンガミュージアム

飲酒は20歳を過ぎてから。飲酒運転は法律で禁止されています。

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