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【最後の恋】裏切り続けた日々。妻を乳がんで亡くした男性の後悔

取材・文/沢木文

仕事、そして男としての引退を意識する“アラウンド還暦”の男性。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻も子供もいる彼らの、秘めた恋を紹介する。

今回、お話を伺ったのは大山尚次さん(仮名・60歳)。現在、医療機器関連の小さな会社を経営している。出身は東京都の八王子市、日本で一番大きい大学を卒業した後、専門商社に入社し、40歳の時に上司と独立し、起業をした。

「会社を起業したきっかけは、家族との時間が一切取れなかったから。今みたいに、ワークライフバランスという言葉もないし、そんなことを言っていたらクビになっている時代だったから」

独立して自由になるかと思ったら、そうではなかった。会社は成長し、海外出張で世界を飛び回る日々が始まった。

「当時はホントに華やかだったよ。ドイツとアメリカ、スイスに行くことが多かったんだけれど、夜になると取引先の女性や、通訳の女性のほうから、私の部屋を訪ねてきた。こっちも若かったし、時代背景的に“数を競う”という文化があったから、“来るもの拒まず去る者追わず”を地でいっていた」

大山さんは、背も高くないし、容姿が特別整っているわけではない。頭髪も少し寂しくなっており、お腹も少し出ているといういわゆる普通の還暦の男性だ。しかし、彼はスーツを着こなすのが上手い。いつもアイロンがかかったシャツを着ており、爪を切りそろえ、ひげもきちんと剃っている。体臭もほどんどしない。いつ会っても清潔な人なのだ。

「意識したことはないけれど、清潔好きかもしれないね。シャワーは朝と夜に1日2回浴びているし、シャツやポロシャツは1回袖を通したら、きちんとクリーニングに出している。ウチの社員でも、クリーニング代を惜しんで、シャツを2回着るという男がいるんだけど、アレはいただけないよね。でも、1年前に女房が突然死んでしまってからは、汚れるに任せていた。何もする気が起きなかった」

大山さんの妻は56歳で乳がんで亡くなった。亡くなる直前まで人材派遣会社で働いていたという。

「言われてからはあっと言う間だった。大学の同級生なんだけれど、当時からすごく我慢強い人だったし、自分の健康に自信を持っていたんだ。余命宣言されてから、亡くなるまで4か月くらいだったかな。いろんなところに行ったけれど、あれよあれよと悪くなっていって、気が付けばお葬式だったんだよね。息子の嫁さんが臨月でね、息子は“孫を見せたかった”っておいおい泣いていたよ。でも遠い世界の話みたいに聞こえた。今だから言えるけれど、“俺の大事な女房が死んだんだぞ、オマエの子供なんかどうだっていいんだ”と心の中で叫んでいた。男って弱いよね、どうしていいかわかんなくなっちゃうんだから」

とはいえ、大山さんは特別に愛妻家だったわけではない。結婚30年の間に、気が向くままに浮気をしていたという。

「家族と恋愛は違う。家族はそれぞれが自立してひとつの社会を作る。助け合い、責任を取り合うのが家族だよ。恋愛は互いに依存し合ったり、いいところを見せ合ったりするものだ。楽しい時間だけを一緒に過ごして責任を互いにとらない。女房は割と華やかで楽しい人だからモテたと思う。夫婦という関係を考えると、息子が10歳くらいのときには終わっていたね。最初は月に1回から、3か月に1回になって、盆暮れ正月になって……と体の関係が終わるにつれて、夫婦の結束は固まるんだよ」

奥様がいつも近くにいて、あれこれ世話を焼いてくれるから、30年間、ストレスがない結婚生活を過ごした。

「“感謝”なんて言葉では表せない。女房は毎日ご飯を作って、掃除して、仕事に行って、風呂や家の掃除をすることをはじめとして、俺や息子が快適に過ごせるように世話を焼いてくれていた。女房が死んでから、日々の家事に使う労力、ベッドのシーツを週に1回洗うことがどれだけ大変かがわかった。それに、ハンカチが畳まれて引き出しに入っていることのありがたさもわかった」

後編へ続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。

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