妻は「初めて」ではなかった

24歳の時に、博史さんは上司から同じ年の女性を紹介される。関連会社の事務員をしている女性だ。都内の女子短大を優秀な成績で卒業した女性だという。その出会いから一年後、45年間連れ添う妻になった。

「神田のビアホールで、初めて会った。地味で真面目だというのが第一印象。レモン色のワンピースを着ていた。どれだけ飲んでも顔色が変わらなくて。僕は酒が弱いからさ。何かを食べたときの箸の持ち方がキレイでハッとした」

その後、彼女のほうから積極的にデートに誘ってきた。映画を観て、銀座や上野の街を歩き、彼女がリードするように不忍池でキスをして、湯島の旅館に泊まった。

「僕は勉強と仕事ばかりしていたし、女性への興味は人並み以下だったと思う。彼女は慣れていた感じがあった。まあ、無様だったけど、彼女は受け入れてくれて、そのまま流れるように結婚した。式はウチの会社の共済組合が加盟している宴会場だった。上司と同僚が参加して、僕は紋付着て、妻は綿帽子をかぶってね。地味な花嫁だねって陰口も聞こえたけれど、僕にとっては最高の妻だった。僕の両親がオマール海老を始めて食べて感動していた。妻は寿退職をして、すぐに息子が生まれた。本当に彼女は僕にも、離れて住んでいる僕の両親にも尽くしてくれた。そういう時代だったんだけれど、妻は完璧だった」

博史さんの会社員生活は順風満帆だった。

「これは亡くなってわかったことだけれど、妻が支えてくれたからだと思う。家に帰れば、食事と風呂があり、息子たちが丸々としたほっぺたをして寝ている。部下を泊めさせても、何も言わない。“そこにいて、当たり前”が45年間続いた。ケンカらしいことは一度もしたことがなかったけれど、特になんの感謝の言葉を言ったこともなかった。それが悔しいよね」

だからこそ、やり残したことがあったからこそ、妻の死が受け入れられないのだという。

【妻が亡くなった後の心のスキマを埋めたのは、ネットで知り合った40代の女性だった。その2に続きます】

取材・文/沢木文
1976年東京都足立区生まれ。大学在学中よりファッション雑誌の編集に携わる。恋愛、結婚、出産などをテーマとした記事を担当。著書に『貧困女子のリアル』『不倫女子のリアル』(小学館新書)がある。

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