NHK『日曜討論』ほか数々のメディアに出演し、シニア世代の生き方について持論を展開するライフ&キャリア研究家の楠木新さん(69歳)。人生100年時代を楽しみ尽くすためには、「定年後」だけでなく、「75歳からの生き方」も想定しておく必要があると説きます。楠木さんが10年、500人以上の高齢者に取材を重ねて見えてきた、豊かな晩年のあり方について紹介します。

文/楠木新

70代から人脈を築ける5つの分野

長く同じ会社で働いていた人たちが仕事を辞めた時には、大きな変化が起こります。収入の額が減少することで不安を感じる人や、自分の時間の使い方にとまどう人もいます。

明確に意識しづらいのですが、もう一つあるのは人とのつながりの変化です。退職することによって付き合う人も変わるので、人との関係を再構築する必要があります。ところがこの切り替えがうまくいかないことが多々あります。

特に仕事中心で生きてきた、いわば出世争いを勝ち抜いてきた人ほど、今までの濃密すぎる仕事上の人間関係が足かせになることが多いのです。

取材を繰り返すなかで、新たに人とのつながりを築く分野として、概ね次の5つのパターンが多いことに気づきました。
1.小商い
2.組織で働く
3.趣味に生きる
4.地域活動やボランティア
5.学び直し

「小商い」とは身の丈に合った起業のことです。新たに人を雇うなどの大きな事業ではなく、一人で立ち上げる個人レベルの商売が中心です。今までの経験を活かした保険代理店での自立や、営業代行の会社の立ち上げ、個人事業主として執筆や講演に取り組む、ネイルアートで独立した女性もいました。60代までに得たキャリアやスキルを使って70代以降も活躍している人が大半です。

次に、「組織で働く」とは、定年前の職場で引き続き働く人や、定年後に新たな組織で働く人です。雇用の形態は、大半は正社員ではなく、いわゆる業務委託や派遣社員、パートタイムになります。

「趣味に生きる」とは、趣味や特技で自分を活かすことです。これまでに紹介してきたように、子どもの頃から好きだったもの作りや楽器の演奏、剣道や卓球などの趣味を活かしている人は元気に活動しています。大好きなミステリー小説さえあれば、無人島で暮らすのも平気だと語る人もいます。

「地域活動やボランティア」については、ご存じの方は意外と少ないのですが、どんな地域にも多様な活動機会が用意されています。地域活動というと自治会の役員くらいしか頭に浮かばない人も多いのですが、公的な施設に行ってみると、いろいろな団体のチラシなどが置いてあります。初めは見学だけでも良いので、ぜひいろいろな場所に足を運んで実際に体感してみてください。

「学び直し」についても、地域の生涯学習センターに行くと、仲間もできて、イキイキと学んでいる姿が印象的です。学ぶことはコミュニケーションや人とのつながりを得やすい活動であると実感しています。年を経てからでも取り組めることも特長です。

居場所を見つけることが人とつながることであり、人とつながることが居場所を見つけることでもあると、総括できそうです。

65歳を超えると、朝から夕刻まで週に5日フルタイムで働くことは簡単ではなくなってきます。仕事だけに生きる、趣味だけして過ごすというのではなく、週に3日働いて週1日ボランティアをする。趣味を活かした活動を週2日と、それにプラスして、学びを週1日入れるとか、いくつか組み合わせ、充実した時間を過ごすという選択肢もあります。柔道でいう「合わせ技一本」という感じでしょうか。

私の取材に対して、「70代になっても週に1日2日は何かに拘束される機会を持つことが必要だ」と話す人がいました。お金を稼ぐという目的だけではなく、働くことで得られる刺激や出会いが元気の源にもなっているそうです。

できるだけ多層的なつながりを目指す

定年後の難しいことの一つでもありますが、それまで会社関係中心だった人間関係がなくなるので、新たに頼れる人とのつながりを確保することが必要です。ここでいうつながりは、人と人との緩やかな相互扶助や互いに精神的なよりどころになる関係という意味です。会社に代わる、新たなコミュニティーとでも呼ぶべき存在です。

会社にしか頼れるコミュニティーがないので、そこを離脱すると、帰属する共同体を一気に失ってしまう人は多いものです。また、それが一つしかなく、必要以上に組織に縛られて行動している人も少なくありません。

私自身もその束縛を不自由に感じて何とかしないといけないと思ったがゆえに、会社を長期に休職した経験があります。幸い会社との関係が一旦途切れたことがきっかけで、社会人の大学院における同級生との出会いや、著述業を通じた社外の仲間とのつながりが生まれました。

社会的、経済的にも、定年後は、自らの属するコミュニティーをどのようにして形成していくかが大きな課題になります。家族や地域といった旧来の共同体のみならず、その代替の機能を果たしてきた会社組織も昨今は弱体化しています。その意味では、この課題はシニア世代だけが対象ではありません。

新たな人間関係やつながりを構築する時には、できるだけ多層的に帰属する人たちとのつながりをつくりたいものです。どんなに濃密であろうと、たった一つだけでは、それを失った時に関係がすべて途切れてしまうことにもなりかねません。

本章の冒頭の5つの分野をもう一度思い起こしてみてください。

一緒に働いている組織の同僚や、気持ち良く語り合える同じ趣味のメンバー、一緒に活動しているボランティア仲間、ともに学んでいる人たちは皆、新たな対象です。繰り返しになりますが、これは新たな居場所づくりにもつながります。

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楠木新(くすのき・あらた)
1954年、神戸市生まれ。1979年、京都大学法学部卒業後、生命保険会社に入社。人事・労務関係を中心に経営企画、支社長などを経験する。在職中から取材・執筆活動に取り組み、多数の著書を出版する。2015年、定年退職。2018年から4年間、神戸松蔭女子学院大学教授を務める。現在は、楠木ライフ&キャリア研究所代表として、新たな生き方や働き方の取材を続けながら、執筆などに励む。著書に、25万部超えの『定年後』『定年後のお金』『転身力』(以上、中公新書)、『人事部は見ている。』(日経プレミアシリーズ)、『定年後の居場所』(朝日新書)、『自分が喜ぶように、働けばいい。』(東洋経済新報社)など多数。

 

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