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日本の児童精神科医学のパイオニア・佐々木正美先生。半世紀以上にわたり、子どもの育ちを見続けながら子育て中の親たちに寄り添ってきた先生の著作や言葉には、子育てだけでなく人生を幸せに生きるための道標がたくさん残されています。この連載では、その珠玉のメッセージを厳選してお届けします。
構成・文/山津京子

「人間のできることの容量」は決まっている。【人生のおさらいをするために――児童精神科医・佐々木正美さんからのメッセージ】

「人間のできることの容量」は決まっている。そう思っていれば人間関係はうまくいきます

子育てにおいても、夫婦関係においても、頭に留めておくべきことは「人間のできることの容量は決まっている」ということです

私たち夫婦には3人の息子がいますが、子育てにおいて妻はどちらかというと、最初は子どもに対してしつけや教育などに関して、厳しく注意をするタイプの母親でした。

けれども、私は精神医学の立場から、子どものありのままを受容する重要性を妻に説いて、子どもたちの言うことを何でも聞いてやりたいと考えていました。だから、子育てにおいてはぶつかることが何度もありました。

ふたりの想いがくい違うとき、いつも頭に留めておいたことは、「人間のできることの容量は決まっている」ということです。

例えば3人の息子たちのうち、さほど勉強をしなくてもテストでいい成績が取れる子もいれば、勉強をしていてもあまりいい成績が取れない子もいましたが、私たちは「あの子は勉強はできるけど、片づけが苦手だね。この子は勉強はできないけれど、絵が上手だね」というように考えて接するようにしてきたのです。

そんなふうに夫婦で話し合うことで、子どものいいところを見逃さず、そして自分だけのものさしにあてはめるような見方にならないよう、ふたりの価値観のバランスを取ってきました。

夫婦の関係も同じです。

お互いできることを認め、できないことや足りないものは補い合う。そういう気持ちでいつも向き合って、何でも話し合ってきました。子育てにおいては、私は理論の部分を担い、妻はそれを実践するというような関係性だったと思います。

もちろん、互いにそれなりの努力や協力をし合ってきたと思います。

しかし、それが特別に苦痛でなくできたということは、やはり相性がよかったからでしょう。妻に対しては年を経るごとに感謝の気持が大きくなるばかりです。

人とふれあうことで、人間は本当の幸福を得ることができます

いまの世の中は人間関係が乏しくなり、人と人とのつながりが薄くなっています。なぜなら、人間関係には、ある種のめんどうな部分があるからです。

しかし、「人間のできることの容量は決まっている」ということを頭に留めて付き合ってみてはいかがでしょう。そうした気持ちさえ持ち続けていれば、多少の行き違いや違和感があっても、互いにうまく乗り越えていけるものです。

一人ひとりが、それぞれ固有の存在価値や意味を持っているのが、社会や民族の基本的要件です。

弱い人がいるから、強い人がいる。愚かな人がいるから、賢い人がいる。これらの両面は、ひとりの人間の中にも共存しながら生きているのです。

誰もが自由に生きられる現代において、自身の殻の中にこもって生きることは簡単です。

しかし、どうか人と付き合う努力をしてみてください。そこから得られるものは、わずらわしさだけでなく、きっとあなたを幸せにするはずです。

81歳になる私にはこれまでさまざまな人々とのさまざまな出会いがありましたが、その一つひとつが大切な思い出となって、自分の人生そのものを構成しているように感じているからです。

自分の人生のどの時代に、どのような人々と、どのような交わり方をしてきたのか――。そのことが人生そのものだということを、いま喜びを持って深く実感しています。

佐々木正美『人生のおさらい 自分の番を生きるということ』佐々木正美(ささき・まさみ)
児童精神科医。1935年、群馬県前橋市生まれ。新潟大学医学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学留学後、国立秩父学園、東京大学、東京女子医科大学、ノースカロライナ大学などにて、子どもの精神医療に従事する。臨床医として仕事をする傍ら、全国の保育園・幼稚園・学校・児童相談所などで勉強会、講演会を半世紀以上にわたりつづけた。2017年没。深い知識と豊富な臨床経験に基づいた育児書は、いまも子育てに悩む多くの親たちの信頼と支持を得ている。『子どもへのまなざし』《正・続・完》(福音館書店)、『育てたように子は育つ』(小学館文庫)、『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。

『人生のおさらい 自分の番を生きるということ』
著/佐々木正美 書/相田みつを 監/相田一人 小学館刊
人生のおさらい 自分の番を生きるということ
佐々木正美が語る幸せな人生のしめくくり方

癒やしの精神科医が、81歳を迎えた自身の人生を振り返りながら、人生の終盤をいかに生きるかを、相田みつをの言葉と書にのせて綴る。
巻末には、相田みつを美術館館長が語る「父・相田みつをと佐々木正美さん」を収録。

詳しい情報はこちら

構成・文/山津京子(やまつ・きょうこ)
フリーランス・ライター&編集者。出版社勤務を経て、現在に至る。主に育児・食と旅の記事を担当。佐々木正美氏とは取材を通して20年余りの交流があり、『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)、『人生のおさらい 自分の番を生きるということ』(小学館)の構成を手掛けた。

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