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【もう君はいない】「行ってきます」が永遠の別れ、事故死した妻と悲しみの夜明け~その2~

取材・文/沢木文

結婚当初は他人だった。しかし、25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、死や離婚など、妻と突然の別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。

お話を伺った、北条康夫さん(仮名・62歳・会社経営)の妻が、交通事故で命を落としたのは4年前。

【その1はこちら

世間の常識など意に介さない妻

康夫さんが結婚したいとアピールを続けても、奥様はなかなかなびかなかった。

「子供ができても、結婚に渋っている。妻の両親に説得してもらって、結婚したのです。お義母さんは『ウチの子頑固でゴメンね。昔から”常識”が嫌いなのよ』と。入籍、結婚式、出産まではスムーズで、妻も仕事の規模を縮小。実家の手を借りながら育児しつつ、仕事も細々と続けていた」

しかし、家事も育児もしない康夫さんと奥様はしばしば対立。何も言わずに奥様が実家に行ってしまうことが度々あった。

「彼女はフェアネス(公平)を求めていた。でもこっちは“女がやるもの”だと思っていた。1年くらいは言い争いもしましたが、なんとなく妻が何も言ってこなくなり、関係が落ち着いた。私の方には悪い変化がありました。2人目の子供を流産してしまったあたりから、遊びで浮気を繰り返した。浮気相手が妻のところに怪文書を送ったこともあった。それなのに妻は何も言わなかった。妻に詫びの言葉を言えなかったことも、本当に後悔しています」

お話を伺うほど、奥様の賢さがわかってくる。沈黙は金だと腹の底から感じていたのだ。今も昔も、女性は“妻”の座を得て、それを維持して生活は安定する。それは経済面だけではなく、社会的信用もついてくる。それがあれば、自己実現などいくらでも可能だ。

夫の浮気に大騒ぎする妻の多くは、騒ぎ立てて溜飲は下がるかもしれないが、その後に不利益を被ることが多々ある。夫婦という“社会”において、最終的に“勝ち”となる妻は、鈍さを装い、真実を追求しない傾向がある。人は見栄も張るしウソもつく。そこを徹底して暴こうとせず、鷹揚に構えていたからこそ、康夫さんの奥様は亡くなってから4年間も愛され続けているのではないだろうか。

「そうなんです。たぶん、妻は気付いていた。様々なことに気が付いているのに、言葉にしなかった。妻は突然命を落としてしまったので、支度ができなかったんでしょう。これから遺品の話をしますが、本当にいろいろあったんです。その中には、私が浮気相手の家に出入りしている証拠写真、離婚という言葉も書かれていた、思いのたけを綴った日記など、“我慢の重さ”のようなものを感じるものがありました。なんでもう少し気を配ってあげられなかったのかと思います」

4年前の事故当日、康夫さんは会社にいた。見慣れぬ番号がケータイにかかり、出ると警察だった。「奥さまが事故に遭いました」。相手が何を言っているか全くわからなかった。

「その日は、妻の仕事が直前にキャンセルになった。朝『行ってきます』と言い、いつものように『気を付けてね』と送り出してくれたのが、最後の言葉。妻は自宅で菓子とピクルスを作ろうとしたようで、テーブルの上に道具と材料を出し、足りないものを見つけた妻は、愛用のスクーターに乗り、買い物に出かけた。免許を取ってから40年間、無事故・無違反でした。しかし、その日は、交通標識を見落とし、一方通行を逆走するクルマがいた。それを予想せず慣れた道を走っていた妻は、交差点で出会い頭に命を落としました。医師は即死だったと言っていました。苦しまなくて本当に良かった。それがせめてもの救いです」

【自宅の中に妻の痕跡は残っているが、肝心の本人がいない…次ページに続きます】

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