家庭内暴力を一切しない理由とは

長男は警察沙汰になったことも何度かある。

「それが原因で、主人も60歳で定年になりました。本来なら、役員になったってよかったのに、部長どまりだったのは、長男がいたからです。同じ大学の同期たちが役員や取締役になっているのを知るたびに、“私が長男を生まなければ”と責めていました。もう言ってしまいますが、長女がこっち(日本)に帰ってこないのも、長男に足を引っ張られるのを恐れているから。次女がああなってしまったのも、長男が理由で学校でいじめに遭ったからなんです」

長女は早々に地元を離れ、名門私立中学校に進学した。しかし、次女は滑り止めさえ落ちた。

「長男は小学校時代から問題児で、中学に入ってからは地元の半グレ集団に出入りするようになった。家庭内暴力をしないのは、父親への恐怖心があるからです。長男が幼いころに、“腐った根性を叩きなおす”と、主人はかなりの“教育”をしていました」

内容を聞くと、幼い我が子に行うことではない。もしかすると、命を落としているかもしれないというレベルだった。

「私が助けようとすると、“お前が甘やかすからこいつが腐る”と。娘たちは優しいパパが、弟だけにはなぜそうするのかわからない。長女は長男の叫び声を聞きたくないために、勉強に励んでいました。次女は友達の家に入り浸っていた」

長男にとって、父親は幼いころに“絶対的暴力者”と記憶に強烈に叩き込まれている。だから、両親には手を上げない。

「悲しいですよね。かわいそうですよね。私も今“なんであのとき、長男を連れて離婚しなかったんだ”と思いますが、離婚は出世に関わりますし、私も仕事をしていなかったので、できませんでした。その後は、長男は家から出たり入ったり。数年間、帰ってこないこともあれば、気が付けば家にいたり」

仕事は何をしているかわからない。ただ、妙に羽振りがいいこともあれば、陽子さんの財布から、数万円、数千円とお金を抜き取っている気配があることも記憶にあるという。

「長男が暴力沙汰になるたびに、相手の方への示談金、弁護士費用などを支払っていて、私が両親から受け継いだ財産はすっからかんです。世の中の人って、子供が不祥事を起こすと“母親の育て方が悪い”と言うことが多く、傷つきました。今、のびのびと子育てをしている人を見ると、私も夫の意見を気にせず、そうしておけばよかったと思うんですけどね」

陽子さんがコンビニのバイトで稼ぐ額は13万円。10万円は次女に、3万円が光熱費になる。今は夫の遺産や、その他の資産運用の収入もあるので何とかなっているが、それも今後は危ういと考えている。しかし、打つ手は思いつかない。

「長男も次女も私が死んだらどうなるのかと思います。“私に迷惑が掛からないようにしてよ!”と長女によく言われるのですが、その口調が主人に似ていて驚くことがあります」

陽子さんと夫、それぞれの実家の富を、子供たちが食べつくしていく。その原因は何なのか、考えることはとっくに辞めたと語っていた。

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』 『不倫女子のリアル』(ともに小学館新書)がある。連載に、 教育雑誌『みんなの教育技術』(小学館)、Webサイト『現代ビジネス』(講談社)、『Domani.jp』(小学館)などがある。『女性セブン』(小学館)、『週刊朝日』(朝日新聞出版)などに寄稿している。

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