NHK『日曜討論』ほか数々のメディアに出演し、シニア世代の生き方について持論を展開するライフ&キャリア研究家の楠木新さん(69歳)。人生100年時代を楽しみ尽くすためには、「定年後」だけでなく、「75歳からの生き方」も想定しておく必要があると説きます。楠木さんが10年、500人以上の高齢者に取材を重ねて見えてきた、豊かな晩年のあり方について紹介します。

ひとりでいる時間も大切にしたい

私は60歳で定年退職した後の3か月間、定年退職者と思しき人がどこでどんな活動をしているかのウォッチングをいろいろな場所で続けました。

地域の図書館、公民館、ハローワーク、スポーツクラブ、公園、スーパー銭湯、銀行や証券会社の窓口、都心のにぎやかな通り、書店、喫茶店、ネットカフェ、理髪店、百貨店、映画館、カラオケボックス、パチンコ店など、定年退職者が立ち寄ると思われる場所に足を運んで彼らの観察に没頭していました。

そこで気がついたのは、男性はひとりで過ごしていることが多く、女性は家族やグループで活動しているケースが多いということです。特に大手ハンバーガーショップの午前中は、年配男性がひとりでコーヒーを飲んでいる姿をよく見かけました。

「私も定年になりましたが、最近リタイアされたのですか?」と聞いてみると「昨年退職して、時々、来ています」といったやり取りからいろいろな会話に発展することもありました。席と席との間が狭いので、知らない者同士はかえって話しやすかったことを覚えています。午後になれば高齢の男性グループがカフェなどで話している姿を見かけましたが、それは希なケースです。

カルチャースクールの講座も覗いてみましたが、高齢の女性が雑談を交えて楽しそうにしているのに対して、男性はひとりで話を聞いている人が多かったのが印象的です。ひとりで過ごすこと自体に何の問題もありません。どちらかといえば、私もひとりで過ごす方が居心地は良いです。仲間がいないからではなく、自分の時間を気持ちよく過ごしたいからひとりでいるだけです。「組織の一員でありたい」という心情と「ひとりでいたい」気持ちは何ら矛盾するものではありません。

ひとりで何かに没頭する、自分の時間を確保するためにひとりでいることは、年齢を問わず、大切にしたいものです。

会社愛が強かった人ほど孤立する

しかし、一部には会社組織を離れたことによって、人間関係のつながりのすべてが切れたのではないかと思わざるを得ない人もいました。そのような人たちの特徴として、新たな対人関係がうまく築けず、些細なことでキレてしまうことがあります。

街を観察しながら歩いている時によく、大きな声で店員を怒鳴ったり、クレームを付けたりしている姿を見かけました。喫茶店でダストボックスに飲料を捨てる時に、開閉がうまくいかなかったのか、残った水が飛び散ったと怒っている高齢の男性がいました。彼はアルバイトの若い女性に延々と文句を言っていました。

私鉄のサービスセンターでは、私と同年代の男性が駅員に食ってかかっていました。詳しい内容はわかりませんでしたが、駅員を怒鳴り散らして、「それが書いてある約款をここに出せ」などと大変な剣幕でした。

また企業の顧客対応の責任者は、何度も苦情を申し出る顧客のなかに自社のOBがいると語っていました。別のメーカーの人事担当者は年に1回の退職者懇談会でOBから小言や説教めいた要望を聞くのが憂鬱で仕方がないと言います。上司の現役役員は先輩であるOBたちを相手にしたくないので、双方の間にはさまって苦労するのだそうです。

彼らは、本気でクレームをつけたいというよりも、日々の生活のなかで充実感を得ていないだけなのかもしれません。今までは組織のメンバーであるという意識が自らの行動を自制していました。ところが、組織から離れて人間関係のつながりを失ったことが、クレームという行動の一因になっているように思われます。

「孤独」は意味があっても、人とのつながりを失う「孤立」は避けなければなりません。会社の仕事中心で働き、会社愛が強い人ほど新たな対人関係を築くことを意識する必要がありそうです。

* * *

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楠木新(くすのき・あらた)
1954年、神戸市生まれ。1979年、京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長などを経験する。在職中から取材・執筆活動に取り組み、多数の著書を出版する。2015年、定年退職。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務める。現在は、楠木ライフ&キャリア研究所代表として、新たな生き方や働き方の取材を続けながら、執筆などに励む。著書に、25万部超えの『定年後』『定年後のお金』『転身力』(以上、中公新書)、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『自分が喜ぶように、働けばいい。』(東洋経済新報社)など多数。

 

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