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日本の児童精神科医学のパイオニア・佐々木正美先生。半世紀以上にわたり、子どもの育ちを見続けながら子育て中の親たちに寄り添ってきた先生の著作や言葉には、子育てだけでなく人生を幸せに生きるための道標がたくさん残されています。この連載では、その珠玉のメッセージを厳選してお届けします。
構成・文/山津京子

誰もが悩みは尽きません。【人生のおさらいをするために――児童精神科医・佐々木正美さんからのメッセージ】

誰もが悩みは尽きません。でも、だからこそ健全に生きていけるのです

ストレスがないのは、感情がないのと一緒。ある程度はあったほうがいいものです

健全な生活を営むうえでは、ストレスはないほうがいいと思う方が多いでしょう。

しかし、心理学的にはストレスは人間にとって適度にあったほうがいいものです。

ストレスがゼロだということは、いわば感情がないのと一緒です。人と交わり、喜怒哀楽という感情が生まれるからこそ、ストレスというのは生じるからです。

その一方で、健全な生活を送るうえでは、そうして発生したストレスを溜めないことも必要です。

なぜなら、ストレスを解消しないで心の中に溜め込んでしまうと、病気になってしまうからです。精神科医の私のところへやってくる患者さんは、そういった過度のストレスが原因の人がほとんどでした。

では、どうやってストレスは解消したらいいのか。

それは、ストレスが生まれた人間関係とは異なる、別の人と交わりを持つことで解消すればいいのです。

人間関係のストレスは、人間関係によって癒されます

簡単にいうと、ひとつの人間関係の中で生まれたつらいことや苦しいことは、その人間関係とは異なる仲間に「愚痴」を言えばいいのです。

私の家族は祝い事にあまり興味がありません。

息子たちが学校などで良い成績をあげたり、入試に受かったり、賞を取ったりしても、あまりお祝いをしませんでした。家族みんなで「おめでとう」と言うくらいです。

その代わりに、家族が不幸や失敗、悲しみなどに陥ったときには、みんなで力を合わせて救済する習慣があります。

例え、その失敗が本人の不心得によるものであっても、批判や非難をせず、当事者の苦しみや悲しみを和らげ、解消するために協力し合うことをいちばんに考え、接してきました。

そして、そのようにお互いを支え合うことを繰り返すたびに、家族の絆が深まってきたように思います。

社会生活を営むうえでは、人は心地よい人間関係の中だけに、身をおいて生きることはできません。だから、苦手な人と出会ったときのために、複数の違った人間関係を営んでおくことがとても大切です。

例えば会社の上司や取引先との人間関係で悩んだら、家族や友人に愚痴を言うことができれば、その悩みが解消されなくても心は癒されるのです。

幸せになるために、いまこそ人間関係を育むことが必要です

もうずいぶん前のことです。

京都で学会があった際に、海外から訪れた友人の教授にそれを象徴する事実を指摘されました。

「日本のビジネスマンは休日も取らず、朝から夜遅くまで働いてきて、いつ癒やされるのだろうと思っていましたが、その秘密がわかりました。夜のクラブや居酒屋で女性たちに愚痴を聞いてもらっているのですね」

この言葉は冗談半分に言ったものですが、当っている部分が多いように思います。

人間関係が希薄ないまの日本は、ストレスを生み出すだけの社会になってしまっている気がします。人との親密性は失われ、ストレスが癒されないまま、じりじりと大きくなっているからです。

私たちはいまこそ人間関係を取り戻さなければなりません。人間の幸福度の高さや質というのは、人間関係に比例するといっても過言ではありません。

佐々木正美『人生のおさらい 自分の番を生きるということ』佐々木正美(ささき・まさみ)
児童精神科医。1935年、群馬県前橋市生まれ。新潟大学医学部卒業。ブリティッシュ・コロンビア大学留学後、国立秩父学園、東京大学、東京女子医科大学、ノースカロライナ大学などにて、子どもの精神医療に従事する。臨床医として仕事をする傍ら、全国の保育園・幼稚園・学校・児童相談所などで勉強会、講演会を半世紀以上にわたりつづけた。2017年没。深い知識と豊富な臨床経験に基づいた育児書は、いまも子育てに悩む多くの親たちの信頼と支持を得ている。『子どもへのまなざし』《正・続・完》(福音館書店)、『育てたように子は育つ』(小学館文庫)、『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)など著書多数。

『人生のおさらい 自分の番を生きるということ』
著/佐々木正美 書/相田みつを 監/相田一人 小学館刊
人生のおさらい 自分の番を生きるということ
佐々木正美が語る幸せな人生のしめくくり方

癒やしの精神科医が、81歳を迎えた自身の人生を振り返りながら、人生の終盤をいかに生きるかを、相田みつをの言葉と書にのせて綴る。
巻末には、相田みつを美術館館長が語る「父・相田みつをと佐々木正美さん」を収録。

詳しい情報はこちら

構成・文/山津京子(やまつ・きょうこ)
フリーランス・ライター&編集者。出版社勤務を経て、現在に至る。主に育児・食と旅の記事を担当。佐々木正美氏とは取材を通して20年余りの交流があり、『ひとり親でも子どもは健全に育ちます』(小学館)、『人生のおさらい 自分の番を生きるということ』(小学館)の構成を手掛けた。

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