取材・文/沢木文

結婚25年の銀婚式を迎えるころに、夫にとって妻は“自分の分身”になっている。本連載では、『不倫女子のリアル』(小学館新書)などの著書がある沢木文が、妻の秘密を知り、“それまでの”妻との別れを経験した男性にインタビューし、彼らの悲しみの本質をひも解いていく。

* * *

弟妹のために大学進学をあきらめた

今回、お話を伺った、大里博史さん(仮名・73歳)。彼の同じ年の妻は、3年前にガンで亡くなった。結婚45年、2人の息子を育て、いつも一緒にいてくれた妻が先にあの世に行ってしまう。現実が受け入れられず、今も仏壇には線香をあげていないし、墓参りもしていないという。

「妻はもう死んでいる。この世にはいないとわかっていても、仏壇に手を合わせたり、墓に参ったりしてしまっては、妻の死を受け入れることになってしまう。それがどうしてもできないんだよね」

博史さんは、東海地方の県立高校をトップの成績で卒業し、大手電機メーカーの工員として就職した。

「高校の先生は、“大里なら国立に行ける”と言ってくれたし、学費を出してくれるという人もいた。でも、私は妹や弟、病気がちの両親を養わなくてはならなかった。進学を断念するのは私たちの時代にはよくある話で、それに対してはなんとも思わなかった。でも、高校の先生がそんな私を哀れに思ったのだろうね。夜学に通わせてくれる大手企業に就職をさせてくれた」

勤務は東京で、社員寮も完備されていた。博史さんは20歳から私立大学の夜間大学に通い、4年で卒業した。

「いい時代だったと思います。今だったら“貧困だ、自己責任だ”と言われて切り捨てられていたけれど、努力をして、頑張っていれば報われたと思う。学卒(4年制大学卒業)になると、現場から事務方に回って、僕は専門的な知識を持っていたので、専門分野のエキスパートになった。高卒採用で部長までいったのは、僕だけだと思う」

24歳まで仕事と勉強に明け暮れた。

「オヤジが復員兵だったこともあって、体も弱くなってしまい、発作的に叫んだり私やおふくろを殴ったりして、戦争の爪痕を感じたよね。やっぱり戦争はろくでもないもんだよね。僕は平和な時代に生まれたから、きちんと仕事をしたいと思った」

【上司に進められるまま、結婚した妻と穏やかな45年間。次ページに続きます】

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